「猫を外に出さないで」獣医師らが警鐘を鳴らす「SFTS」の脅威とは?(博一 玉田/stock.adobe.com)※画像はイメージ

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九州地方で小動物臨床に携わる獣医師、ゆん獣医(@p8OGnaByjp67456)さん。先日、県の獣医師会のLINEからぞっとする報告を受け取ったという。

【写真】環境省でも「猫は室内で飼う」ことが推奨されている

「今日になって県獣医師会のLINEにSFTS報告めちゃくちゃ来てる。全猫死んでる報告。ねこを そとに だすな」

X(旧Twitter)にそう投稿したゆん先生。先生が参加した「SFTSのシンポジウム」も満席だったらしく、動物医療の最前線でも「SFTS」の危機感が高まっているそうだ。

猫→人への感染リスクが高い「SFTS」

厚生労働省のHPによると、SFTS(重症熱性血小板減少症候群:Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome )」は、主にSFTSウイルスを保有しているマダニに刺されることにより感染するダニ媒介感染症

2025年5月、SFTSに感染した猫を治療していた三重県の男性獣医師がウイルス感染で死亡。大きな問題となった。

「SFTSは今、動物病院関係者の間で非常に話題になっている疾患です。『猫ちゃんの命に関わる怖い病気』であることはもちろんですが、それ以上に、我々小動物獣医師にとってかなり『嫌な病気』です。人にも感染する可能性があるため、現場で働く側にとっても、負担と緊張感が非常に大きい感染症です。

採血や点滴、口元のケアなど、普段なら当たり前に行う処置でも、『体液に触れないように』『咬まれないように』『飛沫に注意して』と、診察する側は常に警戒が必要です。猫ちゃんを助けたい気持ちはあっても、まずはスタッフの安全も守らなければいけません」(ゆん獣医さん)

飼い主にも病院にも負担が大きい「SFTSに感染した猫」の現実

ゆん先生の病院では現在、「外に出る猫(外飼いや散歩をさせている猫)」が体調不良で来院した場合、まずは「SFTSの可能性」を念頭に置いて対応しているという。

「スタッフは防護具を着用し、隔離や消毒も含めた体制で診察します。そのため、通常診療よりどうしても手間もコストもかかります。その分、飼い主さんのご負担も増えることがあります。

さらに、入院ともなれば隔離管理が必要です。他の入院動物と動線を分けたり、防護具を着けたり、消毒を徹底したりと、通常診療と並行してかなりの手間と人手がかかります。現場としては本当に負担が大きい病気です。

最近では、スタッフの感染予防のために、野良猫や外に出る猫の体調不良については診察を控える、あるいは受け入れを慎重にしている病院も出てきていると聞きます。現場としては理解できる判断でもあります」(ゆん獣医さん)

治療も来院自体も拒絶されるリスクも

こういった状況から、保護猫団体や保護猫ボランティアの方々からも、「猫を保護すること自体が難しくなる」といった危惧の声があがっている。

「SFTSではなく別の治療可能な病気で体調を崩していたとしても、『外に出る猫だから』という理由でスムーズに診てもらえないリスクが出てきます。これは猫ちゃんにとって大きな不利益です。

何よりも猫の場合、SFTSはかなり重症化しやすく、助けられないケースもあります。昨日まで普通だった子が急変することもあり、診ていてつらい病気です。感染経路としては主にマダニですが、外に出た猫がダニをつけて帰ってきたり、感染した猫の体液などを通じて人に感染したと考えられる例もあります。

予防として一番確実なのは、猫を外に出さないことです。また、ノミ・マダニ予防も大切です。ただし、予防薬を使っていても感染した報告はあり、100%防げるわけではありません。それでも、マダニに刺されるリスクを減らすことで、感染の可能性を少しでも下げられるかもしれません。

獣医師としては、『完璧ではなくても、できる予防を積み重ねること』と、『そもそも危険にさらさないために猫を外に出さないこと』が何より大事だと感じています」(ゆん獣医さん)

「マダニ予防薬」を使ってる犬も厳重な注意を!

