(※写真はイメージです/PIXTA)

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老後の生活を支える大切な柱である「年金」。長年、家計をやりくりしてきた方ほど、通帳の数字がわずかでも変われば敏感に察知するものです。しかし、ある日突然、身に覚えのない減額に直面したらどうでしょうか。そこには、制度を正しく理解していなければ見落としてしまう、意外な「落とし穴」が潜んでいます。

まさかの支給額減少……平穏な老後を襲った「通帳の違和感」

都内のマンションで暮らす佐藤和夫さん(72歳・仮名)と恵美子さん(65歳・仮名)は、7歳差の夫婦。和夫さんはメーカー勤務を終え、現在は年金と貯蓄で穏やかな生活を送っています。家計は主に恵美子さんが管理し、毎月の入出金は欠かさず確認してきました。

異変に気づいたのは、恵美子さんが65歳になった直後のこと。いつも通り通帳を記帳すると、振込額が明らかに少なかったのです。数千円ではありません。およそ3万5,000円ほどがすっぽり抜け落ちていました。

最初は単純な見間違いだと思ったという恵美子さん。しかし、前月の記録と見比べても差は埋まりません。年金額が突然減る理由が思い浮かばず、和夫さんに声をかけましたが、彼にも身に覚えはないといいます。その日の午後、2人は近くの年金事務所を訪問しました。窓口で通帳を差し出し、事情を説明すると、担当者は画面を確認しながら「原因は加給年金の支給停止です」と告げました。

和夫さんの年金には、これまで配偶者がいることによる加算が上乗せされていました。それは、いわば「家族手当」のような位置づけで、月におよそ2万円弱。夫婦にとっては特別な収入というより、生活の一部として自然に組み込まれていました。しかし、その加算は恵美子さんが65歳になった時点で終了する仕組みだったのです。

一方で、恵美子さん自身の年金には「振替加算」という形で、わずかな上乗せがプラスされます。しかし提示された金額は、月に1,000円台。減った分を補うには到底及びません。

「はっ!? 本気で言ってるの?」

そんなに大切なこと、なぜもっと大々的に言ってくれないのか――。自分たちの無知が原因ではあったものの、どうしても悪態をつきたくなったといいます。改めて家計簿を見直すと、月3.5万円の差は想像以上に重いものでした。
食費や光熱費、医療費を削れば埋まらなくはないものの、これまでの生活をそのまま続けるのは難しいのが現実です。

加給年金終了と振替加算…金額差は高齢者には大きすぎる

今回のケースで起きたのは、「加給年金の終了」と「振替加算の小ささ」のギャップです。加給年金は厚生年金の加入期間が一定以上ある人に対し、65歳未満の配偶者がいる場合に支給されるもの。しかし、配偶者が65歳に到達すると、その時点で支給は打ち切られる仕組みになっています。

問題は、その後に配偶者側へ移る「振替加算」の金額です。この加算は生年月日に応じて段階的に縮小されており、現在65歳前後の世代では月額1,000円台にとどまります。さらに、この振替加算自体も過去の制度に基づく経過措置であり、将来的には対象外となる世代が広がることがすでに決まっています。

この切り替えで、年間約40万円、10年で400万円以上の差が生じます。佐藤さん夫婦のように、加算分を「通常の収入」として生活に組み込んでいた場合、この変化は家計に直接響きます。制度上は想定された動きでも、生活の感覚としては「突然減った」と感じやすいのが実情なのです。

対策としてできることは、制度を正しく理解し、加給年金のある期間を「一時的な上乗せ」と捉えること。支給されている間から将来の減額を前提に行動しましょう。制度の終わり方を逆算した資金管理が、結果的に老後の安定につながります。