航空機の機体の外装は、今も手作業で洗われます。洗車機、家電なども全自動のものが多くなっていますが、実はかつて、飛行機用の自動洗機装置が成田空港にありました。なぜ撤去になってしまったのでしょうか。

効率よく安全にフライトするため飛行機を「洗浄」

 マイカーを洗車するとき、最初は手で洗いますが、いつの間にかクルマに乗ったまま洗える洗車機の列に並んでいた……という人もいるでしょう。では、航空機の外装は洗われるのでしょうか。洗うとすれば、どのような洗浄方法なのでしょうか。

 航空会社で運航されている航空機は、クルマと同じように、機体を洗浄します。もちろんこの狙いは、機体をきれいに保つことで、航空会社のイメージをよくするためというのもあります。

 ANA(全日空)が1990年代に飛ばしていた、クジラをモチーフにした特別塗装機「マリンジャンボ」では、きれいな外観に保つためのスペシャルチームが組まれた、なんてウワサも私(種山雅夫、元航空科学博物館展示部長 学芸員)は聞いたことがあります。


成田空港(2020年、乗りものニュース編集部撮影)。

 しかし、航空機の洗浄にはそれだけではない理由があります。実はこの作業、大事な機体整備の一環です。航空機は空中で塵やほこり、雨などを機体に浴びます。機体をきれいに洗うことでそれらが取り除かれ、表面や翼面が滑らかになります。このことで、空気抵抗が減り、燃費の向上などにつながるのです。

 また、エンジン、車輪(脚)の引き込み部分、動翼などの可動部分をきれいにしておけば、表面に染み出る油などを発見しやすくなり、定期的な整備の時だけでなく、フライト前のチェックで、小さな異変に気が付きやすくなるという効果も期待できるでしょう。

 そしてその方法ですが、実は原則として、航空機の洗浄はすべて手作業。エアバスA380型機のような巨大機であっても機械は使わないため、労力もそれ相応です。電車やクルマなどには機械式洗車機があるのに、なぜ航空機にはそのような装置はないのでしょうか。

 実はかつて、機械化の波に乗って、飛行機の自動洗機装置を開発しようという流れがあり、そして、世界唯一の洗浄機が実際に成田空港(当時は新東京国際空港)に設置されていたことがありました。

世界唯一の自動洗機装置 なぜ無くなった?

 世界唯一の航空機自動洗機装置は、当時JALの主力機であった「ジャンボ」ことボーイング747シリーズを洗うため、JAL(日本航空)と川崎重工が共同開発したもので、成田空港の整備場の一角にありました。

 場所でいうと空港のすぐ近くにある、芝山鉄道芝山千代田駅からみえるエリアです。実際にこの装置を使って、5000機以上の「ジャンボ」が洗浄されたという報告も。ところがこの装置、「ジャンボ」の退役に伴って撤去されてしまいます。


成田空港にあった「自動洗機装置」(画像:川崎重工業)。

 撤去の理由を関係者に聞いたところ、実はこの装置には弱点があったそう。というのも、同じ「ジャンボ」といっても、実は1機ごとに微妙に個性があるとのこと。たとえば速度を計る装置である機首部分の出っ張り「ピトー管」などは、それぞれの機体ごとに出っ張りが微妙に異なっていたこともあったといわれています。こういった特性を、それぞれ設定し直さなければならない難しさなどもあり、「ジャンボ」の退役を機に、手作業で洗浄する方針となったそうです。

 ちなみに航空機の洗浄は、タイミングが良ければ一般の人でも体験することができます。千葉県芝山町にある航空科学博物館では、過去に航空会社が開催した整備に関するお仕事体験のひとつとして、機体の洗浄体験がありました。3mもあるモップで飛行機の胴体を洗浄するのですが、子供たちだけでなく、大人も楽しそうに機体を洗浄していたのが印象的です。

 ちなみに、洗車機の例でいうと筆者も自家用車を持っていますが、車検の時に洗ってもらう以外は、基本的に雨にお任せしています。