イラン攻撃は「不人気」でも「トランプ大統領支持」が続くアメリカ世論の不思議 キリスト教由来の「反知性主義」が支えている
米・イスラエルのイラン攻撃をめぐり揺れ動く国際情勢。連日報じられるニュースを追うだけでは、アメリカが中東諸国をはじめ諸外国に対して「武力」を用いてまで介入しようとする理由はわからない。ニュースの背景にある国家の「歴史」「文化」「宗教」をもとに、国際政治学者の舛添要一氏が「国際情勢の深層」を読み解く新シリーズがスタート。第1回は、「トランプ大統領のアメリカ」の背景にある「キリスト教のアメリカ」について解説する。
【写真3枚】米・イスラエルの攻撃を受けるイランの首都テヘラン、イラン攻撃について演説するトランプ大統領ほか
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2月28日にイスラエルとアメリカがイランを奇襲攻撃した。トランプ大統領は、イランを軍事的に壊滅させたと豪語しているが、イランによる抵抗は続いている。この戦争に反対するアメリカ国民の声も高まっているが、トランプ支持層は依然としてトランプの政策を支持している。世論調査から、MAGAのアメリカ、分断するアメリカの実態を見てみよう。
最新世論調査で明らかになった「不人気な戦争」
戦争の時には、大統領の支持率は上がるのが普通である。ところが、現実はそうではない。
たとえば、4月14日に雑誌『Economist』と調査会社ユーガブが発表した調査によれば、トランプの支持率は38%で、不支持率は56%であった。イラン攻撃への支持率は32%で、不支持率は55%である。
また、CBS NEWSが4月8〜10日に行った世論調査では、トランプ支持率は39%、不支持率は61%であった。イラン戦争のトランプの対応については、支持が36%、不支持が64%であった。しかし、共和党支持者のみを見ると、支持が81%、不支持が19%である。
またイランへの軍事攻勢継続に関して議会に望むことは、民主党支持者では、「反対すべき」が83%、「賛成すべき」が12%であるのに対して、共和党支持者では、「反対すべき」は12%、「賛成すべき」は49%である。
以上のように、国論は二分したままである。
米国民の多くがイラン情勢に不満を抱いている
イラン戦争について、アメリカにとって重要な事項として、「ホルムズ海峡の開放と石油へのアクセス」が87%、「イラン国民を安全で自由にすること」が81%、「イランが他国の脅威となるのを防ぐこと」が76%、「イランの核計画の永久放棄」が76%であった。
イラン情勢が、「改善している」が41%、「悪化している」が59%である。
イランに対して「トランプは明確な計画を持っているか」という点については、「持っている」が38%、「持っていない」が62%である。トランプはイラン攻撃の「アメリカの目標について明確に説明しているか」という問いについては、「している」は34%、「していない」が66%である。
経済状況については、「良好」が32%、「悪い」が63%である。「経済を考えるとき、何を思うか」という問いに対しては、「食料とサービスの価格」が88%、「ガソリン価格」が78%、「失業率」が54%、「住宅市場」が53%である。ガソリン価格については、「経済的に困難」が51%、「困難ではないが、不都合」が28%、「影響ない」が8%である。
以上のように、米国民の多くは、イラン情勢に不満を抱いており、トランプの支持率も高くない。トランプにとっては誤算続きであり、秋の中間選挙で勝つためには、一刻も早く戦争を終わらせる必要があるのである。
トランプがAI画像で"神の使命"を印象付けようとする理由
ローマ教皇レオ14世は、イラン戦争に反対の立場を明確にした。これに対して、4月12日、トランプは、「犯罪に弱腰で、外交政策は最悪だ」と批判した。ローマ教皇は、トランプの攻撃を「恐れない」と反論している。
また、4月12日には、自分をイエス・キリストに擬した画像をSNSに投稿したが、宗教保守派から「キリストへの冒涜だ」との批判の声があがり、削除した。
さらに、15日には、キリストがトランプを抱き寄せ、こめかみを触れあわせている画像を投稿し、「過激な左派の愚か者たちは気に入らないかもしれないが、私はとても良いと思う」と述べた。
このように、トランプは、イランへの軍事攻撃を「神に与えられた使命」と印象づけようと躍起になっており、「誰かレオ教皇に、イランが核爆弾を保有することは絶対に容認できないことを伝えてほしい」と、14日にSNSに投稿している。
