中国・北京で2日間にわたって行われた米中首脳会談。トランプ大統領は大きな成果を強調し、習近平国家主席も今後の米中関係に期待を示した。世界が注目した会談でアメリカは何を狙い、中国はどう思惑を巡らせたのか。

【映像】トランプ氏が訪中で見せた“驚きの行動”(実際の様子)

 ニュース番組『わたしとニュース』では、国際政治学者の三牧聖子氏、ハーバード大学医学部准教授の内田舞氏の解説とともに深掘りした。

■想定以下の商談と「半導体が交渉カードにならない」現実

 トランプ氏は「互いにとって素晴らしい貿易取引を結ぶことができた」とし、習近平氏は「両国はすでに新たな大国関係について合意し、建設的・戦略的な関係です。今回の訪問が道しるべとなることでしょう」と発言。

 また会談後、トランプ氏は米・FOXニュースのインタビューで、中国がアメリカ産の大豆や液化天然ガス、さらにボーイング製の航空機を購入することで合意したと述べ、貿易面で多くの成果を勝ち取ったとアピールした。この成果について、三牧氏は次のように語る。

「確かに今回の米中首脳会談の結果、いくつかトランプ氏が狙っていた商談は成立したが、それは想定以下だったと言っていい。ボーイング機、200機というのも予測を下回っていて、この会談後にボーイング社の株価も下がり期待以下だった。さらに農産品は非常に重要で、トランプ氏の関税政策で農家が『(農産品が)売れない』と。農家の批判、悲鳴は高まっていた」(三牧氏、以下同)

「さらに、2月末に始めて終えることができていないイラン戦争によって、トランプ氏は『ホルムズ海峡が開かなくてもアメリカは困らない』『原油だって自分たちで生産できるんだ』と言っているが、生産できないものがあってそれが“肥料”。肥料の原料もホルムズ海峡由来のものはたくさんあるので、肥料価格が高騰してまたもや農家に打撃を与えてしまった」

 さらに今回、トランプ氏が直接電話して同行を求めた半導体大手エヌビディアのジェンスン・ファンCEOの存在にも注目が集まっていた。中国側にとって関心の高い最先端半導体をめぐる交渉の切り札になるのかと思われたが、成果は目立たなかったという。

「中国がもうエヌビディアの最先端の技術が欲しがって、どんどんエヌビディア製のものを買ってくれるかと思いきや、中国の方はアメリカのエヌビディアに魅力を感じているというよりは、中国は『自前のものを育てていこう』という発想になっていて。今回の米中首脳会談がこの半導体で示してしまったのは、アメリカの最先端の半導体が中国に対する有効な交渉カードにならないのではないかということ。今回、ファン氏を連れて行った。そこまでしたのに、あまり目立った商談が成立する気配もない。半導体に関して今はアメリカが優位にあるけど、『実は絶対ではない』ということを内外にさらすような顛末になった」

■中間選挙への危機感と中国の“したたかな”勝利

 ボーイング機の購入も半導体も、期待通りの成果には結びつかなかった可能性がある今回の会談。それでもトランプ氏が目に見える商談の成果に強くこだわった背景には、来る秋の中間選挙への危機感があるという。

「トランプ関税、イラン戦争でガソリン価格が上がっていて、今のところ共和党は(中間選挙で)『かなり苦戦するんでは』と言われている。そうした中で米中首脳会談ではアメリカの有権者に対して、具体的な“ビジネス上の果実”を勝ち取ることが今回トランプ氏の目的になった。そういうアメリカの事情を中国はよく見ていた」

 アメリカが国内向けにわかりやすい成果を求めたトランプ氏。その一方で、中国はこの会談をどう位置づけていたのか。

「中国にとってはこの会談自体が成果。まず冒頭に非常にセンシティブな課題、中国の最大の関心事である台湾問題を持ってきて、『台湾の独立と東アジア、台湾海峡の安定・平和は両立しない』『台湾問題にアメリカは口を出すな』という形でけん制して始まった。トランプ氏はそれに反論することもなく会談は進んでいった。中国にとっては米中2大国、いわゆるG2の2つの大国が牽引していく世界の到来。今後、米中どちらがより主導権を握っていくのかに関して、『中国なのではないか』と印象づけるような会談の構成作りに成功した」

