家電量販店のヨドバシカメラは12年連続で顧客満足度1位を取り続けている。なぜそこまで支持されるのか。マーケティングコンサルタントの新山勝利さんが解説する――。
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東京の電気街として知られる秋葉原の全景(2022年2月28日、日本・東京都)。 - 写真=AA/時事通信フォト

■家電量販店部門、通信販売部門の両方で不動の1位

ヨドバシカメラ(以下「ヨドバシ」)は家電量販店部門で12年連続、ヨドバシ・ドット・コムは通信販売部門で8年連続で顧客満足度1位を取り続けている。顧客満足度とは、商品やサービスが顧客の期待値(満足度)にどの程度応えているかを数値化したものだ。

家電量販店
1位 ヨドバシカメラ
2位 ケーズデンキ
3位 ジョーシン
サービス産業生産性協議会 2021年度JCSI(日本版顧客満足度指数)調査結果
通信販売
1位 ヨドバシ・ドット・コム
2位 オルビス
3位 Joshin webショップ
サービス産業生産性協議会 2021年度 JCSI(日本版顧客満足度指数)調査結果

企業組織にとって顧客満足度の第1位は売り文句となる。テレビCMでも採用されているのを見る場面も多いであろう。その商品やサービスを利用していない人の購買意欲を刺激することにもなる。

今回は、ヨドバシの顧客満足度が高い理由を分析したい。

■1.社員教育の手厚さ

量販店には家電メーカーからのヘルパー(派遣スタッフ)がいる。その理由は、自社商品の販売促進をはかり売り上げを増やすためだ。

メーカー各社は高度化した家電の最新商品の知識を持つ販売員を売り場に送り込んできた。以前からある商習慣の一つであり、そのものには問題はない。

このヘルパー制度は、ノジマ以外の大手量販店はどこでも導入している。ある家電量販店では、8割をヘルパーが占める売り場さえある。夏前のエアコン、年末のプリンター売り場の繁忙期などでは、社員よりヘルパーが多くなる場合もある。

ヨドバシでは売り場の社員比率が高い。客から言われた問題点や疑問点を朝礼や終礼で話し合い改善したり、取り扱う商品の勉強会を毎週のように実施し、社員の質を上げている。

ヨドバシの地方進出で驚いたことがある。出店前のスタッフ研修を東京の店舗でおこなっていたことだ。

通常は現地採用された社員や異動、応援で駆けつけた社員が、新規オープンの店舗で研修するパターンが多い。

ところがヨドバシでは移動経費をかけて、東京でビジネスホテルやウィークリーマンションに滞在させ実地研修をおこなっていた。“ヨドバシ・イズム”を植え付けてから、現地に送り込んでいたのだ。

ヨドバシでは「投資」を大切にしているからこそ、このようなコストのかかることができるのだ。

■2.接客力の高さ

ヨドバシは各量販店の中でも価格が高い傾向にある。それでも顧客満足度で第1位を長い間キープしている理由は、高い「価値」を提供しているからだ。新商品の投入が早く、商品の陳列も見栄えがよく、品ぞろえも豊富である。商品を説明しているPOP(購買時点広告)は、他の量販店が真似をすることもある。さらには毎月売り場レイアウトの変更をおこない、来店客に飽きさせないようにしている。

また、ヨドバシは店員が積極的に声をかけるのではなく、客が話す悩み事に対して親切丁寧に対応して的確に答えてくれる。「普段はどういう使い方をされていますか?」と聞くことで、まず初心者、中級者、プロ向けのどのニーズがあるのかを把握していく。そして接客を通じて、その顧客にあった商品を提案、つまりコンサルティング・セールスをおこなっている。

初心者向けの商品を買った客は、後日中級者として売り場に戻ってきて新たな商品を購入してくれる。

ヨドバシが心がけているのは「きめ細かな接客」であり、「高い価格の商品を買ってもらうこと」ではない。

■「安さ」を売りにすると他店に客をとられる

ヨドバシでは客のニーズに応じたセット販売にも力を入れている。液晶テレビであれば、接続用HDMIケーブルという付加価値の高い商品がある。客との会話で音にこだわることがわかれば、スピーカー・システムの提案がされる。愚直に顧客視点で商品を薦めることで、売り上げが上がるのだ。

一方、他の販売店が取り扱いしているのは「価格」だ。安ければ買うが、高ければ他店に行ってしまう。加えて、ショー・ルーミング(売り場で実機に触れたり店員から情報を教えてもらうが、その場では買わず、安いネット通販で店頭より安い価格で購入すること)も起きやすい。

なお、「ゴールドポイントカード」で初めてポイントカード・システムを業界で採用したのは有名な話だ。不定期でポイント13%還元などポイント・アップをおこなっている。ポイント・サービスで優良顧客を囲い込むことで、リピーターを増やしている。

■3.ネット販売サービスの充実

いまや家電の4割がネット販売である。ヨドバシ・ドット・コムでは、東京23区エリアと一部都市で、最短2時間30分で届ける「ヨドバシエクストリーム」(以下「エクストリーム」便)を導入した。これは商品のピックアップと梱包に30分、配達に2時間を想定している。

