※この記事は2022年03月29日にBLOGOSで公開されたものです

値上げを発表したユニクロ、しまむらに勝機はあるか

リーマンショック以降、毎年のようにアジア地区の工場の人件費上昇は続いてきました。また年度によって異なりますが、原料の高騰もありました。

そのため、2009年以降ずっと衣料品業界では「価格の現状維持は難しい。値上げする必要性がある」と言われ続けてきたのですが、各社の企業努力によって、価格はほとんど上昇することなく、2020年まで過ごしてきました。

しかし、2021年以降はここに燃料費の高騰や輸送費の高騰も加わり、いよいよ国内の衣料品も値上げせざるを得ないという状況になってきました。

値上げをすれば概して売れにくくなることが予想されます。いくら値上げしたところで、売れ残れば結局は値下げして処分販売せねばなりませんから、最終的にはあまり意味がなかったと言われるブランドも数多く出てくることになるでしょう。

その一方で、値上げをせずに価格維持を発表しているブランドもあります。競合他社の裏をかくというのは商売の定石ですから、それも選択肢の一つといえます。しかし、洋服というものは値上げしなかったからと言って必ず売れるとは限りません。

安くても売れない物は売れないということは、バーゲン最終週でも売れ残った格安値下げ商品を見れば、お分かりになることでしょう。今回は、現在発表されている各社の価格戦略とそれが奏功するかどうかについて考えてみたいと思います。

現在、値上げを発表しているのは、ユニクロ、しまむらの2ブランドで、増税後も価格据え置きを発表しているのは無印良品とワークマンとなり、いずれも低価格衣料品分野の雄と言える巨大ブランドです。

もちろん巨大ブランドですから、小規模零細ブランドとは異なり、資金力に物を言わせてさまざまな資料を取り寄せて検討した結果だろうと考えられますが、どちらが成功するとは一概に言えないと思って眺めております。

ユニクロの業績に陰り?苦戦予想も

まず、値上げ組から見てみましょう。値上げを表明したユニクロは、これまで衣料品業界では無敵の強さを誇ってきましたが、2021年後半からその強さにも陰りが見え始めています。

すぐさま経営基盤が揺らいだり、店舗が大量閉鎖されたりということは全く考えられませんが、これまでのような売れ行きではなくなりつつあります。2022年2月の月次速報も発表されましたが、前年比14・0%減と7か月連続での国内既存店売上高の前年割れに終わっています。

経済系のメディアでも取り違えている場合があるのですが、新店を加えた全店売上高が増えていてもあまり意味がないのです。

なぜなら、売上高は新規店舗を出せば出すほど増えやすいからです。どんなに売れない店でも1日に1000円くらいは売れますから、採算を度外視して店舗数を増やせば増やすほど全店売上高は増えやすくなります。

一方、その店が支持されているかどうかは既存店売上高がバロメーターとなります。去年と変わらず売れているなら堅調、伸びているなら好調ですし、大幅に下がっているなら顧客から見放されつつあるということになります。

ユニクロは半年以上続けて既存店売上高が前年割れしていますから、往年の勢いには陰りが見え始めてきたということになります。そこで値上げを発表しているわけですから、苦戦が予想されないはずはありません。

現に2014年、2015年には値上げを発表しましたが、売上高が大幅減少したので撤回しています。逆に2019年10月の消費増税のタイミングにおいて内税方式に切り替えて値段を据え置き、実質9%の値下げを果たして好調となりました。

今回の値上げは何品番かに絞って行うようですが、苦戦することが予想されます。

一方、コロナ禍で復活したしまむらですが、こちらも値上げは予断を許さないと思うのです。しかしながら、基本的にユニクロよりも下の価格帯でジーユーと競合するので、顧客からすると許容範囲内と映るのではないかと思います。

コロナのデルタ株が昨年秋に落ち着いたので、しまむら以外の各社も復活するかと思われましたが、今年1月からのオミクロン株拡大で、緊急事態宣言が出ていないにもかかわらず、都心の人通りは目に見えて減っています。郊外のロードサイド路面店が多いしまむらにとって、順風が続いていると言えるのではないでしょうか。

