森本敏・元防衛大臣

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「アメリカは今や、中国とロシアを相手にして『二正面作戦』をするだけの能力を持っていない」という、元防衛大臣の森本敏氏の指摘。「ベルリンの壁」崩壊から30年余、グローバル秩序は激しく揺れ動いている。中国の覇権主義的行動に抑止を効かせようとする日米印豪の「クアッド」枠組み、そしてロシアの独裁体制に欧米諸国はどう出るのかといった複雑な環境の中で日本の立ち位置はどこにあるのか。森本氏に現状分析と今後の世界秩序の動きを語ってもらった(本インタビューは2021年5月26日に実施しました)。
米中対立はイデオロギーと価値観の戦い
 ─ コロナ禍が世界に様々な影響を及ぼしていますが、その中にあっても米中対立は収まるどころか激しさを増しています。今後をどう見ますか。

 森本 冷戦期は、アメリカ中心の西側世界、ソビエト連邦中心の東側世界、どちらにも与しないインドや中国などの非同盟と、3つに分かれていました。

 しかし、45 年の冷戦期を経て、ソ連が「不戦敗」という結果となったのです。ただ、西側は不戦勝したとはいえ、戦う相手がいなくなってしまったことで、混乱が続きました。

 一方、旧ソ連も15の独立国家共同体に分かれ、国家の立て直しもあり、ロシア国内は相当混乱しました。

 当時の中国は、まだ十分な実力を持つ国ではありませんでした。蠟小平氏が「改革開放」路線を進めて経済を立て直したわけですが、今の国家主席・習近平氏は、その遺産があったからこそ今があると言って良いと思います。

 ─ 中国は2010年には日本を抜いて、GDP(国内総生産)で世界第2位の国となりましたね。

 森本 中国の改革開放は成功し、1人あたりのGDPは低いのですが、GDP全体では存在感を高めてきました。冷戦が終わった後、2008年頃まではアメリカの一極社会でしたが、ロシアは大国から滑り落ちた恨みを持ち続け、一方、中国の実力が高まることに伴って、2014年に初めて大きな事件が起こります。

 それは中国が南シナ海に本格的に進出して人工島を建設、軍事力を配備するようになったことです。また、同じ年にロシアはクリミア半島を占拠し、ウクライナの東部2州に軍事力を送って介入してきました。これ以来、米・中・露は「戦略的競争関係」になったと言えます。

 今や、米中はイデオロギーと価値観の対立状態です。社会主義、レーニン主義のビジョンを信奉する中国と、自由・人権や民主主義、法の支配といった価値観を尊重するアメリカとは相容れない状態になり、米露も人権などの価値観や国際法秩序、サイバー攻撃などで全く協調の余地がない状況になっています。

 ─ 米中対立は収まるどころか、ますます激しくなる局面ですね。どこまで続くのか。

 森本 米中両国は安全保障、外交、人権だけでなく、経済や知的所有権、宇宙、サイバー、5G、AI(人工知能)といった技術まで、いずれも相容れず、今日に至るまで覇権争いが続いています。

 米中の競争は終わりません。バイデン政権が好むと好まざるとに関わらず、米中の戦略的競争関係は、当面、続いていくことになります。

中露の首脳は2030年代を目指す
 ─ かつての冷戦は第2次大戦終了の1945年からソ連崩壊の91年まで45年続きましたが、米中を両極とする冷戦はそれくらい続くと
見た方がいいわけですか。

 森本 米中が、どこまで続くかについては、まず、台湾問題の行方に関わってきます。

 一方、米露関係でいえば、ロシアは冷戦が終結した時の混乱で15の独立国家共同体に分かれて、自らの傘下にあったはずの旧東欧諸国がNATO(北大西洋条約機構)やEU(欧州連合)など西側に組み入れられ、彼らの「東方拡大」を許す形になってしまったことを今でも不快に思っています。