石油ショックが続けば風呂もキッチンも作れない…莫大な石油なしでは成り立たない「日本の住宅建築業界が直面している衝撃すぎる現実」
イラン戦争による石油危機は、日本の林業、建築業界にも影響を及ぼしている。石油なしでは、日本の木造住宅建築が成り立たない実態について、前編記事『石油高騰が招いた“第2のウッドショック”到来…!「家が建てられない」建築業界が震える《意外な実態》』に続き、森林ジャーナリスト・田中淳夫氏が詳しく解説する。
重要な乾燥工程
製材工場に運ばれてからも石油はつきまとう。丸太を角材や板に製材する機械類が、電気を初めとしたエネルギーを使うのは当然だが、意外と見落とされがちなのは乾燥工程である。木材は、製材しても未乾燥のままだと使い物にならない。
生木は大量の水分を含んでいる。樹種によって含まれる水分量は様々だが、含水率(木質部分の絶乾重量に対する水分量)が100〜200%に達するものも多い。つまり木質部分と同じか2倍以上の水を含むのだ。
未乾燥では強度も低く、形状が安定しない。製材後に徐々に乾燥が進むと、反る、曲がる、歪む、縮む、割れる。建築後に建材がそんな状態になったら、不具合が生じて欠陥住宅と言われてしまうだろう。
一般に建材とする木材は、含水率を10〜20%まで下げなければならない。樹木は、乾燥させて初めて木材になるのだ。
昔は天日で乾かす天然乾燥が普通だったが、それでは使用に適した含水率まで下げるには1年以上かかる。ただ、以前の家の建築は、大工が1年以上かけて木材を現場で切ったり削ったりして使ったので、未乾燥材でもその間に乾燥した。また反るなどの不具合が出ても、それを修正する大工の技があった。
機械を使って早く乾燥
しかし現代の住宅建築期間は、大手ハウスメーカーの場合だと3〜4か月に短縮されている。早く建てることで建築費を抑えるようになってきたのだ。そのために現在は使用する木材を人工乾燥し、事前に工場で刻み(プレカット)を行う。
設計図に合わせて、先に細かな寸法や形状に加工しておくのだ。現場でそれらを組み立てたり金具で接続するだけだから早く建つ。もし、そうした建材が乾燥していなかったら、狂いが生じて組み立てられない。現場で修正することも不可能だ。だから人工的に早く乾燥させる。
人工乾燥は、コンテナのような部屋に木材を詰めて室内に高温の蒸気や熱風を送り込むなどすることで行う。数週間あれば乾燥させられるのだ。この乾燥機械でも、多くは重油などの燃料が使われている。最近は製材時に出る端材や樹皮などを燃料とするバイオマス乾燥機も増えているが、石油系燃料をまったく使わないで行うのは難しい。
これで終わりではない。実は日本の木造住宅で柱や梁など構造部分に使われる木材のほとんどが集成材である。また合板も多用する。
何から何まで石油が必要
集成材とは、ラミナと呼ぶ板を何層も張り合わせたもので、厚さを自在に調整できる。また短い端材などでもフィンガージョイントなどの手法でつなげば、長い建材にできる。大面積集成材を使えば、大規模な建設も可能になった。最近流行りのCLT(直交集成板)も、板の向きを変えつつ張り合わせてパネルにしたものだ。
集成材は節などを除き品質が安定していて狂いが出にくく、施工の効率も高まるなど現代建築に向いている。無垢の木材を柱にする住宅は、今では1割以下だろう。
合板も同様だ。丸太をかつらむきして薄いベニヤ板にしたものを重ねて接着している。合板は、コンクリート打設などの型枠として使われるが、今では建築物の床や壁の下地などにも欠かせない建材となっている。
こうした集成材や合板の製造では、接着剤が重要となる。接着剤の性能が建材の性能に直結するからだ。
使われる接着剤は、レゾルシノール樹脂、フェノール樹脂、イソシアネート樹脂、酸化ビニル樹脂など合成高分子化合物だが、それらの原料はたいていナフサ、つまり石油だ。
量的にはラミナ1平米に150〜400グラムの接着剤が使われるから、ラミナやベニヤの重ねる枚数が多いほど接着剤も多くなる。だいたい集成材重量の1割近くが接着剤だと言えるだろう。言い換えれば、集成材の約1割は石油でできている。合板も同様だ。
