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北海道旭川市の旭山動物園の男性職員(30代)が遺体を損壊したとして、警察が逮捕状を請求したことが報じられました。

NHKなどの報道によると、男性は妻の遺体を遺棄したとして警察から任意の事情聴取を受けていたとされていますが、4月30日になって、焼却炉の中から「人の体の一部のようなもの」が見つかり、警察が逮捕状を請求したと報じられています。

男性は妻の殺害をほのめかす供述もしているようですが、殺人罪で有罪になることはあるのでしょうか。簡単に解説します。

●殺人罪の立証のポイントは?

殺人罪(刑法199条)で有罪にするには、以下のようなことを証明しなければなりません。

・被告人が、人が死亡するほど危険な行為をしたこと(実行行為)
・被害者が死亡したこと(結果)
・被告人の実行行為によって死亡したといえること(因果関係)
・殺人の故意(殺意)があったこと

遺体がないと、まず「被害者が本当に死亡したのか」という結果の立証が難しくなります。 一部でも遺体が見つかり、被害者のものと確認できれば「結果」が立証できます。

他方で、見つかった部位によっては、死因の特定は未だ難しい可能性があります。

死因が分からないと、本当に被告人の行為が人が死ぬほど危険なものだったのか(実行行為)、その行為から被害者が死亡したといえるのか(因果関係)、被告人に殺意があったのか、といった点の立証は難しいといえます。

●自白だけでは有罪にできない

今回のケースでは、職員が殺害をほのめかす供述をしているという報道もありました。 「被告人が殺害を認めているなら、それだけで問題なく殺人罪なのでは?」と思われるかもしれません。

しかし、刑事事件では、自白だけを根拠として有罪とすることはできません。

憲法38条3項は「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない」と定めており、刑事訴訟法319条2項も同じ内容を定めています。

つまり、男性が詳細を供述していても、それを裏付ける「補強証拠」と呼ばれる客観的な証拠が別に必要になります。

全ての事実について客観的証拠が要求されるわけではありませんが、ある程度の裏付けは不可欠です。

このような裏付けの中で、もっとも有力なものが遺体です。

もちろん、遺体そのもの以外にも、男性が供述している場所から血痕などが見つかっているとか、焼却炉まで何かを運んでいる映像が防犯カメラなどに映っているなどの事情がないかなども捜査されます。

●遺体なし・有罪になった事例はある

遺体が見つからないまま殺人罪で有罪となった事例は存在します。

たとえば千葉地裁の裁判例(令和4年3月8日)では、別居中の妻を殺害したとして夫が起訴された事案で、懲役21年の有罪判決が下されました。

この事件では、以下のような事情から有罪判決が下されています。

・犯行に使われた車から致死量に達する大量の血痕が発見されたこと
・被告人の自宅から、行方不明になった妻の所持品や、妻の血痕が付着したゴム手袋・折り畳みナイフが見つかったこと
・被告人が、捜査側がそれまで把握していなかった「犯行に使った車はプリウスではない」という事実を自ら供述したこと(これが「秘密の暴露」と呼ばれ、本当に犯人でなければ知り得ないことを語ったとして自白の信用性を強く裏付けるものとされました)
・犯行後、被告人が救急通報などをせず、かえって妻の失踪を子どもの監護者指定の裁判で自分に有利に使おうとしたという不自然な行動

●今回のケースでは?

今回のケースでは、先にも述べたように、この男性が、妻を焼却炉に遺棄したと供述しており、捜査によって人の体の一部のようなものが見つかったということです。

まず重要なのは、この人体の一部が被害者のものであると判明するかどうかです。 仮に被害者のご遺体の一部であることが確認できれば、客観証拠として非常に有力なものといえるでしょう。

もちろん、先に述べたように、被害者のものだと判明しても、どのような部分が発見されたのかによって、死因や殺害方法、故意などの立証に未だハードルが残ります。

しかし、「誰も知らない死体遺棄の話を男性がしていて、その話のとおりの客観的証拠が出てきた」(秘密の暴露)のですから、供述の信用性も高いと評価されるでしょう。

仮に焼却炉から何も見つからなかった場合、千葉の事件と比べると、その他の場所からの痕跡も未だ見つかっていない現状からすると、立証のハードルがかなり高いと考えられます。 殺人罪での起訴に至らず、死体遺棄罪などより証明しやすい罪で起訴されるにとどまったり、場合によっては不起訴となる可能性もあります。

現時点では、発見内容などに未知の部分が多いため、今後の捜査の進展が注目されます。

監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)