前回に引き続き、政見放送があまりにも個性的だったトランスヒューマニスト党のごとうてるき(後藤輝樹)候補

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【後藤輝樹候補】前回の「異常すぎる政見放送」は史上2例目の大事件だった

オムツ姿で訴える

 東京都知事選の事前の予想で、有力候補扱いすることはないものの、注目度ではかなり上位に食い組んだのが、トランスヒューマニスト党のごとうてるき(後藤輝樹)候補である。理由は政見放送があまりにも個性的だったからだ。

「世間がなんぼのもんじゃい。常識がなんぼのもんじゃい。NHKがなんぼのもんじゃーい」と第一声を発したのちに、後藤候補はオムツ一丁の姿に。政策を訴える前に、

「全裸が売りのアキラ100%がテレビに出られるのに、私の発言がカットされるのはおかしい」

「サザンオールスターズの『マンピーのG★SPOT』や玉袋筋太郎は許されるのに、私の発言がカットされるのはおかしい」

前回に引き続き、政見放送があまりにも個性的だったトランスヒューマニスト党のごとうてるき(後藤輝樹)候補

 時に歌を交えながら後藤候補はしきりに前回出馬時の政見放送の一部がカットされたことへの不満を口にする。そのインパクトは凡百の泡沫候補とは一線を画するものがあったと言えるだろう。

 しかし、これだけでは前回、何があったのかは少しわかりづらかったかもしれない。そこで、選挙マニアとして日々全国の選挙をウォッチしている宮澤暁さんの著書『ヤバい選挙』をもとに、後藤候補の「表現の自由」を巡る戦いの顛末を見てみよう(以下、引用はすべて同書より)

公職選挙法第150条の2

 通常の政見放送では、候補者名が青地に白で書かれた画面が移り、そこで経歴が読み上げられる。しかし、この時はそれ以外に「公職選挙法第150条の2の規定を踏まえて音声を一部削除しています」というテロップとナレーションも流された。

得票は別として、今回は表現の自由を享受できたのではないだろうか。後藤輝樹候補のYouTubeチャンネル「【NHK版】皇暦2680年西暦2020年 政見放送 東京都知事選挙 後藤輝樹 ごとうてるき」より

「第150条の2」とは以下のような内容である。

「他人若しくは他の政党その他の政治団体の名誉を傷つけ若しくは善良な風俗を害し又は特定の商品の広告その他営業に関する宣伝をする等いやしくも政見放送としての品位を損なう言動をしてはならない」

 ごく普通の常識を説いているようだが、実はこの法律が適用されたケースは極めて少ない。政見放送においては表現の自由を最大限に認めているため、過去には「田中角栄を殺したい」「(対立候補は)腹を切って死ぬべき」といった物騒な発言であっても、そのまま放送されている。

後藤輝樹候補のYouTubeチャンネル「【ノーカット ピー音なし】後藤輝樹の政見放送」より

 最初にこの規定に違反したとして、発言がカットされたのは、雑民党の東郷健氏の参議院選挙での政見放送である。ここで東郷氏は、障害者に関して一般に差別用語とされる言葉を用いたため、NHKは当人の承諾なくカットしたうえで放送した。ピー音などは入れずに、その部分のみ無音という処理であった。

 これを不服に感じた東郷氏はその後、NHKと国を相手取って訴訟を起こす。そして一審では何と東郷氏の主張が認められたものの、最終的に最高裁まで争われ「カットは適法」ということになったのである。

最高裁まで争うも

 さて、話を後藤候補に戻そう。2016年の後藤候補の「一部削除」は政見放送史上2度目のカット事件であった。前述のナレーションに続き本編が始まる。

■「死んだ男」が都知事選候補に ■バキュームカーで選挙活動 全部ホントの話です。選挙マニア秘蔵の衝撃的事件簿 『ヤバい選挙 』宮澤暁(著)

「画面に映った後藤は顔面を両手で覆い、指の間から片目だけを見せていました。そして、第一声として『これからお休みの方も、お目覚めの方も、そして偶然、この映像を目にしてしまったあなたも、ようこそごきげんよう』と述べ、覆っていた両手を外し、画面に向かって指をさしました。その後、立ち上がりながら、第二声を発しますが、この時点で『後藤輝樹の(音声カット)の時間です』と、音声カットがされていたのです。

 さらに続いて、第三声を発しますが、『今から皆さんには(音声カット)を出し合ってもらいます』とここも音声カットがされていました。その後、踊りながら歌うというそれだけでも異様な姿を示しましたが、その歌の内容もいたる部分が音声カットされているというものでした」(『ヤバい選挙』より)

 本人によると、カットされた部分は、すべて男性の体の一部の俗称を述べたもので、表現の自由を訴える意図があったとのことである。

 なお、後藤候補はこの演説のノーカットバージョンをインターネット上にアップする一方で、カットを不服とし、東郷と同様に損害賠償請求の裁判を行う。この時、主張の根拠とされたのが、先ほど登場した東郷候補の例だった。東郷も同様の俗称を述べた際にカットされなかったのに、自身の政見放送ではカットされたのは不当だ、という理屈である。

 しかし地裁、高裁とも「第150条の2」違反だと判断し、後藤候補は敗訴してしまう。

「高裁で注目するべき点として、東郷との政見放送の比較が行われました。高裁判決では東郷の政見放送がそのまま放送された経緯と理由は明らかではないものの、東郷が俗称を用いたのは2回なのに対し、後藤の政見放送は5分余りの中で俗称がが80回以上繰り返されており、この両者の政見放送は大きく異なるものであるとしていました」

 後藤候補は判決を不服として最高裁に上告したものの棄却され、最終的に敗訴している。

 この経験が活きたか、2020年の後藤候補の政見放送はスレスレのところを狙いながらも、無事に放送されていた(ように見える)。得票は別として、今回は表現の自由を享受できたのではないだろうか。

デイリー新潮編集部

2020年7月3日 掲載