■分断するアメリカメディアと冷めた国民の反応

 今回の米中首脳会談では、共同声明やプレスリリースは両国とも発表していない。アメリカが後日公表したファクトシートで、中国が購入を約束した農産物や航空機の量などが明らかにされたのだが、この成果についてアメリカ国内での受け止めを内田氏が語る。

「アメリカでは、中国が大量購入を約束したというトランプ氏の発言自体は大きく報じられているが、それによるアメリカ国民たちの実生活への影響として、今まで本当にいいことがどれだけあっただろうと懸念を持っている方が多い。株価の反応も含めて、市場そして国民は慎重に見ている印象がある」(内田氏、以下同)

 メディアによっても報じ方に温度差があり、分断が進むアメリカの現状が浮き彫りになっている。

「この分断の国としてメディアの分断もかなり大きい。テレビ局によって政治的なバックグラウンドが違うので、局の思惑としてどのような印象を売りたいのかが違うのだと思う」

「アメリカメディアで報じられていることとしては、成果そのものよりも、成果があったように見せる演出、フレーミングが大きい感じがする。また、ファクトシートというものが作られたけれど、結局私たちの実生活に影響する数字や文章はどこ?といったSNS投稿がかなり拡散されていた」

■中国が突きつけた「トゥキディデスの罠」と失われた優位性

 会談の中では、習氏が米中関係について「米中両国がトゥキディデスの罠を乗り越えられるのか」とトランプ氏に突きつける場面があった。「トゥキディデスの罠」とは、既存の大国と急速に台頭する新しい大国が、戦争が避けられない関係になってしまうことを歴史的に示した言葉だ。

 この言葉に対するアメリカの反応について、内田氏は次のように語る。

「これはアメリカでも報じられている。私はこの言葉を知らなかったが、初めて目にしたのがレイトナイトコメディだ。アメリカのレイトナイトコメディは、夜遅くにあるお笑い番組のようなものだが、単なるお笑いではなく政治や社会を風刺する文化としてかなり影響力がある番組が多い」

「そのレイトナイトコメディでは、番組のMCがトゥキディデスの罠という言葉について、習氏が発言したシーンを映して『トゥキディデスなんて言葉をトランプが知っているわけないじゃないか』『習氏はなんでそんな難しい言葉を使うの』という感じで文句を言うシーンから始まった。トゥキディデスの罠という非常に歴史哲学的な言葉を習氏が持ち出した直後に、今度はトランプ氏が『アメリカには中華料理屋がこんなにたくさんあるんだよ』と語った映像を流して、両首脳のコメントの高尚さの落差を笑いに使っていた」

「それは多くの人が面白いと感じた番組だったが、もう少し真剣なメディアにおいては概念について紹介されていた。トゥキディデスの罠というのは、戦争が起きる具体的な話の背景に、既存の大国が自国は衰退するんじゃないかという恐怖を抱く状況、そして新興国がどんどん上っていきたい・自分も大国として並びたいという恐怖と野心がぶつかるところで生まれる、心理的・政治的な摩擦を示す言葉でもあり、習氏がこの表現を用いたこと自体、中国の野心を明確に示した発言だと分析する声もあった」

 今回の会談には、エヌビディアのジェンスン・ファンCEOやイーロン・マスク氏、アップル社のティム・クック氏などアメリカのトップ経営者らが同行したものの、思い描いたほどの成果は上がらなかった。この結果は、世界のパワーバランスの変化を示唆しているという。

「特にAIや半導体は、アメリカが最後まで最先端技術を握っている切り札と考えてきた分野でもあると思う。でも今回、中国側が以前ほどそこに食いつくことはなかったのでパワーバランスがシフトしているという見方もあると思うし、たとえアメリカが最先端技術を持っていたとしても、それだけで相手を完全にコントロールできる時代は終わった、そういった現実が見えた会談だったかもしれない」

(『わたしとニュース』より