1997年に初めてリリースされたOperaは、世界で初めてタブブラウジング機能やマウスジェスチャー機能を採用したウェブブラウザです。そんなOperaの開発を行っているOpera Softwareが「不正に超高金利の短期ローンを組ませるアプリを、Googleのルールを無視して配信している」と、金融調査会社のHindenburg Researchが報告しています。

Opera: Phantom of the Turnaround - 70% Downside - Hindenburg Research

https://hindenburgresearch.com/opera-phantom-of-the-turnaround/

What is going on at Opera Software? - gHacks Tech News

https://www.ghacks.net/2020/01/19/what-is-going-on-at-opera-software/

Operaの開発元であるOpera Softwareは当初Operaを有償で公開していたものの、2005年9月から広告なしの完全無料版を提供するようになり、2020年1月20日時点でバージョン66.0.3515.36までリリースを重ねています。



しかし、OperaがFirefoxやGoogle Chromeから市場シェアを奪い返することはかなわず、Opera Softwareのブラウザ事業はその後、2016年にゲーム企業である崑崙やネットセキュリティ企業の奇虎360を中心とする中国のコンソーシアムに、12億3000万ドル(約1400億円)で売却されました。Opera Softwareの株は上場廃止されたものの、ブラウザ事業のみが新たに「Opera Software」として生まれ変わり、新規公開(IPO)株としてNASDAQに上場を果たしました。

しかし、Hindenburg Researchによれば、Opera Softwareのコアビジネスだったブラウザ事業による収益はIPOからわずか1年で22.6%減少したとのこと。Operaの市場シェアも2016年は4%近くあったのが、2020年1月時点では2.28%に落ち込んでおり、営業キャッシュフローは2020年1月時点で通算2450万ドル(約27億円)のマイナスとなっているそうです。

Opera Softwareから中国企業にブラウザ事業が売却され、新生Opera Softwareが設立された際に会長兼CEOに就任したのが、崑崙の設立者でもある周亚辉氏です。中国で金融事業も経営する周CEOは、シェアが低下して赤字を出すブラウザ事業とは別に、モバイルアプリを介して「60日以内に全額返済」を義務づけた短期ローン事業を立ち上げました。

主にアフリカとインドで展開されたこの短期ローン事業によって、Opera Softwareの2019年第3四半期の収益は前年比で42.5%増加したとのこと。例えば、ケニアでの短資ローン事業実績は2019年第1四半期が650万ドル(約7億1000万円)、同年第2四半期が1160万ドル(約12億円)、第3四半期で3990万ドル(約43億円)と順調な成長を遂げています。

しかし、Hindenburg Researchは、短期の貸し付けを可能にするOperaのローンアプリがGoogle Play ストアを介してケニア・ナイジェリア・インドなどで普及しており、「60日以下の短期ローンを可能にするローンアプリは禁止」と定めるGoogleの規約を完全に無視していると指摘しています。例えば、以下は実際にケニアで提供されているローンアプリの「OKash」のストアページで、返済期間は61日から365日と書かれています。



Hindenburg Researchはケニア在住のコンサルタントに依頼し、実際にOKashで短期ローンの契約をしてもらったとのこと。コンサルタントがOKashのサポート窓口に「契約したい」とメールを送ったところ、「返済期間は15日から29日で、15日だと15%、22日だと17.6%、29日だと23.2%の金利が付く」と、ストアページとは違う案内が返ってきました。



さらに実際に短期ローンの契約を交わしたところ、アプリに表示されている返済期間は最短の15日になっていたとのこと。Opera Softwareは他にもOPay、CashBean、OPesaという同様のローンアプリをリリースしており、Hindenburg Researchが調査したところ、すべて同じパターンでGoogle Play ストアをだましてルール無視の短期ローンを行っていたことがわかりました。



ストアページでは「最長365日で最大24%の金利」とうたわれていますが、返済期限を365日に設定して計算すると、実際は365%〜438%の金利が付くことが判明。また、延滞損害を含めると金利は730%〜876%まで膨らむという計算になりました。



つまり、「1:低金利で長い返済期間をうたい文句に、ローンアプリをダウンロードさせる」「2:アプリをダウンロードすると、返済期間が長くなると金利が高くなることをぼかしながらローンの案内をする」「3:ユーザーが個人情報を入力して審査を通過すると、超高金利の短期ローンを組まされる」という流れになっているというわけです。

OKashの元従業員はHindenburg Researchに対して「アプリを使う人はほとんど教育を受けず、利用規約も読むことがありません。そのため、ローンの返済日を確認し忘れ、1日1%の利子が積もり積もって手遅れになるまで借金が膨れ上がってることに気づかないことが多いのです」と語りました。

さらに、返済が遅れたユーザーの友人、家族、雇用主の連絡先がアプリを通じて掌握され、借金の事実を知らせるようなメールを送りつけられるなど、嫌がらせを伴った取り立てが行われるケースも多く報告されています。また、こうしたローンアプリを利用するのは安定した収入を持たない貧しい大学生が多く、「信用実績照会局(CRB)のブラックリストに載せるぞ」という脅迫も行われているとのこと。CRBのブラックリストに掲載されるとケニアでの就職はまず不可能となるそうです。





ただし、OKashの元従業員は、「CRBへのブラックリストをちらつかせての取り立ては違法だと指摘されたため」に2019年6月時点で行われていないと語っています。

また、そもそものOpera Softwareの会計や、2016年に行われたブラウザ事業の買収自体もかなり不透明な部分が多いとHindenburg Researchは指摘。買収の3週間前にもかかわらず周CEOがなぜかOpera Softwareの株式をすべて保有していたり、ブラウザ事業である新生Opera Softwareが周CEOのカラオケアプリ開発事業に合計7500万ドル(約82億円)の投資を行っていたりしていたことを報告し、「Opera Softwareが大規模な粉飾決算を行っている可能性」も示唆しています。

Googleが短期ローンアプリをすべて禁止した場合、収益の多くをローンアプリで得ているOpera Softwareの経営が一気に傾いてしまう可能性があるため、Opera Softwareに投資している人は注意すべきだとHindenburg Researchは注意を促しています。もし短期ローン事業がGoogleのアプリ摘発によって立ちゆかなくなれば、ブラウザ事業にも大きな影響を与えてしまい、「最悪の場合20年以上の歴史をもつOperaというウェブブラウザも終わってしまうかもしれない」と技術系メディアのghacks.netは推測しました。