このように木質建材は、石油がなければ生産できないのだ。そして生産された建材を現場に輸送するにも石油は必要だ。輸入材なら船舶燃料を費やして地球の裏側から運ぶし、国内でもトラックで輸送しなければならない。
森に生える木を伐採して、建材に加工して、それを住宅建築の現場に届けるまでに莫大な石油が消費されていることがわかるだろうか。それゆえ木材は石油漬けで、木造住宅といえども住宅の何割かは石油でできていると言えるだろう。
石油高騰と円安のダブルパンチ
イラン危機の真っ只中の今、木材市場はどうなっているか。
日本が輸入する製材や集成材の多くはヨーロッパ製だ。フィンランドやスウェーデン、ドイツ、オーストリア、ルーマニアなどが主要産地だが、軒並み価格を高騰させている。輸送ルートは、オランダなどの港から出航してスエズ運河を通って日本に運ばれるが、そこで気になるのは、イエメンのフーシ派の動向だ。
彼らが紅海の出口となるバブ・エル・マンデブ海峡を封鎖する可能性は捨てきれない。もしアフリカの喜望峰ルートを取れば、輸送距離は極端に伸びて価格を跳ね上げるだろう。
丸太はアメリカやカナダ産が主力だが、いずれも大幅に減産されているため供給量は低調で、流通在庫も減って価格を上昇させている。
輸入建材に関しては、生産現場と輸送時の燃料価格の高騰に加えて、円安も直撃している。ここ数年、円安が続いていたが、イラン情勢の悪化は、より円安を進めた。まさにダブルパンチである。
国産材増産は困難
それでは国産材はどうだろう。輸送距離が短く、円安の影響も受けない。実際に価格も、現状では目立って上がっていない。ならば増産してほしいところだが……。
しかし、増産は簡単ではない。
先に示した通り、伐採、運搬、製材、乾燥、集成材に合板……国産材ではあっても、みんな石油に依存している。価格は、今後上昇するのは間違いないだろう。
加えて日本の森林所有は小面積に分断されている。伐採はある程度まとまった面積であることが望ましいが、各所有者の了解を得るには相当な手間がかかる。
先のウッドショック時にも国産材の増産が期待されたが、結果的に上手く行かなかった。国産材の価格も高止まりしたのだが、林業関係者によると、値上がりした分の利益は木材市場や建築資材メーカーなどに集中し、森林経営者に還元されなかったという。それどころか木材価格が下落した時は、その減益分を山元が被ることになった。それに懲りたのか林業関係者の増産意欲は高まっていないのである。
リフォーム市場も一気に停滞の可能性
言うまでもないが、建設に必要なのは木質建材だけではない。ユニットバスやシステムキッチンなど、ナフサを原料とする合成樹脂系素材を使う設備も多い。また断熱材や塗料、その塗装に必須のシンナーなどの溶剤も石油系だ。湾岸諸国は、アルミ精錬の一大産地であるが、建築にサッシなどのアルミ製品は欠かせないアイテムだ。
加えて、それらの建材の梱包、また容器にもプラスチック系の材料が使われている。梱包できなければ輸送もできない。住宅建設に必要な資材の大半が石油に関わっているのだ。それらがイラン危機で一斉にストップしかねない。
このままでは建築業界は、新築に加えてリフォーム市場も一気に停滞してしまうだろう。
なお建材からは離れるが、バイオマス発電も同様である。木材を燃やして発電するバイオマス発電も、肝心の燃料である木材を収穫してからチップに刻んだり、木質ペレットに加工したりするには莫大な石油系燃料を必要とする。とくに増えている輸入イオマス燃料は、輸送費も含めて価格上昇が続いており、このままでは採算割れを起こして操業が止まる可能性もある。
政府は、備蓄石油の放出や代替輸入先を確保して「日本全体としては石油が足りるようにする」と発表しているが、生産地が変われば品質も変わる。従来の流通網を新規のルートに転換するのも、それほど簡単ではない。様々な齟齬が発生しやすくなる。落ち着くまで物資の輸送は、各所で目詰まりを起こすだろう。
木材を例にとって、意外な素材が石油由来、あるいは石油なくして生産できない品であることを紹介してきた。イラン情勢はそれを浮き彫りにしたのである。奇しくも現代社会の弱点を知るきっかけになったかもしれない。
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