現在、1日平均で約30件も道路の陥没事故が発生している…

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 2020年春から新型コロナウイルス感染症が流行すると、不要不急の外出を自粛するように繰り返し呼びかけられた。緊急事態宣言が発出されている期間中はもちろんのこと、そうでない時期も、観光やレジャー、会食などは当然として、友人と会うのも、帰省も、極力避けるべきものとされた。いったいどれだけ「ステイホーム」と叫ばれたことだろうか。それもこれも命を守るためだとされた。

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 だが、私たちの命を危険にさらすリスクがあるのは、コロナウイルスだけではない。リスクをみな排除しなければならないなら、いまも「ステイホーム」を続けなければならないはずだ。歩行中、あるいは自動車やバイク、自転車などに乗車中に、いつ道路が陥没して事故に巻き込まれるかわからないから、である。

現在、1日平均で約30件も道路の陥没事故が発生している…

 道路の陥没といえば、2025年1月28日に埼玉県八潮市で起きた事故が記憶にあたらしい。幹線道路である県道の交差点に突然穴が開き、左折して入ってきた2トントラックが落下。その後、穴はどんどん拡大し、消防や救急が到着したとき、縦9メートル、横10〜11メートルに広がり、トラックはほとんど土砂に埋まっていた。その後、穴は幅40メートル、深さ15メートルにまで拡大し、運転手は助からなかった。

 被害は周辺にも広がり、現場から半径200メートルの範囲にある全世帯に避難指示が出され、現場から下流の12市町には下水道使用の自粛が求められ、結局、復旧や補償費用を合わせて、総額300億円以上を要する見込みだという。

 この八潮市の事故は、決して例外的なものとはいえない。現在、日本では規模に大小あっても、年間1万件前後、1日平均で約30件も道路の陥没事故が発生している。それはすなわち、日本中の道路がすでに危険な状態にあるということだ。そろそろリスクを回避するために、「ステイホーム」を呼びかけてもいいのではないだろうか。少なくとも、放置していい状況ではない。

増え続ける危険な下水道管

 一例を挙げれば、今年1月9日、新潟市東区の市道のT字交差点で中央付近が突然崩落し、直径5メートル、深さ3.5メートルの穴が出現。通りかかった大型トラックの後輪がそこにはまり、男性運転手が腰を打撲するケガを負った。人命にこそ関わらなかったが、それは偶然にすぎない。

 国土交通省によると、2022年度末の時点で、全国の下水道管の総延長は約49万キロメートルに達するという。このうち、50年と定められている法定耐用年数を超えたものは、総延長の7%にあたる約3万キロメートルだが、それはあくまでもすでに「超えたもの」であり、これから超えるものが目白押しなのだ。10年後には19%にあたる約9万キロメートルが、20年後には40%にあたる約20万キロメートルが、法定耐用年数を超えるという。それに、八潮市の事故の原因になった下水道管は、42年前に敷設されたものだったことを考えれば、危険な下水道管の比率はもっと高い。

 太平洋戦争の空襲で焦土と化した日本は、高度経済成長期に下水道管をはじめとするインフラ整備を一気に行った。その分、一気に老朽化する宿命にある。

 それなのに、読売新聞が昨年12月から今年2月にかけて行ったという自治体アンケートで、怖ろしい事実が判明した。道路の下に空洞ができているかどうかを調べる「路面下空洞調査」を、道路を所有する都道府県や市区町村の7割超が実施していなかったというのである。

過半数の道路の危険性が未調査

 この調査は、トラックの車体の後部から路面に電磁波を当て、反射波から地中の空洞を探るというもの。地下に埋設された上下水道などのデータとも照合し、地下2メートル程度までの空洞の場所や大きさ、深さなどを特定できるという。

 国が管理する国道に関しては、国土交通省が5年で一巡するペースで、この「路面空洞化調査」を行っている。だが、都道府県や市区町村が管理する道路は、調査を行うかどうかが自治体の判断にまかされている。読売新聞は計1788自治体に対してアンケート調査を実施し、1593自治体から回答を得たが、74%にあたる1184自治体が2013年以降、1度も調査を実施していないと答えたそうだ。74%の自治体は道路の危険性を放置していた、あるいは、見て見ぬふりをしていた、ということである。

 国道では実施されているから悪くない、と思ったら大間違いである。国土交通省によれば、2023年3月時点で、一般国道の総延長が6万6546キロメートルなのに対し、都道府県道の総延長は14万3046キロメートル、市町村道は106万6459キロメートルで、国道は全体のごく一部にすぎない。結局、過半数の道路が未調査ということだろう。ちなみに、八潮市の事故が起きたのは県道で、前述した新潟市の事故は市道であった。

 調査を実施していない自治体の50%が、理由として「予算を確保できない」と答えたそうだが、そうしているあいだに、法定耐用年数を超えた下水道管も、八潮市のような、まだ超えてはいないが危険な状態にある下水道管も、どんどん増えるはずである。

 この状況はたとえれば、地雷が埋められた道路が増えているのに、どこに埋まっているか調査もせず、放置しているようなものだ。ホルムズ海峡なら、船は機雷なんか気にせずに航行しろといわれているのに近い。コロナのときは全国の自治体が執拗に「ステイホーム」を強調したくせに、どうして道路が危険な状況にあり、通行する人の安全が脅かされているのに、平気な顔をしていられるのか、と嫌みのひとつもいいたくなる。

結局、必要なのは税金

 各自治体のもとでは、公営企業による独立採算制で運営されている水道事業も、水道管の耐用年数が急速に訪れるなどして、先行きが危ぶまれている。生きるためにも、衛生環境を維持するためにも、経済活動にも欠かせない水道インフラが維持できないとしたら、きわめて危険である。同様に下水道インフラも、生活用水や雨水を処理するために絶対に欠かせない社会基盤で、そのうえ老朽化すると、人間の生命に関わる事故につながる。

 少子化が進み、人口が減少するのに反比例して、これらインフラの老朽化が急速に進もうとしている以上、その管理や更新は、これからますます困難になる。ところが、これから先にくらべればまだ余裕があるはずのいま、多くの自治体で「路面下空洞調査」を行う予算も確保できない現状は怖ろしい。

 国が主導して、地方自治体がスムーズに調査が行えるシステムを構築すべきだが、自治体に先立つものがないのも事実だろう。まちがいなくいえるのは、私たちがいままで当たり前に享受してきた生活上のサービスを維持するためには、これまで以上に税金が必要だということである。「生活のために減税を」という主張は、生活の破壊にしかつながらないことを、私たちはそろそろ認識したほうがいい。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部