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もくじ

ー 進むEV化 問題はバッテリー生産
ー 最新の研究成果 70万kmの衝撃
ー 大型バッテリーは推奨せず 再生可能エネルギーがカギ
ー 番外編:マツダの挑戦 CO2排出量90%削減へ

進むEV化 問題はバッテリー生産

バッテリー式EVの普及に向けた政策が世界各国で推進されている。実際、EUが設定した2025年と2030年までの新車を対象としたCO2規制に対応するには、各メーカーともそれなりの数のEV生産を行う以外に方法はない。

中国でも、各自動車メーカーが非常に厳しいEV目標への対応を余儀なくされている一方、ディーゼルゲートで苦境に立たされたフォルクスワーゲンは、自ら思い切ったEVシフトを進め、来年からEVの主力モデルを登場させる予定だ。

バッテリーEV式パワートレインの効率性は、通常のガソリンエンジンの約3倍、最新のトヨタ・プリウスの2倍以上に達するのだから、内燃機関でもっとも高い効率を誇るモデルと比べても、EVが排出するCO2量の方が少ないことに疑いの余地は無い。


それでも、バッテリーに供給する電気をどのように発電しているかが最終的には問題であり、水力発電が優位なノルウェーやスウェーデン、原子力が主力のフランスであれば、EVは環境に優しい乗り物だと言えるだろう。

だが、EVのCO2排出量に関しては、バッテリーそのものの製造に伴うエネルギー消費についても忘れる訳にはいかない。

複数の研究が、バッテリー生産では大量のエネルギーを消費しており、その量は、EV生産工程で放出したCO2をその走行距離で相殺する前に、相当な距離を加算してしまうほどだと主張している。

最新の研究成果 70万kmの衝撃

EVのCO2排出量に関する最新の研究成果が、ベルギーのリエージュ大学から発表されており、最初にテレビで発表され、その後地元新聞のHLNに掲載されたダミアン・アーンスト教授の計算結果は、これまでのEVに対する見方を根底から覆すものだった。

欧州電力ネットワークにおける平均的なCO2排出量を使って、アーンスト教授は欧州域内で生産された60kWhのバッテリーを搭載したEVが、「平均的なガソリン車よりも環境負荷を少なくする」には、70万kmを走行する必要があるとしている。

一方で、すべて再生可能エネルギーで構成された欧州電力グリッドがあれば、環境負荷においてEVが内燃機関を逆転するまでの走行距離を、わずか3万kmにまで削減することが可能だとも、アーンスト教授は述べている。

この結果はベルギーで大々的に取り上げられ、アーンスト教授の計算結果についても、約35万kmが必要だとする意見や、デルフト工科大学の教授陣による、生産工程でより多くのエネルギーを消費したとしても、「わずか」8万kmで達成可能だとする説もあった。

EV用バッテリーの生産工程が疑問視されたのは、これが初めてというわけではない。1年前、International Council on Clean Transportation(ICCT:国際クリーン交通委員会)では、この問題に関する詳細な調査レポートを公表しており、CO2排出量の計算を目的に、世界のバッテリー生産に関する10の異なる研究成果をとりまとめている。

レポートによれば、バッテリー生産で排出されるCO2の量は、50kg CO2/kWhから200kg CO2/kWh、さらにはそれ以上と様々であり、ICCTでは、その中央値となる175kgを採用し、バッテリー寿命を15万kmと仮定したうえで、バッテリー生産はEVのライフタイム効率に対して、35g CO2/kmのCO2排出量を上乗せしているとの計算結果を提示している。

さらにICCTでは、30kWhのバッテリーを搭載した日産リーフと、プジョー208 1.6ブルーHDiの比較も行っており、毎日の利用においては、リーフのほうが効率で30%上回るとの結論を出している。

大型バッテリーは推奨せず 再生可能エネルギーがカギ

IVL Swedish Environmental Research Instituteでも、2017年に同様の結論に達しており、50%から70%を化石燃料由来の電力で構成されているグリッドで生産された100kWhもの大型バッテリーを積んだEVの場合、走行開始までに15tから20tものCO2を排出することになるとしている。

IVLでは、ドライバーに大型バッテリーを搭載したEVを購入しないよう推奨するとともに、将来のバッテリー生産は可能な限り再生可能エネルギーで行われることが望ましいとも述べている。

アウディは、新型eトロン生産のため、新たに改修を行ったブリュッセル近郊の工場で、まさにこのアプローチを採用している。


工場に設置された3万7000平方メートル分のソーラーパネルによって、使用する電力量の95%を賄うとともに、工場の暖房にはバイオガスを活用しており、eトロン向けバッテリーもここで生産することで、その潜在的なCO2排出量の削減を可能にしている。

つまり、EVには使用される場所での環境汚染を抑えるという大きな利点がある一方、その生産工程全体では、驚くほどのエネルギーを消費しており、典型的な欧州電力グリッドから電力供給を受けている場合、その日常的なエネルギー効率も、期待するほどのものではないということだ。

例え、EV生産を行う財政的なリスクがそれほど大きくはないとしても、工場のほとんどを再生可能エネルギーで稼働しなければならないのであれば、大きなコスト負担を強いられることになるだろう。

番外編:マツダの挑戦 CO2排出量90%削減へ

マツダでは、車両生産と燃料供給を含めた「ウェル・トゥ・ウィール」という考え方における平均的なCO2排出量を、2050年までに2010年の90%レベルにまで削減する目標を掲げており、さらに、そのためには、内燃機関が大きな役割を果たすとしている。


より効率的な圧縮着火ガソリンエンジンの開発を進めるとともに、マツダでは、藻類から作り出すバイオフューエルを原料とした、再生可能液体燃料の研究開発へも投資を行っており、この液体燃料が燃焼時に排出するのは、直近で光合成によって大気中から吸収したCO2だけだ。

マツダでは、内陸部にある耕作不適地を使って、塩と廃水だけでバイオフューエルを創り出すことが可能だとしており、これが実現すれば、内燃機関を低コストでより効率的なエンジンにすることができるだろう。