「無視してみた」ドッキリで小2が登校拒否に…いじめ76万件で過去最多 専門家「“悪気はない”は通用しない」

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増加を続ける子どものいじめ。文部科学省が昨年10月に公表した「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によれば、小・中・高等学校及び特別支援学校におけるいじめの認知件数は76万9022件となり、過去最多を記録した。なかでも小学校は61万612件と圧倒的に多く、最も多い学年は小学2年生だ。編集部にも、「小学2年生の子どもがクラスメイトから無視され、学校に行きたがらなくなっている」という保護者からの相談が寄せられた。

【画像】YouTubeで「無視」「ドッキリ」と検索すると多くの動画が出てくる

「無視してみた」ドッキリを仕掛けられた子どもが「学校に行きたくない」

「小2の娘が学校に行きたがらなくなってしまって」

こう話すのは、都内で二人の子どもを育てる40代の父親だ。発端はささいなことだった。

「YouTubeで『無視してみた』というドッキリ企画が流行しているみたいで、娘がクラスメイトから仕掛けられたようなんです。

相手は『ふざけただけ』のつもりのようなのですが、本人はショックが大きかったみたいで」

この父親は学校側に連絡をとってみたが、「当事者の子には響いていなそうだった」と話す。

「こういう遊びの延長のようなものは対応が難しいです。最近はSNSやネットの影響で、子どもが安易に真似してしまいます。

でも『悪意はなかった』『遊びのつもり』などと言われても、受けた側はショックが大きいですよ」

実際、YouTubeやTikTokには「無視してみた」というドッキリ企画の動画が数多く投稿されている。

中には「クラスメイトに無視されるいじめに遭っている」という設定の動画もあり、低年齢の子どもが影響を受ける可能性もある。

こうしたドッキリ企画はテレビでも健在だ。

しかし、放送倫理・番組向上機構(BPO)は2022年に示した見解(「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー」に関する見解)のなかで、次のように記している。

「中高生モニターの高校生の中には、制作者と出演者の間の了解を理解している例も見られるが、視聴者が小学生の場合は、作り込まれたドッキリ企画をリアリティ番組としてとらえる可能性は高い」

またフジテレビでも、平成31年3月13日に行なわれた第485回番組審議会でドッキリ番組を取り上げた際に、委員から以下のような声があがっている。

「お母さん世代、子育て世代が見ている。子どもたちにそういう価値観が伝わっていったときに、一体どういう子どもたちの世界が出来上がるのかなと思った」

YouTubeの場合、「ハラスメントやネットいじめに関するポリシー」の中で許可されないコンテンツ例を細かく上げている。

そのなかに「特定の個人を無視するような行為」といった表現はないものの、「リストはすべてを網羅しているわけではありません。このポリシーに違反する可能性があると思われる場合はコンテンツを投稿しないでください」と呼び掛けている。

しかし実態を見る限り、多くの場合はグレーゾーンとみなされ、野放しのような状態になっているのではないだろうか。

いじめに『グレーゾーン』という考えはない」

そもそも「いじめ」はどのように定義されているのか。「いじめ防止対策推進法」では次のように示している。

「第二条 この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。」

さらに、前出の文部科学省の調査では、具体的ないじめの行為として「冷やかしやからかい」「遊ぶふりをして叩かれたりする」「仲間はずれ、集団による無視をされる」などが示されており、遊びのように見える行為でも受け手が心身の苦痛を感じていれば、いじめと定義される。

