●「やりたかった表現の65%」削ぎ落とした35%を“配慮”へ
数多く制作されてきた“警察ドラマ”の中でも、知られざる「警視庁広報課」を舞台にした異色作『東京P.D. 警視庁広報2係』(フジテレビ系)。先日、地上波で最終回を迎えた本作だが、その直後からseason2がFODで独占配信されている。

本作のプロデュースに加え、原案も務める安永英樹氏は、他局の報道局社会部で警視庁を担当し、フジテレビ移籍後はその経験を生かして実録ドラマ『30年目の真実〜東京・埼玉連続幼女誘拐殺人犯・宮崎勤の肉声〜』をはじめ、バラエティ『小泉孝太郎&ムロツヨシ 自由気ままに2人旅』や2024年版『大奥』など、ジャンルを問わずヒット作を世に送り出してきた。

そんな安永氏と共にプロデューサーを務めるのが、病院内の事件解決部署の活躍をハードに描いた『院内警察』(24年) や『世にも奇妙な物語』などを手掛ける中村亮太氏。今回はその両名に、本作の制作背景や作品にかけた思い、そしてseason2の見どころについて聞いた――。

『東京P.D. 警視庁広報2係』主演の福士蒼汰 (C)フジテレビ

○“新しい事件”として…報道・法務も一言一句台本チェック

本作の出発点は、意外にも欧米では主流となっている“トゥルークライム”だったという。

「北米や欧米では、実際にあった事件を完全にドラマ化して、登場人物も実名で描く手法があるんですね。ただ、それを日本の地上波でやろうとすると、どうしても大きなハードルが立ちはだかるんです」(安永氏、以下表記なければ同)と当初の構想を明かす。

「だからシンプルにストップがかかりました。やはり日本では、被害者がいる事件をそのままエンターテインメントとしてのドラマにするのは難しいと。なので、どうすれば地上波の表現の中で成立させられるのか?そのギリギリのラインを探り続けました」と振り返る。

その末にたどり着いたのが、複数の事件の要素を組み合わせた現在のスタイルだった。

「結果的に様々な事件の要素を混ぜ込みながら構築していく今回の形に落ち着きました。ただ、自分としてはやりたかった表現の65%くらいしかできていない感覚があります。それでも削ぎ落とした35%の分を、見やすさや配慮に振り切ることで、誰かが傷つくような作品にならないように、と思いました」と、そのバランスを語る。

とはいえ、「警視庁広報」を舞台にし、実在の事件を想起させる可能性がある以上、制作過程では「社内の各部署に細かく確認していただきました」と、徹底したチェックが入った。

中村氏も「台本はみなさん全部読まれていて、一言一句のレベルでチェックされていきました。他にも報道や法務にもすべて目を通してもらっています」と、その厳しさを補足する。

しかし、そのプロセスを単なる制約とは捉えていない。「もちろん大変ではあったのですが、そこをクリアにしなければ放送はできないですし、実際の事件を想像する方もいらっしゃるとは思うのですが、“新しいものとして、新しい事件として物語を立ち上げることはできたのかな”とは思っています」と前向きだ。

特に難しかったのは、第3話から第4話にかけて描かれた、連続殺人事件をきっかけにした“実名報道”のエピソード。「とにかく動きがないんです。アクションもなければ、事件もすでに終わっている。正直、“誰がこんな地味で暗い話を見るんだ”と思うくらい。だからこそ、その中でどうスリリングさやヒリヒリ感を出すかは、本当に悩みました」

(左から)緒形直人、福士蒼汰 (C)フジテレビ

○猪俣周杜を犯人役に起用した理由「アイドルがこの役をやったら…」

このエピソードではキャスティング面でも挑戦的な試みがあった。キーマンとなる連続殺人事件の犯人役として、まだ演技経験が浅いtimeleszの猪俣周杜を起用し、大きな話題を呼んだ。

「犯人は“ベビーフェイス”がいいなと思っていたんです。そんな中で、timeleszさんのコンサートを観に行ったときに、“アイドルがこの役をやったら面白いことになるんじゃないか”と思って、オファーしました。よく引き受けてくださったなと思うのですが、本当にありがたかったです」

その起用が決まると、「監督と一緒にかなりワークショップやトレーニングを重ねていく中で、どんどん芝居になっていったんです。それで“筋がいいな”と思いましたね」と、その成長を振り返る。

劇中の“謝罪”シーンには、安永氏自身の実体験も色濃く反映されている。

「あそこまで大きな事件ではないのですが、実際に謝罪したことがあります。報道も間違えることはあるし、自分の中に後悔も残っている。だからこそ、“ここは絶対に描かなければ意味がない”と思って入れたシーンでした」

●警察OBから「面白い」「よくやってくれた」
リアリティを追求した結果、局内からもさまざまな反応が寄せられた。

「報道の一部からは、“我々を悪く描きすぎではないか”という声もありました。ただ、自分もその現場にいた人間だからこそ、良い部分だけでなく、間違いや弱さも含めて描かないとリアルにはならないと思ったんです」

