作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるラジオ番組「村上RADIO〜歌詞を訳してみました〜」が、10月13日(日)にTOKYO FMにて放送されました。

第9回の放送となる今回は、村上さんが選曲した楽曲にオリジナルの訳詞をつけ、パーソナリティの坂本美雨とともに朗読。短編小説作品のヒントとなった楽曲や長編小説「1Q84」執筆当時、頭の中でよく流れていたという楽曲も登場。本記事では、そのなかから中盤の2曲についてお話しされた概要を紹介します。



◆「On A Slow Boat To China」Barry Manilow

次は「中国行きのスロウ・ボート(On A Slow Boat To China)」。1950年代にビング・クロスビーとローズマリー・クルーニーのコンビでヒットしました。ローズマリー・クルーニーは、ジョージ・クルーニーのおばさんです。“ジョージ・クルーニーも、きっと歌がうまいだろう”と監督が歌わせてみたら、あまりにも下手だったので、みんながずっこけたという話がありますけど。

今日はバリー・マニロウとベッド・ミドラーという、ちょっと濃い、芸達者のコンビで聴いてください。この曲の2人、なかなかいいです。

僕が生まれて初めて書いた短編小説のタイトルは「中国行きのスロウ・ボート」でした。僕は短編小説を書いたことがなかったんで、小説を書く前に、まず最初にタイトルをつけた。曲から引っ張ってきて「中国行きのスロウ・ボート」と。そこからどんな話ができるだろうというところから始まったんです。最初に話があったわけじゃなくて、“その言葉から、どんなふうに話が膨らんでいくんだろう”というふうに最初から書いていったわけですね。“あ、こんなふうに書けば小説って書けるんだ”というふうに発見して。

短編はいまもだいたい同じで、先にタイトルを決めて勝手にどんどん書いていくということがほとんど。筋とかプロットとかほとんど考えない。ただ言葉のイメージだけです。そういうのは、ずいぶんたくさんある。そのあとに書いたのが「貧乏な叔母さんの話」というタイトルで、これも題名から物語ができちゃったという面白い書き方です。僕はそういうのが好きなんです。言葉がイメージを辿っていくというのが好きなんですね。

「中国行きのスロウ・ボート(On A Slow Boat To China)」

中国行きのスロウ・ボートに

君を乗せたいな

そして僕だけのものにしたいんだ

君をしっかり腕に抱いて

いつまでも離さないんだ

ほかの男たちなんぞ

浜辺で涙にくれていればいい

僕らは海原の真ん中にいて

空には大きな月が輝き

君の固い心を溶かしてくれる

中国行きのスロウ・ボートに

君を乗せられたらな

そして僕だけのものにできたらな


訳詞で一番難しいのは韻です。英語って韻を踏みますよね。韻を踏むために、日本語で無理な言葉を引っ張ってきている場合が多い。それをそのまま訳していると変な訳になってくる。だから、その辺をどういうふうに作り替えるかというのがコツになってきます。日本語は韻を踏まず、どちらかというとムードや情感で流れていくんだけど、英語の場合はまず韻を踏みますから。

◆「Snoopy Vs. The Red Baron」The Royal Guardsmen

次は「スヌーピー対レッド・バロン(暁の空中戦)」。スヌーピーが犬小屋に座って、第一次世界大戦の戦闘機のパイロットの真似をするやつです。知ってます? それからつくった歌なんです。彼の宿敵がレッド・バロン。ドイツの戦闘機乘りで、スヌーピーが大空中戦を繰り広げるという歌です。

「スヌーピー対レッド・バロン(暁の空中戦)」

二十世紀の初めの頃

晴れ渡ったドイツの空に

エンジン音が囂々と響き

戦闘機が大きな鳥となって舞い上がる

操縦桿を握るのは、その名も高き

フォン・リヒトホーフェン男爵

80人が彼に挑み、80人が命を落とし

緑なす墓地に葬られた

10、20,30,40,50、もっとたくさん

レッド・バロンは数を積みあげていく

80人が彼に挑み、そしてやられた

必殺の撃墜王、ドイツの誇るレッド・バロン

僕があいつを仕留めてやると

スヌーピーは心に誓う

カボチャ大王にうまい作戦を教わって

ドイツの撃墜王に得意のドッグファイトを挑む

大笑いしている男爵に

しっかり照準を合わせる

レッド・バロンは追い詰められる

すべてを試し、もう打つ手はなし

そこでスヌーピーはとどめの一撃

そしてもう一撃

レッド・バロンは万事休す

くるくる錐もみして落ちていく


昔からこの歌が好きなんだけど、この間「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」という映画で、レオナルド・ディカプリオがラジオを聴きながらこの曲を一緒に歌っているシーンがあって、“あ、これだ!”と思った。2回観ました。面白い映画です。アメリカで観て、ちょっとわからないところがあったので、日本で字幕付きで観ました。

これはロイヤルガーズメンという、ほぼ一発屋のバンドがヒットさせました。「帰ってきたレッド・バロン」という続編もあります(笑)。

この記事で紹介できなかった選曲やほかの内容は、以下の記事よりチェックできます。

▶▷ 村上春樹「歌詞を理解すると音楽の世界がぐっと広がる」ラジオ番組「村上RADIO」で語る https://tfm-plus.gsj.mobi/news/ppFi1elljz.html

▶▷村上春樹「僕はプライドに邪魔されたことはなかった」その深意とは? https://tfm-plus.gsj.mobi/news/9YH3LWDLAV.html

▶▷村上春樹「文章を書いているほうがずっと楽」大学時代“物にならなかった”習い事を明かす https://tfm-plus.gsj.mobi/news/h4Gwg2GtyH.html



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聴取期限 2019年10月21日(月)AM 4:59 まで

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<番組概要>

番組名:村上RADIO〜歌詞を訳してみました〜

放送日時:2019年10月13日(日)19:00〜19:55

放送局:TOKYO FMをはじめとするJFN系列全国38局ネット

パーソナリティ:村上春樹、坂本美雨

番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/murakamiradio/