「退屈しのぎのつもりだった」〈年金月29万円・貯蓄あり・ローンなし〉の74歳元会社員、順風満帆のはずの老後が崩れた理由
老後資金にある程度の余裕があれば、安心して穏やかな生活が送れる――そう考える人は少なくありません。年金収入が安定し、住宅ローンも完済していれば、生活の基盤は整っているように見えます。しかし、時間とお金の両方に余裕があるからこそ、思わぬ落とし穴にはまるケースもあります。老後のリスクは、必ずしも「不足」から生じるとは限りません。
「時間がありすぎた」…老後、“軽い気持ちで始めたこと”
「正直、何も不安はなかったですね。むしろ、これから何をしようかと考える余裕があったくらいです」
藤井さん(仮名・74歳)は大手メーカーに長年勤め、定年後は再雇用を経て完全にリタイア。現在は年金収入が夫婦あわせて月約29万円、加えて退職金を含む金融資産も十分にあり、持ち家でローンもありません。
「贅沢しなければ、一生困らないと思っていました」
日々は穏やかでした。朝は散歩、昼はテレビや読書。時折、近所の友人と将棋を指す。そんな生活の中で、ある変化が訪れます。
「時間が余るんですよね。毎日同じことの繰り返しで」
きっかけは、近所の知人に誘われたパチンコでした。
「最初は本当に暇つぶしでした。1,000円くらいで遊んで、勝ったり負けたりして帰るだけ」
その程度の軽い感覚でした。実際、最初のうちは大きく負けることもなく、「ちょっとした刺激」として楽しめていたといいます。
しかし、次第にその頻度が増えていきました。
「今日は少しだけ、と思っても、気づいたら半日いることもあって」
さらに、パチンコだけでなく、スマートフォンでの競馬やオンラインの投資情報にも興味を持つようになります。
「“これくらいなら大丈夫”という感覚があったんです。資産もあるし、少しくらい使っても問題ないだろうと」
金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査(2023年)』によると、高齢世帯の金融資産は平均値が高く見える一方で、実際の中央値とは乖離があり、資産状況には大きなばらつきがあります。そんななか、「自分は大丈夫」という感覚が過信につながる可能性もあるのです。
藤井さんもまた、その「余裕」に支えられていました。
「生活費とは別のお金、という感覚で使っていました」
「気づいたときにはもう」…崩れていく生活と取り戻せない感覚
異変に気づいたのは、通帳の残高を確認したときでした。
「こんなに減っているのか、と…さすがに焦りました」
数年の間に、数百万円単位で資産が減少していたのです。
それでも、すぐにやめることはできませんでした。
「取り戻そうと思ってしまったんです。ここでやめたら、全部無駄になる気がして」
この心理は、多くのギャンブル依存に共通するものです。損失を回収しようとする行動が、さらに損失を拡大させる悪循環に陥ります。
さらに、生活リズムにも変化が生じていました。外出の頻度が増え、家にいる時間が減り、食生活も乱れがちに。家族との会話も減っていきます。
「妻には心配されました。“最近、様子がおかしい”って。今思えば、退屈だったんでしょうね。でも、その埋め方を間違えた」
最終的に藤井さんは、家族の勧めもあり、利用頻度を大きく減らしました。完全にやめることはできていないものの、「使う金額」と「時間」を厳しく制限するようにしています。
「もっと早く気づくべきでした。でも、あのときは止まれなかった」
現在は、地域のボランティア活動に参加し、生活のリズムを立て直しつつあります。
「人と関わる時間が増えて、少しずつ変わってきた気がします」
老後の生活は、「お金があるかどうか」だけで決まるものではありません。時間の使い方や、人との関わり方が大きく影響します。余裕のある老後だからこそ、その使い方が問われるのです。
