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ご記憶だろうか?18歳の夏、自分がどう過ごしていたかを。ハイティーンの時計の針は時に急に進む。アマチュアボクシングの新星・堤駿斗は、一年前に「衝撃的なことばかり」という急成長を見せた。日本選手史上初の「アジアユース・世界ユース両制覇」さらに「日本ボクシング協会選定・2016年度MVP」の座を手にした。一年後のこの夏はインターハイのボクシング競技に出場中。どんな思いで18歳、大人の一歩手前のこの時を過ごしているのか。東京五輪に向けた思いと合わせて聞いた。

撮影 岸本勉 中村博之(PICSPORT) 取材 田坂友暁(SpoDit) 構成 編集部

「遊ぶときは遊ぶ、やるときはやる」

ーー2020年東京五輪まであと3年。18歳。そんな夏をどんな思いで過ごしていますか?

東京五輪まではあと3年しかありませんから、足踏みしている時間はありません。しっかり大人の選手たちに太刀打ちできるように身体の強さをつけて、なおかつ技術も向上させて、自分の目指している『打たせずに打つ、そして倒す』というスタイルを貫いて、東京五輪で金メダルを獲りたいと思います。

ーーとはいえ、ずっと気合いを入れ続けるわけにもいかないでしょう。気分転換の方法は?

土日は午前は学校で練習して夜にジムで練習するんですけど、その間の時間を使って部活の仲間と映画を観に行ったりご飯を食べに行ったりして、結構遊んでるんです。そうやって一度息抜きしたら、もう一度スイッチを入れ直してジムの練習をする。遊ぶときは遊ぶ、やるときはやる、というように気持ちのオンとオフのスイッチを切り替えるようには心がけています。

ーー他のスポーツを観たりとかは?高校野球など意識します?

自分が勝手に思っていることなんですけど、(同い年の)野球の清宮幸太郎選手(早稲田実業)は気になりますね。Twitterを僕もやっているんですが、清宮選手の情報をTwitterとかニュースとかで見かけると、すごいなって思います。でも、なんかちょっと悔しいなという気持ちもなくはないです(笑)。同じ世代として、自分が勝手に思っているんですけど、やっている競技は違いますけど、お互いに結果を出し合ってライバル的な感じで清宮選手を見ています。

ーーでは18歳の今、一番うれしいこととは?

たくさん練習して大きな試合で自分のボクシングを出し切って、勝利できたときがなんて言うんですかね、信じられないくらい楽しいときですね。そういうときはうれしすぎて頭が真っ白になっちゃう感じなんですけど、その瞬間ですね。

ーーガッと集中して頑張って、思いっきり休む。それはボクシングにつきものの減量にも共通しますか?

自分は欲張りなので(笑)、減量中は結構いろいろ食べたくなっちゃうんですけど……。終わったら、やっぱり焼き肉かお寿司かラーメンか。この3つが自分のなかでも最強ですね。焼き肉はカルビか牛タン。お寿司は赤身が好きなんです。ラーメンは味噌とか家系ラーメンとか。しょうゆというよりは、ちょっとこってりしたラーメンが好きです。

ーー練習漬けの日々ですが、フツ―の高校生として女の子にもてたいという気持ちは?

うーん……。もてたくない、と言ったらうそになっちゃいますけど(笑)。大会前とかにTwitterで友達の女の子から「頑張ってね」とかメッセージが来ることもあるんですけど、今は男友達から言われたほうが頑張る気になれるというか(笑)。なので、今はあまりそこまで気にはしてないです。

「自分のボクシングをやらずに帰国しない」吹っ切れて得た成長のきっかけ

ーー去年の夏前から世界の舞台でも大きな実績を残しはじめました。急成長のキーとなった大会は?

5月のASBCアジアユースボクシング選手権で優勝できたことです。今まで国際大会で一度も勝てていませんでしたが、このアジアユースで優勝できたことで、海外で自分のボクシングが通用するんだということを証明できました。この優勝があったからこそ、自信を持って11月の世界ユースボクシング選手権に臨めました。なので、アジアユースで優勝できたことが世界ユースでの優勝につながったのだと思います。

昨年は、自分のなかでも衝撃的なことばかりでした。うまくいくことばかりだったので、自分のなかでもちょっと信じられない気持ちもありました。ですが、自分のボクシング人生のなかでも、もっと上の段階にいくための大きな一歩を踏み出せた大事な一年だったと思います。

ーー若い選手の急成長にはやっぱりきっかけがあるものです。そのアジアユースで印象的だった経験をより細かくいうと?

初戦がウズベキスタン代表の選手だったことです。正直、ウズベキスタンの選手はとても強いので、自分は足下にもおよばないと思っていましたし不安もあったんです。

ーーしかし勝てた。

やっぱりせっかく代表に選んでいただいて、自分のボクシングをやらずに負けて帰国するのは情けないなと思ったんです。自分の気持ちが吹っ切れたことで、初戦のウズベキスタンの選手に勝つことができました。そしてそれで得た自信が、世界ユースでの優勝につながったのだと思います。

ボクシングの駆け引き「パンチをよけることは頭で考えずにできるように」

ーーボクシングに興味がある人がいるし、ちょっと苦手だなという人もいます。後者の人たちはシンプルに思うと思いますよ。「殴られたり、殴ったりは怖くないんだろうか」と。

僕は最初からボクシングをしていたわけではなく、最初は空手からスタートしました。僕よりも先に兄が空手を始めて、その兄の流れに続いて、自分も礼儀を学ばせるために空手を習うようになったんだと思います。

ボクシングを始めたのは小学校5年生からです。実はそれも兄が先にボクシングに転向していて、その姿を見て魅力的に思えたんです。もちろん空手も好きでしたけど、新しいことを始めるのも良いかなと思ってボクシング転向を決断しました。

ーー怖さよりも魅力を感じた。どのあたりに?