一方で、警察側からは好意的な反応が多かったという。

「警視庁の方、OBの方からは“面白い”、“よくやってくれた”という連絡をたくさん頂きました。“俺はあそこまで悪くないよ”なんて冗談も言われて(笑)。特定のモデルがいるわけではなく、複数の人物像を掛け合わせてキャラクターを作っていったのですが、それでも最後に“ありがとう”と言っていただけたのはうれしかったですね」と笑顔を見せた。

(C)フジテレビ

○テーマは“それぞれの正義” ぶつかり合いの先にある奇跡

本作を貫くテーマは、警視庁広報だけでなく、捜査一課や公安、テレビ報道も含めた“それぞれの正義”だ。

「これは中村プロデューサーともずっと話していたんですが、その正義は必ずどこかでぶつかるんですね。だから前半ではその“ぶつかり合い”を描きました。ただ、ぶつからない瞬間も確かに存在していて、その“奇跡のような瞬間”を描きたいと思って、それが地上波の最終話のエピソードへとつながる構造にしました」

その集大成ともいえるのが、最終話で描かれた“立てこもり事件”だ。縦軸となっていた爆殺事件の“真犯人”が現れたことで、真犯人にしたくない公安と、逮捕すべきだとする捜査一課が対立。その果てに犯人が逃走し、“立てこもり”を起こすというセンセーショナルなストーリーが描かれた。

「立てこもりのアイデアは、脚本の阿部沙耶佳さんが最初に提案してくれました。自分自身もやりたかった題材でしたし、これまで何度も取材をしてきたので、絶対に入れるべきだと思いました。あの立てこもりのオペレーションなども含めて細かく描きたかったですし、何よりあれをラストに持ってくるのは山場として面白いし、盛り上がると思いました」(安永氏)

また中村氏は「エキストラは全編を通して多いのですが、最終回のあの場面は、あのくらいの人数を入れないとリアリティーが出ません。その分予算もすごいんですが…(笑)。だけどその分、画の力も強くなりますので、実際あれぐらいの記者が集まるんだという話も聞くと、“じゃあやるしかない!”という気持ちでやりました」と振り返る。

この地上波最終回で象徴的だったのが、“CMによる中継遮断”というあのトリックだ。

「あのケースでは報道協定が結べないんです。では、どうやってメディアと連携するのか?と考えたときに、“CMで一斉に中継を止める”という発想にたどり着きました。NHKはどうするのか、天気予報に切り替えるのか、といった細部まで徹底的に詰めていきました」

●新人脚本家中心のライターズルーム…柔軟さと熱量で作った物語
(左から)安永英樹プロデューサー、中村亮太プロデューサー

本作では、複数の脚本家による“ライターズルーム方式”を採用。安永氏がショーランナーとして全体を統括した。

「最初は2024年5月頃に脚本家3人と集まるところからスタートしました。今回のライターズルームで特徴的なのは、ほとんどが新人の方だったことです。通常はベテラン中心のチームになりますが、今回は柔軟に動ける体制にしたかったし、中村プロデューサーにも脚本家の方たちのコントロールを担ってもらいました」

さらに、「経験があるほど机上で完結しがちになることもある。でも今回は、徹底的に調べて、違っていれば書き直すというプロセスを重視しましたし、一度上がった脚本をプロットからやり直してもらうこともありましたが、それに応えてくれる熱量のあるチームでした。このやり方ができたからこそ、今回のライターズルーム方式が成功したと言えると思います」と総括した。

○“カルト”の存在に踏み込むseason2「配信だからこそ」

FODで配信中のseason2は、season1でわずかに残された“カルト”の存在に踏み込んだ。安永氏は「かなり機微に触れる内容なので、地上波では難しい題材ですね。ただ、配信だからこそ踏み込める表現があるという前提で作っています」と明かす。

さらに、「途中で少し停滞して見えるかもしれませんが、それもすべてセットアップ(仕込み)です。全6話で、最終話の第6話に向けてすべてがつながる構造になっている。最後まで見ていただければ、必ずその意味がわかると思います」と見どころを強調。「最初から配信でやるならこれしかないと決めていたテーマで、この題材で映画を作ってもいいと思えるくらいのものです」と、確かな手応えをにじませた。

season2は、“カルト”の存在から国家公安委員長刺殺事件を軸に物語が展開されていく。地上波でも限界まで踏み込んだ本作だが、配信ではさらにその先へと進んでいる。ただの続編ではなく、“配信でしか成立し得なかった物語”がそこにあるはずだ。











(C)フジテレビ

「テレビ視聴しつ」室長・大石庸平 おおいしようへい テレビの“視聴質”を独自に調査している「テレビ視聴しつ」(株式会社eight)の室長。雑誌やウェブなどにコラムを展開している。特にテレビドラマの脚本家や監督、音楽など、制作スタッフに着目したレポートを執筆しており、独自のマニアックな視点で、スタッフへのインタビューも行っている。 この著者の記事一覧はこちら