食糧危機になれば、貧しい国から被害を受けるわけですが、各国間で札束での買い叩き競争になるなら、円安の進む日本も、従来よりもはるかに供給ショックに苦しむことになる。そこに、中国からのレアアース規制も加わる。いくら高市政権のもとでの積極財政を行ったところで、食料や資源が欠乏すれば、国も人もさらに貧しく苦しくなるに決まっています。

◆「気候ファシズム」の台頭

―― 斎藤さんの前著『人新世の「資本論」』は国内で50万部以上売れただけでなく、世界的にもベストセラーになりました。その時点で今日の気候変動や環境危機を的確に言い当てていました。

斎藤 前著では埋もれていた晩期マルクスの思想を掘り起こし、資本主義が否応なく地球環境を破壊し、気候変動をもたらすことを論証しました。
 しかし、気候変動の進み方は予想以上のもので、いまから振り返れば、前著は楽観的すぎたと思います。それが今回の『人新世の「黙示録」』を執筆した動機のひとつです。
 産業革命以降、人類は大量の化石燃料を使用し、膨大な二酸化炭素を排出するようになりました。それにより、世界の年間平均気温が上昇していき、今日は産業革命当時と比べて1・5℃以上も高くなっています。このままいけば、今世紀末には3℃以上も上昇し、この世は灼熱の地獄になる可能性もある。2015年に締結されたパリ協定では、国連が中心となって2100年までの気温上昇を産業革命以前と比べて2℃未満に抑えることが目標とされましたが、完全な失敗に終わりました。トランプも大統領に就任するやいなや、パリ協定を脱退してしまいました。
 南米コロンビアの大統領は、なんら対策を行わないアメリカを国際会議の場で非難して、このままでは「現実の黙示録になる」と発言しましたが、気候危機に手を打てない私たちは終末的な未来に向かって進んでいると言っていい。
 ここまで深刻化している気候変動を、制御不能なレベルまで不安定化した状態という意味で気候崩壊とも呼ぶようになってきています。ドミノ倒しのようにさまざまな事象が連鎖しあって、気候は崩壊していくのです。

◆富裕層以外は「気候難民」化する世界

 たとえば、グリーンランドの氷床の連続的融解によって大西洋の海流が停止し、降水パターンが変わる。すると、炭素の吸収源であったアマゾンの森林が枯死し、その過程では、大量の炭素が排出され、気温が上昇します。それによってシベリアの永久凍土が解けると、地中のメタンが放出され、気温がまた上がる。このように気温上昇を引き起こす事象が次々に起こり、人間の手では止められない連鎖となるのです。
 こうなってしまうと、人間が住めない場所が増え、最終的には何千万、何億もの人々が難民化します。ただし、一部の超富裕層は別です。彼らは環境危機を商機に変え、いま以上の富を獲得するでしょう。希少になる資源は独占され、浪費され、こうして格差は広がっていきます。国家もこうした特権階級の利害関心を守ろうとし、その秩序を脅かす環境弱者や難民を厳しく取り締まるはずです。環境崩壊を前に、強権的な統治体制が敷かれ、命の選別が行われるのです。
 私はこれを「気候ファシズム」と呼んでいます。グローバリズムや経済成長といった信仰と決別しない限り、気候ファシズムの台頭は避けられなくなります。

◆技術革新では環境危機は解決できない

―― 近年、AIをはじめ技術革新が急速なスピードで進んでいます。新しい技術によって気候変動を解消することはできないのでしょうか。

斎藤 それは幻想ですね。たとえば、電気自動車を製造するには、中南米の銅やリチウム、コンゴ共和国のコバルト、インドネシアのニッケルが必要です。昨今ではこれらの奪い合いが激化しており、米中対立の要因にもなっています。また、新しい技術開発を行うために土地や水、熱帯雨林が独占され、破壊されています。コンゴでは児童労働も問題になっています。