衣料品の売り上げを食料品でカバーする無印良品

今度は価格据え置き組ですが、無印良品とワークマンでは明らかに勢いに差があります。

まず無印良品については、決算では好調と伝えられていますが、部門別に見ると衣料品は前年割れを続けています。決算が好調な理由は衣料品の落ち込みを食料品の伸びがカバーしているからということです。

そして、これまで無印良品はその不調な衣料品をメインに何度も値下げしてきましたが、売れ行きは一向に上向きません。

今回は世間の値上げムードとは逆に価格据え置きを打ち出しましたが、衣料品の売れ行きは恐らく過去の値下げと同様に上向かないと考えられます。

2022年の春夏衣料品の企画内容は今の店頭からは把握しづらいですが、2021年秋冬物の延長線上であるなら、かなり売れにくいと思います。

一例で言うと日本では茶色ベースの服が売れにくいのに、21年秋冬物は、ユニクロやジーユーなどの他社低価格ブランドと比べて茶色ベースの服の品番数・枚数が多すぎて値下げされていても大量に売れ残っています。

同じような考え方で企画をするなら、値段に関係なく、春夏物も大量に売れ残ることが予想されます。

自社製品6割、ワークマンの勢いはしばらく続く

逆にワークマンは、今、低価格市場では最も売れ行きに勢いがあると感じられます。12月下旬からの寒波襲来で、防寒用品は実店舗、ネット通販ともにほとんど完売してしまっていることもあるようです。

ワークマンの特色は、ユニクロよりも高機能で低価格なところにあります。カジュアル服として見た場合、デザイン性はまだまだ野暮ったい物が多く、同時にガチの作業服も多くあり完全なカジュアルブランドとは呼べません。

ユニクロに取って代わるのはまだ無理だと思われますが、例えば防水透湿ブルゾンはユニクロよりも高機能で低価格、防水スノーブーツは低価格なうえにユニクロにもジーユーにもしまむらにも存在しない高機能商品で、その部分には圧倒的な強みがあります。

また中綿入り防寒ブルゾン類もユニクロよりも圧倒的に安く、衣料品へのデザインの好みがうるさくないマス層はこちらを選ぶ人が多いでしょう。

ワークマンはあまり言及されませんが、元々は仕入れ型専門店で現在でも4割は仕入れ品、自社製品は6割です。この4割についてはメーカーによる値上げはあり得るでしょうが、自社製品は据え置くとのことなので勢いは続きそうです。

ただし、ワークマンのビジネスモデルの観点から見ると、カジュアルウェア事業を展開することには懸念が残る部分が多くあります。店舗の約95%がフランチャイズ店というところ、そして新商品の企画投入サイクルが作業服業界に準拠した3年前後という長さです。

カジュアルでこの長さはあり得ません。直近の売れ行き自体は好調が続くでしょうが、中長期的にこの体制を維持したままカジュアル分野で売上規模を拡大し続けられるかは相当に疑問です。

安いだけでは売れず…商品内容と価格のバランスが重要

衣料品ビジネスというのは、値段が下がれば売れやすくなるとはいえ、商品内容(デザイン、機能性、シルエットなど)が伴わなければいくら安くても売れませんし、商品内容と販促手法が良ければ少々値上げしても売れます。

価格というのはバロメーターの一つにはなり得ますが、絶対的指標とはなり得ません。また商品内容が良ければ必ず売れるというワケでもありません。商品内容と価格のバランスが重要(それ以外の要素も必要)なのです。

現在の商況とブランドの醸し出している雰囲気や商品内容を加味して考えると、値上げ組のユニクロは苦戦、しまむらは堅調もしくは好調、価格据え置き組では、無印良品は引き続き衣料品苦戦、ワークマン好調、という個人的予想となります。

2022年以降の国内衣料品業界は、ユニクロへの圧倒的な支持が陰り続けて行くことになると見ています。