在日米軍のなかで最大規模の人員を誇る海兵隊は、陸、海、空すべての装備を持っており、迅速に世界中へ展開する能力があります。対外戦争において、つねに先陣を切り敵地に上陸する海兵隊の、歴史と役割、そして装備とはどのようなものでしょうか。

世界最大の海兵隊組織

 世界の軍隊にはおもに陸軍、海軍、空軍とありますが、国によっては海兵隊という第4の軍事組織が存在します。

 海上で艦船による戦闘をおもに行う海軍に対し、海兵隊は敵地への上陸作戦を専門に行う軍事組織です。


米大統領が海外で利用するヘリコプターVH-3D、運用するのは米海兵隊。大統領機乗時には「マリーンワン」というコールサインで呼ばれる。(2017年、石津祐介撮影)。

 海兵隊の組織としては世界最大規模のアメリカ海兵隊は、軍政上は海軍に属していますが、陸軍や海軍と同じように独立した軍隊で、およそ18万人の兵員がいます。いわば海外での武力行使をになう専門部隊で、そのため即応性の高い陸、海、空の戦力を持ち、独自に作戦を展開することが可能となっています。

 海兵隊は、艦船同士の戦いで敵船に乗り込み制圧する切り込み部隊として16〜17世紀ごろに各国で創設されました。アメリカ海兵隊は1775年、イギリスからの独立戦争の際に酒場で集められた大陸海兵隊をルーツに持ちます。

 やがて海兵隊は、アメリカの対外戦争において活躍するようになります。独立後初めての対外戦争である第一次バーバリ戦争(1801年から1805年)やメキシコとの米墨戦争(1846年から1848年)に参加し、戦果を挙げます。このことは海兵隊の公式軍歌である「海兵隊賛歌」でもうたわれています。


アメリカ国旗を硫黄島の擂鉢山山頂に掲げるモニュメントと海兵隊員(画像:アメリカ海兵隊)。

 このように勇猛果敢なアメリカ海兵隊でしたが、同じように地上戦を行う陸軍と戦果や予算の配分などで軋轢が生じ、軍部内でその存在意義を問われるようになり、やがて議会においても不要論が出てくるなど、海兵隊は解散の危機に瀕します。

 しかし、第一次世界大戦の戦勝国として日本がドイツの南洋委任統治領を獲得したことで、フィリピンやグアムを領地に持つアメリカは危機感を覚え、対日戦に備えて海兵隊の強化に乗り出します。やがて太平洋戦争が始まると、アメリカ海兵隊は太平洋を主戦場として日本軍の拠点である島しょ部への敵前上陸作戦などで活躍し、その存在価値を高めていきます。

 その後も、朝鮮戦争やベトナム戦争、湾岸戦争からイラク、アフガニスタンまで、アメリカのおもな対外戦争ではつねに最前線に投入されることになります。

海兵隊、その代表的な装備

 2018年4月現在、沖縄に拠点を置く第3海兵遠征軍司令部は、在日アメリカ軍のなかで最大となる1万2千人程度の人員を抱えており、中国や北朝鮮における不測の事態に対応する即応性を維持しつつ、部隊はイラクやアフガニスタンへも派遣されています。


水陸両用兵員輸送車AAV7。陸上自衛隊や韓国軍でも採用されている(画像:アメリカ海兵隊)。

 アメリカ海兵隊が海外へ派遣される場合、強襲揚陸艦を中心とした遠征打撃軍が編成され、戦闘機、ヘリ、兵員、戦車、重火器などを装備し、作戦を遂行することになります。前述のようにアメリカ海兵隊は陸、海、空の装備を取り揃えていますが、なかでもよく知られているのは、LVTと呼ばれる水陸両用の兵員輸送車でしょう。

 LVTが開発されたきっかけは、第一次世界大戦に行われた「ガリポリの戦い」(1915〈大正4〉年から1916〈大正5〉年)にさかのぼります。この戦いで、連合国はトルコ軍に対して大規模な上陸作戦を行いますが、強固に守られた陣地を突破できずに、反撃を受け失敗に終わります。この一連の戦いは各国が上陸作戦用の装備研究を行うきっかけとなり、上陸用の艦艇の開発などが行われることになります。

 アメリカでも水陸両用輸送車の研究、開発が始まり、完成したLVTは太平洋戦争にて、1942(昭和17)年に始まるガダルカナル島の戦いに投入され、1943(昭和18)年のタラワの戦いにて本格的に上陸作戦で用いられます。速度は遅かったものの、兵員を防御しながら上陸する事が可能なこの車両は戦場で有効に活用され、さらに武装も強化されて火力支援も行うようになり、海兵隊の上陸作戦の装備として定着することになります。そして、その役目は現在、AAV7に引き継がれています。

航空団も組織、F-35Bや「オスプレイ」も海兵隊に

 一方で、海兵隊の上陸作戦支援や艦船護衛をするために、海兵隊航空団が1918(大正7)年に組織されます。太平洋戦争においては、F4F「ワイルドキャット」やF4U「コルセア」が最前線の基地へ配備され、また海軍機と共に空母へも搭載されました。

 朝鮮戦争では海兵隊初のジェット機、F9F「パンサー」が導入されます。その後のベトナム戦争ではA-6「イントルーダー」やF-8「クルセイダー」、F-4「ファントムII」が導入され、1970年代には、強襲揚陸艦に短距離離陸、垂直着陸(STOVL)運用が可能なAV-8「ハリアー」が搭載されます。そして近年になりF-35Bが導入され、より幅広い任務に対応することが可能になりました。

 また、アメリカ軍でV-22「オスプレイ」を最初に導入したのも海兵隊です。それまで使用されてきたCH-46ヘリとは搭載量も航続距離も勝っており、海兵隊仕様のMV-22は2007(平成19)年に実戦配備されています。

 さらにアメリカ海兵隊は、アメリカ陸軍と同様にM1「エイブラムス」戦車を装備しています。湾岸戦争では、イラク軍のソ連製戦車T-72を圧倒するも、アフガニスタンやイラクなどテロ組織との戦いにおいては、ロケット砲や地雷、仕掛爆弾などゲリラ戦での被害が目立ったため、対地雷の装甲強化や市街地戦に対応した装備など改良がなされています。


より幅広い運用が可能となったSTOVL機、F-35B(2018年、石津祐介撮影)。

カルフォルニア州の軍港、サンディエゴに入港する強襲揚陸艦「アメリカ」(2018年、石津祐介撮影)。

海兵隊の主力戦車M1「エイブラムス」。陸軍でも採用され海兵隊では、対地雷の装甲強化や市街地戦に対応した仕様となっている(画像:アメリカ海兵隊)。

 このようにアメリカ海兵隊は、陸海空の装備を持ちアメリカの安全保障を脅かす脅威に対して迅速に行動を起こす、即応性に優れた軍事組織です。

 太平洋戦争でアイデンティティーを確立したアメリカ海兵隊は、災害派遣などに見られるように、迅速な対応能力によって今後もアジア地域において影響力を維持していくことになるでしょう。

【写真】太平洋戦争を戦った「コルセア」


エアショーでデモフライトを行う海兵隊のF4U「コルセア」。太平洋戦争から朝鮮戦争にかけてアメリカ海軍と海兵隊に配備された(2017年、石津祐介撮影)。