以上のような投稿は、宗教保守派の支持を低下させる要因となっている。
アメリカは、「銃とキリスト教」の国である。
自らの信仰故に迫害されたイギリスの清教徒(ピューリタン)たちが、大西洋を渡り、作ったのがアメリカである。人工的な国であり、日本やヨーロッパ諸国とは異なる。
新大陸で生活していくための必需品が、銃とキリスト教であった。野獣などの外敵から身を守るためには、銃が不可欠である。そして、荒野の中で心の平安を維持するためには、キリスト教の信仰が必要である。ハーバードをはじめ、アメリカの大学は、牧師を養成するための機関であった。
中世をスキップしたアメリカの成り立ち
若い研究者の頃、日本とヨーロッパという伝統社会からアメリカに渡った私は、トクヴィルが『アメリカのデモクラシー』(1835年第1巻出版)を書いたときのような気分で、大きなカルチャーショックを受けたものである。
地方のバプテストの大学で政治学の授業をしたが、政治学の授業の後は、講堂に全学生が移動して、学生たちが聖書に記されたシーンを寸劇で再現する。キリスト教の理念が、生活にも教育にも生きている。
インディアナ州ではバプテスト教会の信者たちと一緒の機会が多かったが、信仰の自由こそアメリカの真骨頂で、信仰が生活の基盤をなしている。ピューリタンのPilgrim Fathersから始まる建国の歴史を持つアメリカでは、プロテスタントが主流である。
このアメリカのキリスト教を背景にして生まれているのが、反知性主義である。1963年のRichard Hofstadterの "Anti-intellectualism in American Life"(『アメリカの反知性主義』、1963年、みすず書房、邦訳2003年)を読むと、このことがよく分かる。
ホフスタッターは、反知性主義をマイナスのイメージをもって捉えているわけではない。中世を経ずに一足飛びに近代へ移行したアメリカでは、プロテスタントの信仰、民主・平等という価値が反知性主義を生むことになる。生物学や化学、そして私の政治学を聴講した後に、聖書の寸劇に精を出す「古き良きアメリカ」こそが、多くのアメリカ国民のトランプ支持の背景にある。
Post-truth(「ポスト真実」*客観的・科学的事実よりも「個人の感情や信念」のほうが世論形成に大きな影響を与える状況)の背景にあるのが、アメリカのキリスト教である。聖書こそ科学の権威の源泉であり、聖書を科学の上に置く態度は、「聖書的世界観(biblical worldview)」を欠いている既存の大手マスコミや知識人への異議申し立てにつながる。
知性主義こそ「リベラル」と呼ばれる風潮であり、ハーバード、イエール、プリンストン、コーネル、ノースウェスタンといった大学こそ、その典型なのである。
武力侵攻を正当化するトランプの「Manifest Destiny=明白なる使命」
トランプは権力基盤を大衆に置くポピュリストの扇動家である。今日のアメリカの政治は左翼と右翼の対立のみではなく、高学歴で自立した層と低学歴で集団思考の層との対立図式でもあり、後者は論理ではなく感情を優先する。
キリスト教徒を殺害している国に対しては武力侵攻するというトランプの主張は、「キリスト教のアメリカ」では、多くの国民に支持される。
アメリカが西部を開拓していくとき、それを正当化する標語が「マニフェスト・デスティニー(Manifest Destiny)」であり、「明白なる使命」、「明白なる運命」などと訳される。
トランプは、2025年1月20日、大統領就任演説で、マニフェスト・デスティニーいう言葉を使い、保護主義を実行したマッキンリー大統領(在任1897〜1901年)を模範としたのである。
「キリスト教のアメリカ」に加えて、「マニフェスト・デスティニー」は、トランプ政権が世界各地で軍事介入するときの正当化に使われていく。
アメリカは、伝統社会である日本やヨーロッパにとっては、「異質な国」なのである。アメリカの外交政策を論じるとき、このことをしっかりと認識しておく必要がある。
【プロフィール】
舛添要一(ますぞえ・よういち)/1948年、福岡県北九州市生まれ。1971 年東京大学法学部政治学科卒業。パリ(フランス)、ジュネーブ(スイス)、ミュンヘン(ドイツ)でヨーロッパ外交史を研究。東京大学教養学部政治学助教授などを経て、政界へ。 2001年参議院議員(自民党)に初当選後、厚生労働大臣(安倍内閣、福田内閣、麻生内閣)、東京都知事を歴任。『都知事失格』、『ヒトラーの正体』、『ムッソリーニの正体』、『スターリンの正体』(いずれも小学館刊)など著書多数。