ある公立小学校の校長は「いじめに『グレーゾーン』という考えはない」と話す。

「相手方が『その気はなかった』と言っても、精神的に苦痛を受けたと感じているならば、その時点でいじめとして扱います。

とかく子どもたちは手段を間違うものです。その時に、指導を入れずに時が過ぎてしまうことのほうが罪だと思います」

遊びの延長のような行為によって子どもが傷つき、登校しづらくなることについて、保護者や学校はどのように捉えるべきなのか。

いじめ撲滅委員会」代表でメンタルヘルス総合サポート株式会社代表取締役の栗本顕氏は、判断基準は「行為の意図」ではなく「結果としての苦痛」だと強調する。

「学校の捉え方は、『いじめ』の定義は『本人が苦痛を感じているか』が基準です。

『悪気がない』=『指導不要』ではなく、相手の境界線を侵害したという事実を重く捉え、加害側に『無自覚な加害』の重大さを教える教育的機会とする必要があります。

また保護者が『相手もわざとじゃないんだから』と子どもをなだめるのは、子どもの傷つきを否定することに繋がります。

まずは『それはつらかったね』と共感を示し、子どもの心の安全を確保することが最優先です」

「『家庭を安全基地にする』ことが先決」

今回のような「無視」は、心理学的には「社会的排除」と呼ばれ、強い孤立感や不安を生む行為だという。

「『仲が良いと思っていた相手に裏切られた』という経験は、その後の人間関係における基本的な信頼感を損なわせ、対人不安を植え付ける可能性があります。

さらに『遊びだから』『ドッキリだから』という言葉が、攻撃を正当化する免罪符として機能し、集団心理をエスカレートさせます」

栗本氏は、語彙の少ない低学年が発するSOSの特徴についてこう説明する。

「身体症状としては、朝の腹痛、頭痛、嘔吐感が挙げられます。

また、登校前に動作が極端に遅くなる、大好きだった遊びを止める、寝つきが悪くなるといった行動の変化があらわれたり、赤ちゃん返りのような行動が見られることもあります。

さらに、文房具の紛失や破損が増えたり、持ち物や衣類に不自然な汚れのあとがある場合もあります」

同氏は、子どもが学校に行きづらくなった時は「家庭を安全基地にする」ことが先決だという。

「『無理して行かなくていいよ』などと伝えます。そして子どもの話をさえぎらずに聞き、いつ・どこで・誰に・何をされたかをメモをして、心身の休養を優先し、エネルギーを回復させます。

スクールカウンセラーや地域の教育相談窓口など、第三者の専門家を早めに巻き込んでください」

いじめ問題に関する相談環境の整備に取り組んでいるのが、匿名相談アプリ「STANDBY」を提供するスタンドバイ株式会社代表取締役の谷山大三郎氏だ。

谷山氏自身、幼少期にいじめを受けた経験がある。

いじめは、苦しくなればなるほど相談できなくなるという面があります。でも本当は、苦しくなればなるほど相談できるほうがいい。

いじめに限らず、そういう社会を当たり前にしたいという思いがあります」

アプリでは、子どもが学校外の大人に匿名で悩みを相談ができ、「誰かを助けたいけど、次に自分が被害者になるのが怖いから言えない」というときの相談にも利用できるという。

いじめがゼロになるのは本当に難しい」

ほかにも、WEB健康観察アプリ『シャボテンログ』や『チェンジャーズ』というマンガ教材の制作も行なっている。

マンガ教材には指導案や動画が付いており、リアルな事例を取り上げているのが特徴だ。

「制作する際に現職の先生に聞き取りを行ない、実際に学校で起こっているような内容を取り上げ、子どもたちが話し合えるような形の教材にしました」

こうした事業を手掛ける谷山氏は、いじめ対応で最も大事なのは「子どもに二次被害を与えないこと」だという。

「子どもの話を真剣に聞いてあげて一回解決したとしても、その後も子どもにとってつらさは残り、『やっぱり学校に行きたくない』という気持ちも出てくるでしょう。

その時に『もう忘れなよ』などと言ってしまいがちですが、言われた子どもは『悪いのは私なの?』と感じてしまいます。

ある程度時間が経ってもなお子どもが悩んでいたら、まずは耳を傾けてあげることが必要です」

さらに、いじめの重大事態の発生件数が高止まりしている現状を例に挙げながら、いじめを「深刻化させない」ことも重要だと同氏は話す。

「語弊を恐れずに言えば、今の国の法律の定義に則すと、いじめがゼロになるのは本当に難しい。それよりも『深刻化させない』ということが大事だと考えています」

そのうえで、大人の果たすべき役割について次のように指摘する。

「子どもに対して『頑張って相談しよう』と促すよりは、子どもが悩んだりしたりしている時に、大人がどれくらい『相談したい』相手だと思われるかが大事です。

普段から子どもとよく雑談したりしていくなかで良い関係性を築けば、子どもは『この人に相談しよう』と思ってくれるのではないでしょうか。そういう意味で、私たち大人の責任は大きいです」

最後に、子どもたちに向けて谷山氏はこう呼びかける。

いじめを受けた側は『きっと私が悪いからだ』と思いがちですが、どうか自分を責めないでほしいと思います」

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班