驚愕。なんと、8割以上の人が、「一生のうちに大きな病気にかかる」…ミニ臓器や臓器チップなどの「iPS細胞研究の応用」。その深層に秘された「研究者の本音」
マウスiPS細胞が発表されて20年。2012年の山中伸弥博士のノーベル生理学・医学賞受賞を経て、研究はついに再生医療製品の実用化へと大きく駒を進めています。
iPS細胞から作る、“ミニ臓器”であるオルガノイドや臓器チップの開発や研究を進める著者が、ここに至るまでのiPS細胞研究の歩みをわかりやすく解説し、21世紀の医療に革命を起こすであろう、再生医療や創薬の未来を紹介する書籍『iPS細胞と医療』(講談社・ブルーバックス)が、大きな注目を集めています。
そこで、ブルーバックス・ウェブサイトでは本記事シリーズで、早速この注目の書から興味深いトピックをご紹介していきます。
*本記事は、『iPS細胞と医療 最新技術でどこまで臓器は治せるか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
医学が目指す未来
iPS細胞を使って病気を治す話に入る前に、まず「病気」について少し説明したいと思います。
ヒト(科学では人間のことを「ヒト」と言います)の体は、年を取ると少しずつ衰えていき、最終的には命が終わります。何の大きな病気にもかからず、老衰で亡くなる人は、日本人全体の中でたった12.1%しかいないと言われています。つまり、多くの人は、何らかの病気が原因で亡くなっているのです。
たとえば、がんで亡くなる人は24.3%、心臓の病気が原因の人は14.7%、脳の血管の病気による人は6.6%います。筆者の家族の中にも脳の血管が詰まる病気にかかった人が何人かいて、筆者自身も将来、脳梗塞(脳の血管が詰まり、血の流れが止まる病気)になるのではないかと不安に思っています。
このようなデータを見てもわかるように、8割以上の人は一生のうちに大きな病気にかかる可能性があり、そしてそれが原因で命を落とすことがあるのです。病気になったとき、患者さん本人はもちろん、その家族もつらい思いをします。
だからこそ、筆者が考える医学の一番の目的は、「できるだけ病気にならずに、元気に年を重ね、最期は穏やかに人生を終えることができる社会を作ること」です。つまり、誰もが健康なまま長く生きて、最期は苦しまずに旅立てるような未来を目指しているのです。
その未来を実現するためには、がんになった臓器を元の健康な状態に戻したり、悪くなった心臓の機能を回復させたり、詰まりかけた脳の血管を修復したりする技術が必要になります。
iPS細胞研究の2つの柱
そこで注目されているのが、iPS細胞です。iPS細胞とは、どんな臓器にもなることができる特別な細胞のことで、病気で傷んだ臓器を新しく生まれ変わらせる「再生医療」に使えると期待されています。
さらに、iPS細胞は「創薬」でも活用が進んでいます。創薬とは、新しい薬を見つけたり作ったりすることです。たとえば、ある病気の患者さんからiPS細胞を作り、その細胞から病気に関係する体の細胞を作り出します。そうすることで、病気の原因を調べたり、その細胞に効く薬を探したりすることができるのです。
このように、iPS細胞の応用研究には大きく分けて2つの柱があります。一つは病気で傷んだ体を元に戻す「再生医療」、もう一つは病気の仕組みを知り、新しい薬を開発する「創薬」です。iPS細胞は、人類の未来の医学を大きく変える可能性を秘めているのです。
科学の世界の奥深さと、人間の知恵の凄さ
iPS細胞が発見されてから、まもなく20年が経とうとしています。この間に、iPS細胞を用いてどのようなことができるようになったのでしょうか。そして、iPS細胞を用いて病気を本当に克服するためには、これから何が必要なのでしょうか。今回出版した『iPS細胞と医療』の執筆に際しては、そうした疑問にできるだけわかりやすく答えていくよう心がけました。
筆者は、大学時代から今までずっと研究の道を歩んできました。ずっと研究を続けることができたのは、それだけ研究が面白く、夢中になれたからです。
筆者が考える研究の魅力は、2つあります。一つは「わからなかったことが、だんだんとわかるようになること」です。もう一つは、「過去から現在まで、たくさんの科学者たちが積み重ねてきた知識が見えてくること」です。
研究をしていると、自分の発見が、誰かの知識とつながっていると気づく瞬間があります。そのとき、科学の世界の奥深さと、人間の知恵の凄さを感じます。
そこで、『iPS細胞と医療』では「わからないことがわかるようになる喜び」と「科学者たちの知識の積み重ねの凄さ」の2つを意識しながらiPS細胞のことを紹介しました。
病気や老化と真剣に向き合う
今回の『iPS細胞と医療』では、iPS細胞を使って病気や老化に立ち向かう科学者たちの歩みと、未来に向けた挑戦を紹介しています。
研究には地道な努力や失敗がつきものであり、その一つひとつの積み重ねが、今の医学を支えています。そんな科学の現場で、どのようにiPS細胞の研究が進められてきたのかを、順を追ってわかりやすくお伝えしたいと思います。
「将来、iPS細胞の研究をしてみたい!」と思う学生や、「科学の力で病気と向き合う人たちを応援したい!」と思う人が一人でも増えたら、とても嬉しく思います。iPS細胞研究の面白さや、科学者たちが病気や老化と真剣に向き合う姿、その熱い気持ちが、少しでも伝われば幸いです。
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続いては、iPS細胞の研究を応用した医療として、おそらく最もイメージしやすい「再医療」の、最新トピックをお届けします。
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