「ねんきん定期便」にも載ってない?嘘だろ…気づかぬうちに「約200万円」をもらい損ねていた75歳夫、年金事務所の窓口でしばし絶句【CFPが「年金の落とし穴」を解説】
「年金が少なくて生活はギリギリ」。そんな切実な声を聞くことは少なくありません。しかし、受け取れるはずの年金を見逃し、知らないうちに数百万円単位を失っている。そんなケースがあるのをご存じでしょうか。「知らなければ一生もらえないまま」――年金で損をしないためには、知識を持つことが重要です。今回は、年下妻の老齢年金の請求を機に「加給年金の請求もれ」に気づいた70代男性の事例から、制度を知る方法などについてCFPの松田聡子氏が解説します。
「加給年金?関係ないと思っていました」――75歳男性が窓口で知った未請求の事実
千葉県在住の堀越達夫さん(仮名・75歳)は自動車販売会社に長年勤め、現在は年金生活を送っています。達夫さんには10歳年下の妻・伸枝さん(仮名・65歳)がいます。二人は達夫さんが63歳のとき再婚。伸枝さんは60歳までパートで働いていましたが、65歳を迎えると同時に退職し、専業主婦になりました。
それは、伸枝さんが65歳を迎える少し前のことです。年金を請求するため、二人で近くの年金事務所を訪れました。窓口の担当者が手続きを進める中で、 「ご主人は現在75歳ですね。加給年金の申請はされましたか?」 と尋ねました。
「え? 加給年金って何でしたっけ……私ももらえるんですか?」
達夫さんは驚き、自身の年金の請求のときのことを思い出そうとしました。請求書に加給年金や配偶者についての文言があったのは、うっすらと記憶しています。しかし、よくわからなかったことと、そのときはまだ夫婦ともに働いていたこともあり、「自分には関係ない」と、無記入で提出してしまったのでした。
しかし、担当者の説明では、その時点で達夫さんはすでに加給年金受給の要件を満たしていたといいます。
損した金額の大きさに呆然
「では、10年間、実は受け取れたはずだったんですか?」
達夫さんの問いかけに、担当者は静かにうなずきました。聞けば、加給年金は特別加算を含め年間約40万円前後(年度によって異なります)。仮に65歳から受け取っていれば、10年間の総受取額は概算で400万円前後にのぼります。
「そんなに? 過ぎた分を取り戻すことはできないんですか?」
焦る達夫さんでしたが、年金には5年の消滅時効があります。今から請求できるのは過去5年分のみ。残りの5年分の約200万円は、時効によってもう戻りません。
「加給年金についてよく知らないで手続きをしてしまった。年金はもらえていたから何も問題ないと思っていたのに……」
達夫さんはそうつぶやき、唇をかみました。
二人の年金は、達夫さんが月17万円、伸枝さんが月9万円。貯蓄はその時点で約1,500万円あり「質素に暮らせばなんとかなる」と思っていたとはいえ、200万円はあまりに大金です。
帰り際、しばし無言になった夫婦。ずっと気づかないで終わるよりはマシですが、「200万円があれば、一体どれだけのことができたか……」。それが、ただ一度の申請もれで消えてしまったのでした。
なぜ「気づけない」のか--加給年金が見落とされる理由
加給年金は厚生年金の加入者が65歳になったとき、生計を維持している配偶者や子がいる場合に老齢厚生年金に上乗せして受け取れる年金です。受給できるのは、厚生年金の加入期間が20年以上の人です。また、加給年金の対象が配偶者の場合、65歳未満であることが条件となります。
達夫さんの厚生年金の加入期間は20年を大きく超えており、達夫さんが65歳のとき、伸枝さんは55歳。要件を満たしていました。
達夫さんのような見落としは、決して珍しいケースではありません。加給年金はなぜ見落とされやすいのでしょうか。
まず大きいのが、ねんきん定期便に加給年金が記載されないという点です。毎年誕生月に届くねんきん定期便を見て、「このほかに加給年金がもらえる」とわかっている人ばかりではありません。
日本年金機構は個人の年金加入記録は把握できても、その人の家族構成までは考慮していません。ねんきん定期便の金額はあくまで本人分のみで、家族の状況によって大きく変わる加給年金は定期便に反映させられないのです。つまり、「ねんきん定期便の金額がすべて」ではない可能性を知っておく必要があります。
また、情報不足による見落としも挙げられます。年金事務所からの通知や案内が届いても、その内容を理解できずに放置してしまうケースも考えられるでしょう。
そして達夫さんのように、「妻はパートをしているから対象外では」という思い込みも重なりやすいといえます。
加給年金は年齢差が大きいほど受給期間は長くなり、総受取額は増えます。しかし、老齢年金と同じ申請主義の制度です。知っている人だけが申請し、知らなければ一生もらえないまま終わってしまうのです。
損失を最小限にするために今すぐできること
加給年金を受給できる人がもれなく受給するには、まずは加給年金そのものを知る必要があります。制度を知るには年金の裁定請求をする前に、一度は年金事務所や金融機関の相談会にコンタクトを取ることをおすすめします。
公的年金制度は複雑でわかりにくいので、請求前に疑問点や自分の記録にもれがないかを確認しておくと安心です。家族状況を伝えると加給年金についても教えてもらえるでしょう。さらに、請求書の書き方も説明してもらえます。
もし請求もれに気づいたら、1日でも早く動いて損失を最小限に抑えましょう。年金事務所に「老齢厚生年金・退職共済年金 加給年金額加算開始事由該当届」を提出し、戸籍謄本・住民票(家族全員分)・配偶者の所得証明書などを揃えましょう。マイナンバーが紐付いていれば住民票と所得証明書は省略できる場合もあります。
なお、今回の伸枝さんのように配偶者が65歳を迎えて加給年金が終了した後は、振替加算の対象になる可能性があります。振替加算は配偶者自身の老齢基礎年金に上乗せされるもので、昭和41年4月1日以前生まれで厚生年金の加入期間が20年未満の人が対象です。こちらも申請が必要なため、合わせて年金事務所での確認をおすすめします。
ねんきん定期便の金額は、受給できる金額すべてとはかぎりません。加給年金のように定期便に載らない給付が存在する以上、「もれなく請求できている」という思い込みは危険です。
達夫さんが失った約200万円は、事前に確認していれば防げたと考えられます。年金制度についてよくわからないことがある人は、一度年金事務所に相談してみましょう。
松田聡子
CFP®

