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中東情勢の悪化や景気の先行き不安などで、長年強さを見せていた米国景気は“後期”に入ったという見方も少なくありません。しかし、こうした見方とは裏腹に、足元では実物資産を中心に景気の底堅さを示す動きが広がっています。実際の経済データをもとに、米経済の実態と展望についてみていきましょう。なお、本稿はステート・ストリート・インベストメント・マネジメントの3名のストラテジストによる共同執筆です。

原油供給の混乱に潜む「有望な投資機会」

ノーベル賞受賞経済学者のロバート・シラー氏は、著書「ナラティブ経済学−経済予測の全く新しい考え方」のなかで、説得力のあるストーリーが基礎的なファンダメンタルズとは必ずしも関係なく経済行動を形作り、市場に影響を及ぼし得るかを指摘しています。

今日の市場も例外ではありません。最近の報道は米国が景気サイクルの後半に入っていることを示唆する傾向にありますが、足元の状況をより詳しく見てみると、水面下ではより有望な投資機会が潜んでいることがわかります。

大規模かつ長期にわたる原油供給を巡る混乱は、世界の経済成長に対する大きなダウンサイドリスクとなるでしょうが、それは当社の基本シナリオではありません。

米国の製造業は“復活”局面にある

実際、ボラティリティの高まりは差し迫った景気悪化を示唆するというより、固定資産投資に対する持続的な需要から恩恵を受ける資産集約型の景気循環セクターへのエクスポージャーを選別的に積み上げる機会を生み出す可能性があります。

こうした背景から、米経済は製造業のモメンタム復活を特徴とする、景気循環の初期〜中期局面に入りつつあることを示唆しています。

経済成長の鈍化、労働市場の軟化、および地政学的な不透明性を巡る懸念が続いている一方で、景気循環セクターのファンダメンタルズは依然として底堅く推移しています。産業活動、製造業投資、およびインフラ関連需要は、資本財や素材といった資産集約型の景気循環セクターを引き続き下支えしています。

米景気は後期ではなく「初期〜中期」の局面

経済データから判断すると、米経済は堅調な足取りを維持しており、むしろ勢いを増しています。当社のマクロチームは、2025年の米実質GDP成長率は2.2%となり、2026年はトレンドを上回る2.5%まで加速すると予測しています。また、アトランタ連銀のGDPNowは2026年第1四半期の成長率を3%と予測しています※1。

米製造業が回復基調…ISM製造業PMIは2ヵ月連続50超え

これらのデータを総合すると、米製造業が回復基調にあることが示唆されます。鉱工業生産の伸び率は2025年7月に1.0%(前年同月比)を超えて加速したあとも上昇傾向が続き、2026年1月は2.3%増(前年同月比)となりました※2。

ISM米製造業購買担当者景気指数(PMI)は足元で52.4と、2ヵ月連続で50超の拡大圏を維持し、2022年以来の高水準に達しています。これは、2022〜2025年の米国史上最も長い収縮期を経ての回復です(図表1)。前回のサイクルでは、同指数は2021年3月に63.8でピークを付けました※3。

歴史を教訓にするならば、経済データは米経済が景気循環の後期ではなく、正確には初期〜中期の局面にあることを示唆しています。この局面では経済活動と企業収益が加速し、景気に敏感な株式セクターへの追い風となる可能性があります。

[図表1]ISM米製造業PMI(景況指数)は改善傾向★1

「OBBBA」、利下げ…金融政策が景気を後押し

支援的な政策環境が良好な経済見通しを支えています。「一つの大きく美しい法案(OBBBA)」はボーナス減価償却制度を通じて企業投資を後押しし、財政政策は景気にプラスに作用しています。金融政策も、米連邦準備制度理事会(FRB)の指導部の交代が控えるなかでも、緩和基調が続く可能性が高いとみられます。

当社のマクロチームは今年3回の利下げを予想しており、次期FRB議長に指名されたケビン・ウォーシュ氏は、2006〜11年に連邦公開市場委員会(FOMC)理事を務めた当時よりもハト派的な見解を表明しています。

