「年金を半分もらえると思って離婚したら、老後に詰んだ」熟年離婚で損する妻の″年金の誤解″【解説:夫婦問題カウンセラー 岡野あつこ】
夫婦問題カウンセラーとして35年以上・約4万件の相談実績を持つ岡野あつこ氏が、熟年離婚を考える女性に向けて書いた一冊、『その熟年離婚、妻は絶対「損」します!』。本記事はその中から、「年金」と「住まい」をめぐる知られざる落とし穴についてご紹介します。

(本記事は『その熟年離婚、妻は絶対「損」します!』から一部を抜粋・編集して掲載しています)


熟年離婚を考える女性に、こんな誤解が広がっています。「年金分割があるから、夫の年金が半分もらえる。だから一人でも生活できるはず」——。
35年以上、約4万件の夫婦相談に向き合ってきた中で、この誤解が女性たちの人生設計を狂わせるケースを何度も見てきました。「知らなかった」では済まされない、老後のお金の現実があります。
たとえば、こんなケースを想像してみてください。

Kさんは20年以上、専業主婦として家庭を守ってきた58歳の女性です。夫は定年間近の会社員。暴力も借金も浮気もない、世間的には「良い夫」のはずなのに、定年を機に毎日家にいるようになってから、気がつくと会話は「飯」「お茶」の二文字だけ。リビングのテレビは終日占拠され、家事への感謝はゼロ。

「もうこの人と、あと何十年も一緒にいるのは無理かもしれない」

そう感じ始めたKさんが、こっそり調べてみると「年金分割」という制度を知りました。夫が払い続けてきた年金が半分もらえる——そう理解したKさんは、「これなら一人でもやっていけるかも」と、少し気持ちが楽になったそうです。

友人への相談でも「年金が半分入ってくるんでしょ? 大丈夫じゃない?」と背中を押され、試しに弁護士へ相談に行ったKさん。しかし、そこで告げられた試算は……。

「月に5万円くらいですね。」

「え……? 夫の年金が17万円くらいあるんだから、半分の8万円以上は入ってくると思っていたのに……。なんでたった5万円なの!?」

Kさんは頭が真っ白になったと言います。「年金が半分もらえる」とは、いったいどういう意味だったのか。今まで自分は何を信じていたのか——。

この話、決してKさんだけの話ではありません。

年金分割で半分もらえる」は大きな誤解だった

ここで、はっきりお伝えします。「年金分割=夫の年金が半分もらえる」は、致命的な勘違いです。今すぐ離婚を考えていない方も、「知識」として知っておいて損はありません。

日本の年金は「2階建て」になっています。1階が全員加入の「基礎年金(国民年金)」、2階が会社員・公務員が加入する「厚生年金」です。年金分割の対象になるのは、この2階部分(厚生年金)の、さらに婚姻期間中に納めた記録だけなのです。

夫の基礎年金は一切分割されません。結婚前に納めていた厚生年金も対象外です。

具体的な数字で確認してみましょう。結婚30年、夫(会社員)の老齢基礎年金が月約6.5万円・老齢厚生年金が月約10万円(合計16.5万円)、妻(ずっと専業主婦)の老齢基礎年金が月約6.5万円とします。

「夫の16.5万円の半分、8万円以上が入ってくる。自分の基礎年金と合わせれば月15万円は確保できる」——そう思いますよね。しかし実際は、分割されるのは「夫の厚生年金10万円(婚姻期間分)」の半分、つまり5万円だけです。妻が受け取れる年金は、自分の基礎年金6.5万円+分割分5万円=月額11.5万円。Kさんが真っ白になったのも無理はありません。

実際のデータも同じことを示しています。厚生労働省の『令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によれば、年金分割によって妻の年金月額が増えた平均額は、月に約3万円強に過ぎません(出典:厚生労働省 同上資料より推計)。

月3万円では、家賃の足しにすらならないのが現実です。しかも専業主婦期間が長いほど、自分自身の厚生年金が少ない分、この差はさらに重くのしかかってきます。

さらに、年金分割の手続きは自動では行われません。離婚後2年以内に年金事務所へ申請が必要で、夫が合意しなければ家庭裁判所での調停・審判という茨の道が待っています。「老後のお守り」だと思っていた制度が、思った以上に複雑で、思った以上に少額だった——この現実は、もし将来その選択をすることになった時のためにも、頭の片隅に入れておいてほしいのです。

籍を残せば「遺族厚生年金」という終身保証が手に入る

では逆に、すぐに離婚しないという選択をした場合、どんなメリットがあるのでしょうか。

もし将来、夫が先に亡くなった場合、「妻」として遺族厚生年金を受け取る権利が生まれます。遺族厚生年金は、原則として夫が受け取る予定だった老齢厚生年金約4分の3(75%)というまとまった金額です。これは、自分が受け取る基礎年金に上乗せされる、一生涯続く保証となります。

年金分割で離婚した場合と、籍を残した場合——生涯の受取額の差は、想像以上に大きくなります。「夫と一緒にいるのは嫌だけれど、すぐに離婚する必要もないかな」と感じている方は、この視点を持っているだけでも、将来の選択肢が大きく変わってくるはずです。

住まいも守れる。単身女性が賃貸審査で落とされるという現実

もう一つ、見落とされがちな「住まい」の問題についても触れておきます。

「いざとなれば、家を出て賃貸に引っ越せばいい」——そう思っている方は多いかもしれません。ところが、50代半ばでパート収入の単身女性は、不動産市場では非常に厳しい立場に置かれます。「収入が不安定」「高齢の単身者は孤独死のリスクがある」として、入居審査で落とされるケースが非常に多いのです。

夫名義の家であっても、籍が入っていれば「妻」として住み続けることができます。たとえ夫との関係に距離を置いていても、住む場所の安全を確保したまま、生活を守ることができる。これは、特に専業主婦やパート勤務の方にとって、見えにくいけれど非常に大きな「経済的な盾」なのです。

「今すぐ何かを決める必要はない」——感情が高ぶっている時ほど、こうした「お金の現実」を冷静に知っておくことが、後悔しない選択につながるはずです。

他にも本連載の原案書籍『その熟年離婚、妻は絶対「損」します!』では

・妻が節約して貯めた「へそくり」も夫に半分取られる理不尽
・退職金は幻?「慰謝料でガッポリ」はドラマの中だけ
・決意した日から始まる「完全ポーカーフェイス」戦略
・夫を油断させる「魔法のセリフ」と、完璧な家出のシナリオ
離婚でも我慢でもない第三の道――「卒婚」という"いいとこ取り"な夫婦の形

など、熟年離婚を考えているすべての女性に読んでほしい内容が詰まっています。


著者情報


岡野あつこ(おかの あつこ)


立命館大学産業社会学部卒業、立教大学大学院修士課程(社会デザイン学)修了。夫婦問題研究家・パートナーシップアドバイザー・公認心理師。35年以上にわたり約4万件の夫婦・離婚・男女関係の相談に向き合ってきた。「結婚・再婚のアツコブライダル」「離婚相談救急隊」主宰。YouTube「岡野あつこチャンネル」登録者7万人以上。岡野あつこのオンラインコミュニティ「卒婚塾」主宰。一般社団法人離婚相談連盟 理事。目白大学短期大学部 非常勤講師。

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