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日本酒が苦手という方に、よさを見直してもらおうと、岡山県真庭市の蔵元で新たな商品が企画されました。手がけるのは将来独立を目指す入社3年目の新人。果たして、どのような日本酒なのでしょうか。

【写真を見る】男性が手がけた新しい日本酒「Ryok」 上質な酒と贅沢な食事を意味する故事成語「紅灯緑酒」にちなんで

独立を目指して 入社3年目が手がける日本酒の新商品

(辻本店 井上翔太さん)
「めっちゃワクワクしています。けど不安もめっちゃあります」

1804年の創業、御前酒で知られる真庭市勝山の蔵元、辻本店です。3月、新商品の日本酒の仕込み作業が始まりました。手がけるのは、将来の独立を目指して酒造りを学んでいる34歳の井上翔太さんです。

(辻本店 井上翔太さん)
「今まで馴染みがなかったけど、意外と日本酒ってこんなにおいしいんだと思ってもらいたい」

目指すのは、しっかりとした旨味を感じられる一方で、通常よりもアルコール度数を抑えた、「日本酒は苦手」という人にもおいしいと感じてもらえる商品です。上質な酒と贅沢な食事を意味する故事成語「紅灯緑酒」にちなみ「Ryok」と名づけました。

(辻本店 井上翔太さん)
「最初にハイボール飲んでビール飲んで最後に、いつ開いたかも分からない日本酒を飲んで『うわ、おいしくないな』みたいな。それから10年飲んでいません、みたいな感じのことを言われる方が多くて」

日本酒を嫌いになる理由として「出会い方に問題がある」と分析する井上さん。きちんと純米酒のおいしさを伝えることができれば見直してもらえると考えています。杜氏の辻麻衣子さんも井上さんのコンセプトを高く評価しています。

(辻本店 杜氏 辻麻衣子さん)
「新しい世代にアプローチできるような日本酒の開発というのを彼からも学んで、私たちも今後の商品づくりにいかしていきたいというふうに思っています」

きっかけは2年間の海外赴任 「母国のルーツに誇りを」

生まれ育った岡山市に醸造所を構え、来年(2027年)の秋をめどに独立を目指す井上さん。「Ryok」の開発は、夢を実現するための第一歩です。

(辻本店 井上翔太さん)
「一本自分で仕込んだことがあるという経験がないと、やっぱりこれから迷っていくだろうし、一本自分の基準になるようなお酒を造りたいなと思って」

そんな井上さん、昔から日本酒が好きだったわけではないといいます。きっかけは、2021年までの2年間を過ごしたマレーシアでの海外赴任経験でした。大学時代に勉強した英語力を活かそうと東南アジア各国にも拠点を持つ、東京の電子部品メーカーに就職した井上さん。インド系や中国系など文化や言語の異なる人々が共存する他民族国家での生活を経験したことで日本人として、「母国のルーツに誇りを持って暮らしたい」と考えるようになりました。

(辻本店 井上翔太さん)
「日本っていいものが無限にあるにも関わらず、自分たちがそれに気づいていないというのがすごく悲しい事だなと思って、日本の文化に携われるような仕事がしたいと」

その後、日本に帰国。当時、勤め先があった京都で、偶然飲んだ辻本店の酒に衝撃を受けました。

(辻本店 井上翔太さん)
「日本酒って重たくてアルコール感が強いと思っていたんですけれど、これはそんなことなくて、日本酒ってこんなバリエーションがあるんだと思いました」

故郷の岡山県で造られた日本酒であったことにも運命を感じたといいます。そして井上さんは本格的に酒造りを学ぼうと一念発起して転職。3年前に辻本店の門を叩きました。

(辻本店 井上翔太さん)
「営業とか企画とかを考えるのは得意だけれども、本当に汗を流して体を入れて、やってみないと本当に血の通ったお酒はできないんじゃないかなと思って、醸造部で働かせてほしいという話を最初にさせてもらいました」

酒造りを通じて、岡山が日本酒と関わりの深い地域であることにも気づかされました。それは、岡山がルーツの酒米「雄町」の存在です。約160年前、現在の岡山市中区雄町で発見された品種で流通量こそ少ないものの、濃厚な旨味を持ち、ほかにはない味わいに仕上がることから「幻の酒米」といわれています。岡山は全国の生産量の9割以上を占める最大の産地。しかし、県内での知名度はそれほど高くなく、井上さんもこうした事実を知らなかったといいます。

(辻本店 井上翔太さん)
「もっと知ったら、岡山の人がもうちょっと岡山を誇りに思えたり、岡山を好きになれたりするんじゃないかなと思います」

日本酒離れが進む国内で業界を盛り上げたい!

知識や技術を教わるだけでなく、やがて独立する自分に、新たな酒造りまで任せてくれる辻本店には、感謝しかないと井上さんは話します。一方、辻本店にしてみれば、同じ県内で独立を目指す井上さんは将来の競合相手。それでも後押しするのはなぜなのでしょうか。

(辻本店 辻 総一郎 社長)
「日本酒業界というのは、どちらかというと斜陽産業で年々酒蔵の数も減っていますし、消費量も減っている。そういった中で、やる気のある若者を受け入れるということは大きな刺激になる」

そこには、国内で日本酒離れが進む中、「少しでも業界を盛り上げていきたい」という思いがありました。その一方で、海外では「和食」などとともに日本酒の評価が高まってきています。辻本店では2007年に海外での販売を開始。当初はオランダのみだった販路も現在は22か国に拡大し、売り上げは20倍以上に。去年(2025年)はフランスのコンテストでグランプリを受賞するなど、ブランド化にも成功しています。こうした中で、国内でも需要を高めたいという井上さんのコンセプトは、挑戦しがいのあるものでした。「Ryok」は専門店ではなく、県内のスーパーやコンビニでの販売を予定していて、「酒は好きだが日本酒は飲まない」という層にも手に取ってもらいやすい環境を作りたいといいます。

(辻本店 井上翔太さん)
「期待してもらっているぶん形にして、『井上おってよかったな』と思われるような酒にしたいなと思っています」

「思い描いた理想の味」夢への第一歩となる新しい酒

そして先月(4月)20日。醪から日本酒を絞り出す「上槽」という作業が行われました。甘い香りとともにRyokがタンクの中にあふれ出します。入り混じるのは期待と不安…。初めての試飲です。

(辻本店 井上翔太さん)
「うん。おいしいです。思い描いた理想の味にかなり近い所にきているから…」

(辻本店 辻 麻衣子さん)
「筋はいいというか。当初設計したような味わいに近い味が最初からできたので。あまり最初からできることないんですけどいい出来だなと思います」

低アルコールの飲みやすさと日本酒本来の深みを両立させた新しい酒の誕生です。

(辻本店 井上翔太さん)
「酒の価値観を変えるぐらい、いいものになるんじゃないかと期待しています」

自らの人生を変えた日本酒を多くの人に好きになってもらいたい。Ryokは、このあと7月中旬まで熟成させ、9月中旬の初出荷を予定しているということです。