最後に、大手銀行のレバレッジ規制の見直しが今年実施される予定です。この見直しにより、銀行はバランスシート上の保有資産を増加させ、企業向け貸出を増やすことが可能となり、新たな経済活動を刺激することが期待されます※4。

AIに仕事を奪われにくい「実物資産」に注目集まる

こうした堅調なマクロ環境に加え、素材や資本財といった「実物資産」セクターにおける長年の過少投資を踏まえると、仮想的なオンラインの世界よりも、物理的なオフライン市場から多くの利益を上げている企業の利益を市場が再評価し始めたことは驚くにあたりません。

特に、人工知能(AI)が既存のビジネスモデルの技術的なディスラプション(破壊的変化)を引き起こしているなかではなおさらです。その結果、株式市場では、豊富な実物資産を持ち、AIによるディスラプションに対する脆弱性が低いと見なされるビジネスモデルを持つ企業へ投資する、いわゆる「HALO (heavy assets, low obsolescence:重資産・低陳腐化)」トレードへの関心が高まっています。

さらに、S&P500企業の設備投資は2024年の9,558億ドルから2027年には1兆5,400億ドル超へ増加すると予想されています(図表2)。

AI関連の設備投資によって、データセンター建設から発電・送電機器、先進的冷却システムといったAIインフラ構築を支える実物資産への需要が押し上がり、景気サイクルの加速とともに、資本財や素材といった資産集約型の景気循環セクターへの投資魅力が高まる可能性があります。

[図表2]上昇を続けるS&P500企業の設備投資額★2

企業収益のトレンドは、こうした動向を裏付けています。資本財セクターの利益は2025年に10.8%増加したあと、2026年はさらに11.6%の増加が予想されています。一方、素材セクターは25.3%と、情報技術セクターに次ぐ伸びが見込まれています※5。

重要なことは、この力強い成長が各セクター内の幅広い業種に及んでいる点です。素材セクターでは、金属価格の高騰を背景に金属・鉱業が引き続き利益成長をけん引する一方、同セクターの他の業種も2026年の二桁成長が予測されています※6。

資本財セクターでは、今年は半数以上の業種で二桁成長が見込まれており、2025年の約4分の1から大きく増加しています。これは、経済活動の加速により基礎的な需要が強まり、AIデータセンター構築や防衛支出といった非景気循環的かつ価格感応度の低い需要が追い風となるためです※7。

資本財・素材セクターは依然割安…株価上昇の余地に期待

最近の力強いパフォーマンスとファンダメンタルズの改善にもかかわらず、資本財と素材セクターにおける投資家のポジションは依然として低いままです。

素材セクターは最もアンダーウェイトされているセクターの一つであり、資本財セクターに対する投資家のポジションもマーケットニュートラルに近い状態にあります※8。両セクターの株価純資産倍率(PBR)は、アセットライト(資産軽量)な情報技術セクターに対して大幅なディスカウントで推移し続けており(図表3)、投資家が実物資産の価値を再評価する中で、バリュエーションが収束する余地が残っています。

[図表3]情報技術セクターに対して依然大幅なディスカウントで取引される資産集約型セクター★3

中東紛争はリスクだが、長期化の可能性は低い

最近の中東紛争は産業活動と企業心理の継続的な回復を脅かしていますが、紛争が1〜2ヵ月を超えて長期化する可能性は低いと考えられます。また、日本、中国、欧州などの主要なエネルギー輸入国・地域に比べて、米国経済はエネルギー供給ショックに対する脆弱性は低いといえます。

紛争が長期化し、数ヵ月にわたって世界のエネルギー供給に大きな混乱を来すことがない限り、固定資産投資が景気循環の初期〜中期段階にある状況は変わらず、今後6〜12ヵ月にわたり素材および資本財セクターの強さは支えられる可能性が高いと思われます。

加えて、両セクターへの魅力的なエントリーポイント(投資開始時期)を踏まえると、足元の環境は相反する市場のストーリーに惑わされることなく、冷静に見極めることができる投資家に魅力的な投資機会を提供しているといえます。

※当レポートの閲覧に当たっては【ご留意事項】をご参照ください。

ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント