料理研究家の大原千鶴さんは、暮らしのなかでさまざまな工夫をしています。子育てを終えて、50代半ばになった今がいちばん楽しいという大原さん。生活を心地よく過ごすコツ、今の生活との向き合い方についてお聞きしました。

大原千鶴さんの食への思い。「食材はおいしいうちに処理をしましょう」

●食事づくりは「ついで」を駆使して手間なくおいしく

「自然でおいしいものをいかに手間なく無駄なくルーティンで食べられるか、ということがテーマだと思っています。お米も本当は2時間ぐらい吸水したほうがおいしいんですけど、余裕がないとできないもの。タイマーをつけておくと、夏は水の温度が高いから不安だったりもしますし。でも、冷蔵庫で吸水しきったものを炊くとよりおいしい。出汁も、水で出すほうが味にばらつきがなくて、おいしいのです。

ついで切りも、例えばキャベツ1玉のうち半分を今日の野菜炒めに、残り半分は後日使うために切っておけば、まな板や包丁を出したり、キッチン周りを拭いたり、ということは1回で済むじゃないですか。そういう小さな積み重ねが家事だから、それをまとめていくことで、気持ちに余裕ができるし、楽になるんです。もちろん、ついで切りだって気持ちに余裕があるときだけでいいんです。それだけで、料理がすごく楽になるから」

日々の生活を少しでもよく改善していく。そんな大原さんのモットーから生まれた生活の知恵と言えるかもしれません。そんな中で、大原さんが大事にされているのは、「おいしいうちに調理をする」ということ。

「おいしいうちに使いきって、おいしいうちに生かしてあげる。例えば、アジやイワシでも、3枚におろしたものを買ってきて、先に塩をしておくとか。おいしくするためにやってあげていることはありますね」

●家事が楽しくなかったら、やらなくたっていい

さまざまなことをポジティブに、手間をなくしてポジティブに生活を変換していっているように見える大原さん。そんな大原さんでも、家事が面倒だと思うことはあるのでしょうか。

「ないことはないですけど、基本的に自分は料理が好きなんだな、と思います。最初は面倒だと思っても手を動かし出すともうおもしろくなってくるから、ストレスは少ないですね。楽しもうと思ってやるのと、面倒くさいな、と思ってやるのは違うから。

楽しめないときは、その日の晩御飯は納豆とご飯だけでもいいんですよ。ちゃんとしなくちゃいけない、と思うから、ストレスになるし、重荷になってくるんです。みんなおしゃれな料理をつくってるから自分もがんばらなあかん、なんてことはないし、ごはんなんて食べられて、明日元気で生きていけたらいいわけですから」

●50代を迎えて大事にするようになった自分の時間

ちょっとめんどくさいな、と思うかもしれないことも、楽しんでやっていらっしゃる大原さん。そんな大原さんのご自身の「機嫌」の取り方は「ちゃんとしたものを食べて、自分の時間があること」と言います。

「自分の暮らしをいちばん大事に思っていて、自分の時間を奪っていくような生産性のないことはあまりしないですね。今は自分が表現者としての環境を整えることが大事。情報のインプットや、お寺で静かな時間を過ごしたり、自分の心があくせくせずに物を生み出せる状態にしようと思うと、良いものを取り入れる時間、もしくはぼんやりする時間は大事です」

必要なものと必要じゃないものははっきり分かれている大原さん。50代になって必要としなくなったもののひとつが、「いらん気遣い」なのだそう。

「例えば、ほかの人のおうちに伺うときに、昔だったら、デパートに行ってちゃんとしたお菓子を用意しないと、思っていたんですけど、今は気持ちがあればなんでもいい、と思っています。庭の花でも、自分が使ってよかったリップクリームや、小皿でも。自分の年齢が上がって、気遣いをしなくていい立場になったからできるということもあると思います。あと、女性で言うと、更年期を越えると本当に気持ちがこもっていること、自分にとってストレスがないことが大事だと思うようになりました」

●更年期を越えて人生が楽しくなった

更年期の訪れは多くの女性が不安に思っていること。大原さんはどのように乗り越えられたのでしょうか。

「ホットフラッシュはあったりしましたけど、そんなにひどい症状ではありませんでした。人によってはお薬を飲まなきゃいけない場合もあると思うので気楽にしといたらいいよ、なんて無責任なことは思いません。でも、更年期を越えると新しい世界が待っているし、いろんなことから気持ちが解放されるっていうのかな。女性というよりは、人間としてよく生きたいな、という気持ちになっていきます。

みなさん、ずっと仕事されてこられて、それがだんだん自分のいい意味での自分の人格の蓄積とか、キャリアの蓄積がある思います。それがいろんなものに繋がっていって、お金も自分のために使えるようになったり。そのときに残っているお友達っていうのは、本当に何でも話せるお友達ばかり。気を遣って無理につき合わなきゃいけない、ということもほとんどないから、人生が楽しくなりますよ」

ポジティブな言葉に、思わず顔がほころびます。実際、大原さんは20代、30代のときもよかったけど、今がいちばん好きなのだとか。

「若い時にしかできなかった、なんの疑いもなく、がむしゃらにがんばったりとか、それこそ人を好きになったりとか、その時はエネルギーがあったと思います。今はそういうのも一回りして乗り越えてきた感じがして、いい意味で自信もできるし、人に惑わされることもなくなるし、楽しいな、と思います」

●大原さん流の心地よさの見つけ方

さまざまなシーンで、少しずつ改善しながら、心地よい生活をつくっていっている大原さん。最後に大原さん流の心地よさの見つけ方についてお聞きしました。

「体に聞くこと、ですかね。お酒も好きだけど、昔ほど飲むことはなくなって、それも自分の体に聞いて、今日はやめとこう、とか、お茶にしよう、とか。最近は、ネットで観ながらヨガをやってるんですよ。毎日30分ずつぐらい、時間をつくって体調を整えるようにして、自分のリズムの取り方を体に聞いてます。それも義務じゃなくって、自分の体がちょっとずつ変化していくのが分かるとおもしろくなってきますよ。

あとは、ママ友とか、よその人に興味は持たなくていいと思います。自分に興味を持ってもらったらいい。自分の家庭の中を見てたらいいのであって、人と比べたり『こうしなあかん』と思うことがストレスの原因になると思います。自分にとって大事なものを深めていくほうがいいですよね」