全品が送料無料で、かつ年会費無料。店頭とネットで値段は一部の商品を除き同じにそろえている。お店のバーコードを読み取れば、ヨドバシの通販サイトで購入できてしまう。ターミナル駅の店舗での受け取りも可能であり、秋葉原、梅田、博多などは24時間対応している。

店頭で接客を受け、注文は自社のWEBサイトでしてもらうことで、ショー・ルーミング化は起こらない。

写真=iStock.com/AzmanJaka
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AzmanJaka

それにしても、なぜ送料無料ができるのか。

それはイニシャル・コスト(初期投資)がかかっても、ランニング・コスト(継続する費用)が抑えられればいいという考えからきている。

商品が動かず在庫や保管の時間があると、その分にコストが発生する。回転率を高めることでコストを下げられるのだ。

ランニング・コスト削減という考え方は、ヨドバシが自社の物件や運営にこだわるところにも表れている。長期スパンで経営をおこなうことで、最終的には投資の償却が進み、効率的な自社管理でコストが下がる仕組みである。

エクストリーム便の配達員は正社員か契約社員を起用している。つまり店頭と同じ意識を持ったスタッフが配達をおこなっているのだ。

ヨドバシはLTV(ライフ・タイム・バリュー:顧客生涯価値)理論を展開している。

LTV=購買単価×購買頻度×継続期間

これは一人の客がその長い生涯を通じて、一つの企業にどれくらいの価値(利益)をもたらすのか、顧客との関係性となるリピーターを重視するマーケティング戦略の考え方だ。

■ヨドバシが生鮮や総菜を売る日が来る

例えば1つ33円(4ポイント)の消しゴム(2022年3月現在)でも、エクストリーム便で何度でも購入、また顧客にはそれ以外の商品も一緒に取り寄せてもらうことで、全体の合計利用金額を上げ利益を確保することになる。

筆者の見立てでは、いつの日か総菜、お弁当を扱う時がくるであろう。

通販サイトの名前に、「アマゾン・ブック・コム」や「ヨドバシ・カメラ・コム」のように「ブック」と「カメラ」が入っていないことには意味があるはずだ。

つまり本やカメラにとどまらず、客が求めるあらゆる商品を流通させる。枠にこだわらない商取引があることを物語っている。ただし、アマゾンとの大きな違いは、顧客接点(ニーズをくみ取る機会)にこだわるために自社対応をすることだ。

都内23区と一部都市で夕刻の配達が可能であれば、会社でお昼の休憩時間に夕方の献立を考え注文、自宅に着いたあとにエクストリーム便が届けてくれる。

土日なら、ターミナル駅に店舗があるヨドバシで家電や日用品のショッピングをするついでに、総菜や弁当を売り場のバーコードで購入することもできる。

■東京ドーム7個分の物流センターをつくる構想も

ヨドバシ新宿西口本店、携帯スマートフォン館の地下2階は、駅地下の通路につながっている。現在は自転車とお酒、キャンプ用品などを販売しているが、いつの日かここがデパ地下のように“ヨド地下”と呼ばれ、総菜やお弁当コーナーになる日が来るのではないか。配達車とバイク便に、チルド食品が運べる装置を取り付ければ届けられる。

ヨドバシ新宿本社は旧東京厚生年金会館跡地にある。ここの1階には配達車などが常駐している。都内には10以上のベース拠点がある。また川崎市のキングスカイフロントに立地する物流センターでは、延べ約33万m2(東京ドーム7個分)に拡大する構想がある。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)とは、デジタル技術の進展により社会生活やビジネスをより良いものに導くことである。そして小売業のオムニ・チャネルとは、リアル(実店舗)とネット(インターネット通販)を融合するサービスだ。将来的には、どの小売業も成し遂げられなかった「究極」のヨドバシLTVとDX、オムニ・チャネルが完結することになる。

英語の「エクストリーム」には「究極」の意味もある。1年365日ヨドバシで完結する生活もあり得るのだ。

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新山 勝利(にいやま・しょうり)
講演・研修セミナー講師、マーケティングコンサルタント
専門領域は店頭マーケティング、購買心理プロセス、顧客満足度。日本商業学会、日本マーケティング学会、日本プロモーショナル・マーケティング学会・正会員。顧客満足を高める販売促進、店舗の活性化や売場づくりのノウハウを提供、講演を行う。メーカーのリテール・サポートに始まり、全国の商工会議所など団体、広告代理店、卸売、量販、チェーン店にて、他業界の成功事例を写真や図表で活用した説明を行う。飲食店のコンサルティングでは、点数を分析したデータ主義で売上向上を図る。飲食店の経営経験もある。『販促会議』(宣伝会議)、『経営Q&A』(日本政策金融公庫)など多数の専門誌で執筆するほか、『売れる商品陳列マニュアル』(日本能率協会マネジメントセンター)ほか著書も多数。
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(講演・研修セミナー講師、マーケティングコンサルタント 新山 勝利)