斎藤幸平氏の新刊『人新世の「黙示録」』

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 アメリカによるヴェネズエラ攻撃に続き、イランとの戦争が泥沼化している。ホルムズ海峡の封鎖が長引けば、石油のみならず医薬品原料から化学肥料まで、日本の生活基盤は根底から揺さぶられる。気候危機、地政学的緊張、そして資源の奪い合い──いくつもの危機が同時に進行するなか、私たちは何を見据えるべきか。新刊で「黙示録」(世界の終末を描いた聖書の預言書)をタイトルに冠した斎藤幸平氏に、現在の社会が直面している危機的状況について聞いた。
◆終末を予感させるイラン戦争

―― アメリカは年明け早々ヴェネズエラを攻撃し、現在のイランとの戦争もエスカレートしています。世界はまさに大混乱です。斎藤さんが上梓した『人新世の「黙示録」』(集英社シリーズ・コモン)は、タイトルの通り世界の「終末」を強く意識した内容ですが、現在の状況をどう見ていますか。

斎藤幸平(以下、斎藤) 端的に言って、私たち人類は破滅の崖の淵に立たされています。資本主義経済のグローバル化が世界に平和と繁栄をもたらすという「常識」は、完全に崩れ去りました。イラン戦争のその後のエネルギー危機で、多くの人もそれに気づいたはずです。
 もちろん戦争開始以前から先進国の経済は停滞し、格差が広がっていました。しかも、同時に資本主義における過剰な化石燃料の消費によって、気候危機の急激な悪化も進行していました。気候危機で降雨パターンが変われば、当然、各地で水不足が起きる。そして、海面上昇や砂漠化で、耕せる土地そのものが減っていき、食糧の生産は困難になる。要するに、生存に必要な物資が欠乏していく傾向にあるのです。そうして、スタグフレーションによって、ますます経済は停滞する。
 そうした傾向の中で、奪い合いは激化し、地政学的緊張は増大し、不安に駆り立てられた人々が、強権的なリーダーを希求し、ファシズムも台頭しやすくなる。このままでは、世界は野蛮化し、近代文明も終わりを迎えてしまう。まさに「終末」です。
 論理的に考えてそうなると確信して執筆しているうちに、イスラエルのガザ侵攻が始まり、アメリカのヴェネズエラへの介入と続き、そして今回のイラン戦争も始まってしまいました。

◆暴力的で強欲なトランプの狙い

 国際法も国連憲章も無視した、力による現状変更を行うアメリカやイスラエルを、EUも日本も非難できていません。西洋近代の普遍的な価値観としての人権や主権といった考え方が、形骸化し、終わりを遂げているのです。
 代わりにやってきたのが、あけすけな自国優先主義のもとでの生存競争です。トランプ大統領は、北米・中南米の西半球におけるアメリカの覇権を強化する「ドンロー主義」を表では唱えていますが、実はそんな生やさしいものではありません。アメリカの覇権主義が西半球だけに留まっていてくれれば、まだマシだったのでしょうが、そうではない。
 トランプ大統領が狙っているのは、おそらく、こういうことです。今後、恒久的に続いていく欠乏経済を見据えたときに、アメリカとアメリカの資本主義が生き残るためには、中国やロシア、イラン、あるいは南米の社会主義国家に主導権を握らせるわけにはいかない。そのような対抗勢力の可能性を徹底的に潰し、いままで以上に世界各国を従属させよう。そのような意識で、各国に攻撃を仕掛けているのでしょう。
 そのような暴力的な覇権の確立のやり方は、南米で1970年代にも行われたものです。だだ、その当時と違って、今回は、日本や韓国、ヨーロッパなど同盟国へのダメージなど、まったく考慮されておらず、むしろ、日本は切り捨てられる側になっています。
 アメリカの愚かな戦争でホルムズ海峡の実質的な封鎖がこれ以上、長引けば、日本は大打撃を受けます。石油だけの問題ではありません。ナフサが枯渇すれば、医療用品が不足する。ヘリウムが不足すれば、MRIが動かせない。さらに、天然ガスが輸入されなくなれば、尿素やアンモニアの製造は難しくなる。つまり、化学肥料の製造が難しくなり、食糧危機になる。