【中村 清志】「ネット民がザワつくラーメン店」田所商店が急成長…ファンを生む「二郎や家系との共通点」とは
味噌らーめん専門店「麺場 田所商店」が、競合ひしめくラーメン業界にあって近年、急速にその勢力を拡大している。その特徴は何と言っても、メジャーとされる醤油や塩、豚骨でもない“味噌に特化”することで、他店との差別化を図っているという点。今や《味噌ラーメン=田所商店》と想起するコアなファンも増加中だ。
ちなみに、“田所商店”について調べていると、各大手メディアがあまり報じていない一方、SNSやネット掲示板などで妙にピックアップされている印象を受ける。見れば、日本のネットミームとして一部界隈では高い知名度を誇る「野獣先輩」との関連付けられる(その本名が“田所”浩二氏とされている)ような形で取り上げられているようだ。
田所商店としては「いい迷惑」な気もするが……。それはさておき今回は、あえてメジャーなカテゴリから外れた味噌ラーメンに一点集中したことで、想定外の急成長を遂げた同チェーンの強みに迫っていきたい。外食業界に詳しい中村コンサルタント代表・中村清志氏が解説する。
なぜ味噌ラーメン1本に絞ったのか
「麺場 田所商店」(以下、「田所商店」)は2003年に千葉県で1号店を開業し、今年で23年目を迎えるラーメンチェーン店。そのコンセプトはずばり、「味噌屋が作った本物の味噌らーめん専門店」だ。
運営元は株式会社トライ・インターナショナルで、主な事業内容は「田所商店」を中心とした味噌ラーメン専門店の直営店経営ならびにフランチャイズ(FC)事業、それに自社工場での各種味噌・タレ類・食材や、加工食品の製造・卸売などが挙げられる。
同社の社長、田所史之氏(ここから“田所”という屋号は来ているわけだが)は、かなりの苦労人でも知られる。大学中退後、FCのラーメン店を始めるものの、バブル崩壊なども相まって事業が上手くいかず35歳の時に挫折。途中、サラリーマンを経験しつつ、40歳になってあらためて起業を決意。商材を探す中で、福島にある実家が味噌の醸造元であったことから、自身の経験も踏まえて「味噌ラーメン」に行き着いたという。
いま振り返れば、かつてFC事業に携わっていたことが大きな糧となったのだろう。「田所商店」は2010年以降、FCでの展開を本格化させると、そこから一気に急成長。2019年の109店舗から、途中コロナ禍でも出店攻勢を続け、今年4・5月の出店(予定)も入れると国内194店舗にまで店舗網を拡大するに至っている。
では、肝心の業績についてはどうだろうか。
全国展開していても…地元「千葉愛」変わらず
直近の株式会社トライ・インターナショナルのチェーン売上高(2024年度実績)は166億円、そのうち海外売上高は10億円となっている。財務状況(2025年3月期の賃借対照表)を見ると、自己資本比率は9.5%と過少気味にあり、資本の安定性は低いと考えられる。
積極的に出店を推し進めている外食チェーンは、総じて出店費用がかさむことで、借入依存度は高くなりやすい。その点では「田所商店」もやや不安ではある。とはいえ、同チェーンにとって“追い風”となる動きもいくつか見られている。
昨年12月には、宮崎を拠点として約140年にわたって味噌や醤油など発酵食品を製造してきた老舗企業、早川しょうゆみそ株式会社を買収。これにより、老舗ならではの発酵技術やブランドを継承し、すでに特化している味噌事業をさらに補強することになるはずだ。
また同じタイミングで、地元・千葉の大手地銀、京葉銀行系の成長支援ファンドから資金調達を行ったことも報じられている。調達資金額は非公表だが、新規出店や商品開発に投じられる予定だという。
このほか、株式会社トライ・インターナショナルは同県内の食品関連企業とタッグを組んだ新商品を開発するなど、地元との連携に力を入れている。どれだけ店舗網を広げても、チェーンの出発点となった千葉県を重視する姿勢は、安定した顧客維持につながることはもちろん、今後の財務基盤の盤石化に結び付くかもしれない。
つづいて「田所商店」の原動力となるこだわりの味噌について見ていくとしよう。
店ごとに味が違う?「味噌の組み合わせ」は無限大
「田所商店」で使われる基本の味噌は、北海道・信州・九州・江戸前・伊勢と、実に5種類もある。各店舗はこの5種類から、地域性や市場にニーズに合わせて3種類の味噌を選定し、メニューを構成しているという。
5種類の味噌それぞれの特徴は以下の通りだ。
?北海道味噌:塩味がやや強く、コクと深みに特徴がある
?信州味噌:濃口味噌の代表、やや酸味のある芳香をもつ
?九州味噌:熟成期間が短く、甘口味噌が多い
?江戸前味噌:たっぷりの麹を使った甘みと少ない塩分が特徴
?伊勢味噌:八丁味噌の流れを汲み、濃厚で特有の渋みをもつ
つまり味の組み合わせだけで、単純計算“10通り”もあることになる。さらに期間限定ではあるが、広島や徳島、山形の味噌が採用されることもあった。そのため、ここに各店舗のオペレーションの差異も踏まえれば、「ひとつとしてまったく同じ味の店は存在しない」可能性すらある。
たとえば現在、ラーメン業界では一大勢力を誇っている「ラーメン二郎」や「家系ラーメン」などは、使う食材やスープなど味の系統は同じであっても、店ごとに味が絶妙に異なることが、人気要素のひとつになっている。
その要素が、全国に200店舗近くある「田所商店」のような巨大チェーンにもあること自体、非常に興味深い。これこそが他チェーンの追随を許さない、味噌に特化した同社の真似できない“強み”なのだろう。
【後編記事】『ジワジワ勢力拡大「田所商店」ついに“山岡屋超え”達成…「令和の味噌ラーメンブーム」けん引、躍進の背景は』へつづく。