トレーナーの方と兄がミット打ちをしていて、それが楽しそうに見えたことですね。そんなに楽しいのかなって興味がわいて、じゃあ自分もやってみたいと思いました。

ーー実際はどうでした?

最初は基本的なことを中心にやっていたので……楽しさというよりは、ちょっとつまらなかったですよ(笑)。まずは土台を作るために基本的なパンチのフォームだったりガードの練習だったり、そういうことが多くて。だんだん基礎ができてきて、実践練習を始めたときに、ボクシングのなかで行う相手との駆け引きが楽しく思えてきました。

ーー駆け引き。そこに楽しみがありそうです。

相手がパンチを出してくるタイミングは、頭で考えていたら分かりませんしよけられません。なので、考えずに相手のパンチをよける練習をしていて。そのとき相手の気を読んだり、パンチのタイミングを読んだりして、考えるよりも先に身体で気配を感じてよける。そして、すぐに自分のパンチを返す。こういう、相手のパンチをよけて返す、自分のパンチを打ったらまたすぐよける、っていうそういう駆け引きですね。それが僕にとって、ボクシングの魅力だと感じました。

ーー空手との違いは?

極真空手のときは、相手から攻撃を打たれても良いという気持ちで、打たれたら打ち返すという感じです。でも、ボクシングは打たれているとすぐにパンチが効いてしまうので、当てられずに当てないといけない。空手と違い、1発2発が命取りになる世界なので、そういうところで怖さを感じますが逆にそれが魅力でもあります。

ーーよりボクシングを理解するのに……例えば漫画を活用するのはどうでしょう?

僕の趣味でもありますね。最近は漫画を読むことにはまっていて。いろんな漫画を読んで息抜きしています。ボクシング漫画なら「はじめの一歩」、それ以外だと「NARUTO」とかを良く読んでいます。「はじめの一歩」はやっぱり惹きつけられますね。ちょっと現実離れしているところもあるんですけど、面白いですね。僕も頑張ろうって気持ちになる漫画です。

東京五輪に向け“今の段階から始めた準備”とは?

ーー目標や憧れの選手は?

WBOスーパーフライ級チャンピオンの井上尚弥選手に憧れています。井上選手のボクシングスタイルが、自分の目指しているスタイルにいちばん近い選手なんです。観ていても魅力的な選手です。これから井上選手がどれだけ強くなるのかなって興味がすごいあって。そういうところも含めて、すごく憧れている選手ですね。

ーーそういった存在に影響を受けつつも、「打たせずに打つ、そして倒す」とスタイルを駆使し東京五輪でいい結果が出るよう、期待します!

「打たせずに自分のパンチを当てて、なおかつ相手を倒す」というスタイルを自分は目指しています。やはりボクシングは相手を倒すことも魅力のひとつですから。今はその理想のスタイルの60%くらいまでしか達していないと思っています。でも、自分としてはそれが伸びしろだと思っています。

ーー世界ユースで優勝後、バンタム級に階級を上げました。これも東京五輪への準備でしょうか?

両親と相談した結果、そうしました。以前のフライ級だと、東京五輪までに何度も減量が続いて身体への負担も大きくなってしまいます。それなら、今のうちにバンタム級に上げておき、東京五輪に間に合うように身体を作っていったほうが良いんじゃないかと考えています。

18歳。そして3年後の夏。「こうなったら、こうなる」なんて経験則は、大人より絶対に少ない。それでもこう言う。「しっかり大人の選手たちに太刀打ちできるようトレーニングしています」。奢らない。尖らない。むしろボクサーのイメージから離れた優等生にすら見える。 彼が知っていること。そして大人も知らない場合が多いもの。それは「自分がやりたいことが何か」ということだ。現に自分のボクシングスタイルを言い切れる。それも国際舞台で痛烈に「やりたいことをやらないと意味がない」と知った。やりたいことが決まれば、やるべきことも見えてくる。当座の戦いは現在開催中の南東北高校総体(インターハイ)だ。8月6日の2回戦から登場し、順当に勝ち抜いている。9日の準決勝、そして10日の決勝での勝利を目指す。

<プロフィール>
堤駿斗 つつみ・はやと

1999年7月12日生まれの18歳。ボクシング選手。千葉・椿森中―習志野高在学中。本多ボクシングジム所属。小学校5年生から競技を始め、国内ではすぐに頭角を現した。U-15全国大会、アンダージュニア全国大会、第1回全日本アンダージュニアボクシング王座決定戦など多数のタイトルを獲得。高校入学後は国内タイトルのほか、高校2年時の昨年はアジアユースボクシング選手権(フライ級)、世界ユースボクシング選手権で日本ボクシング界初優勝(フライ級)。 日本ボクシング協会が選ぶ年間MVPを高校生として初受賞した。高校3年生の今年、東京五輪を見据えて1階級上のバンタム級(52kg超〜56kg以下)に上げた。