「猫を外に出さないで」と訴えるゆん先生の投稿に対して、「猫がダメなら犬も外に出すな」といった極端な意見も寄せられた。

「まず前提として、マダニ予防をしていてもSFTSに感染した報告はあります。ですので、予防薬を使っているから犬の散歩が100%安全というわけではありません。犬も猫も、マダニ対策は大切ですが『絶対に防げるものではない』という認識は必要です。

また、犬で発症した場合は重症化しやすく、死亡率は猫より高いという報告もあります。ですので、決して『犬は大丈夫』『犬は気にしなくていい』という話ではなく、犬ももちろん要注意です」(ゆん獣医さん)

犬より猫の方が危険な「人への感染リスク」

それでも、「猫」が外に出る方がはるかにSFTSのリスクが高いという。

「猫のSFTSをより強く意識してほしい理由の1つが、犬より猫の方がSFTSに対する感受性が高く、発症例を多く見かけることです。現場感としても、SFTSが問題になるのは猫であることが非常に多く、『外に出る猫の体調不良=まず疑う病気』の1つになっています。

また、外に自由に出ている猫の場合、どこで何をして、何に接触しているのかを把握しにくい点も大きな問題です。人の目の届かない時間帯に、空き地、藪、山際、茂み、野生動物の出入りする場所などへ入ってしまっている可能性があります。どこでマダニに刺されたかの把握がしづらく、マダニがついたまま帰ってくることもあります。

一方で犬の場合、基本的に散歩中は飼い主さんの管理下にあります。リードをつけ、行く場所もある程度選べます。一般的な飼育環境で、散歩中に野生動物が多い藪の中や、管理がされていない草地の奥まで入り込むケースはそれほど多くありません。帰宅後にマダニがついてないかの確認もしやすいです。

もちろん、道端の草むらや公園にもマダニが多い場所はあるので、犬の散歩も絶対安全ではないのですが、『犬も外に出ているから猫も同じ』という単純な話ではありません。犬にも十分な予防は必要ですが、猫を自由に外へ出すことは、発症リスクの高さ、行動管理の難しさ、人への感染リスクなど、別の深刻さがあります」(ゆん獣医さん)

「助けられない状態で運ばれてくる猫」

そもそも、人への感染リスクが高い「SFTS」に警鐘を鳴らす以前から、獣医師たちは口々に「猫を外に出さないで」と訴えている。

ゆん先生によると、そこには大きな理由があるという。

「私たち獣医師が猫を外に出さないでと伝えるのは、猫の行動を制限したいからではありません。外での事故や病気で苦しむ猫を何度も見ているからです。助けられた命もあれば、どうしても助けられなかった命もあります。

代表的なのは『交通事故』です。骨折や内臓損傷、脊椎損傷など重いケガで運ばれてくる子もいますし、そのまま亡くなってしまうケースもあります。他にも、猫同士の喧嘩による咬み傷や膿瘍、猫エイズ・猫白血病など感染症のリスク、ノミ・マダニ・寄生虫感染、毒物や毒餌の誤食、虐待被害、迷子になって帰れなくなるケースなど、外には室内では避けられる危険が本当にたくさんあります。

よく、『外に出た方が猫は幸せ』『自由にさせてあげたい』と言う方がいます。気持ちはわかります。猫本来の習性を考えると、外で木に登ったり獲物を探したり、さまざまな刺激に触れる生活は自然に見えるかもしれません。

ただ、その“自然な環境”には、現代では交通事故や感染症、人とのトラブルなど、昔よりはるかに多くの危険が含まれています。室内でも猫の本能や欲求を満たす工夫は十分可能です。例えば、キャットタワーや棚で上下運動できる環境を作る、じゃらし遊びや知育トイで狩りを模した遊びを取り入れる、隠れ場所や日向ぼっこスペースを用意するなど、猫らしく過ごせる住環境は整えられます。

今の時代、猫にとって安全で長く穏やかに暮らせる環境は、完全室内飼育だと思います。室内でも遊び、運動、刺激、安心できる居場所は十分つくれます。『猫を外に出さないのはかわいそう』ではなく、『猫を危険から守るために外に出さない』という考え方がもっと広がってほしいと思います」(ゆん獣医さん)

今年は「マダニ」の診察が増加の傾向

SFTSは「マダニ」を媒介とする危険な感染症。ゆん先生によると、今年はとくに「マダニ」の被害を受けた犬や猫を多く診察している印象があるという。

「マダニの増加が近年の気候などの影響かどうかは不明なのですが、SFTSの報道によって飼い主様方の意識が高くなってることが関係しているかもしれません。それならばなおさら、予防をしっかりとして、『猫は外に出さない』を徹底してほしいところです」(ゆん獣医さん)

(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・はやかわ リュウ)