この春、チャンスをつかむには? 自分の価値観に気づく力を育てる【内田恭子さんとはじめる「マインドフルネス」】

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内田恭子さんの「ここからはじめるマインドフルネス」

NHK『すてきにハンドメイド』テキストでは、フリーアナウンサーとして活躍を続ける内田恭子さんによる心ゆるむ「マインドフルネス」エッセイを好評連載中。

コロナ禍でマインドフルネスに出会い、その魅力を伝えたいと、マインドフルネストレーナーとしての活動をスタート。暮らしにマインドフルネスを取り入れて、いつも頑張る頭や心、そして体を少し休めたい。そんな方たちに、連載を通じて役立つ気軽なスキルをお届けします。

連載第12回をWEB特別版として公開します。

#12 チャンスの前髪

 いきなりですが、みなさんは「チャンスの神様」を知っていますか? ギリシャ神話に出てくるチャンスの神様・カイロス。その姿は、一度見たら忘れられません。くるくる巻いた長い前髪に、ツルツルの後頭部。そう、カイロスには前髪しかないのです。

 これには「チャンスはやって来たその瞬間につかまないと、あとからはつかめない」という意味があるそう。それにしても、なんとも愛らしい容姿のカイロス。いざ自分の前に現れたら、しっかりとその前髪を捕まえたいところです。

 では、私たちはどうすればチャンスをつかむことができるのでしょうか? チャンスはさまざまな形で私たちのもとへとやって来ます。それが、のちに縁がつながる人だったり、出来事だったり、アイデアだったり、もしくは成功につながる失敗だったり。

 そのときは気がつかなくても、 後になって「あれはチャンスだったんだ!」と気がつくこともあるかもしれません。すでに前髪をつかんでいればいいけれど、気づいたときにはいなくなっていた、となっては残念すぎますよね。

 目の前のチャンスをつかむために、大切なのは「気づく力」です。そのために、マインドフルネスでは瞑想(めいそう)や実践を通じて、自分と向き合う時間を大切にします。

 たとえば、自分の思考を一歩距離をとって見つめるという瞑想があります。私たちの思考というのは、状況や気分によって左右されやすくかわりやすいものです。そこに振り回され混乱しないよう、落ち着いて自分の思考に意識を向け、何が事実で何が事実ではないかを見きわめます。

 そうやって自分を客観的に見ていくと、いろいろなことが見え始めます。自分の考え方だったり、こだわりだったり、執着だったり、いいところだったり、悪いところだったり……。それが、どんなに嫌な面でも目をそむけず、優しく受け入れるプロセスを続けると、不思議と本来の自分が見えてきます。

 環境や社会の中での自分ではなく、ありのままの自分。自分が何を大切にし、何を必要としているのか。価値観が明確になる。それが、チャンスに気づく力になるのです。

 以前、著名な作家さんが「作品のアイデアは降りてくるものではなく、雲を眺めるように自分の考えを観察していると見えてくる」とおっしゃっていたのが心に残っています。ただ観察しても見えるわけではありません。きっとその方は、自分の作品に何が必要かすでに気づいていて、だからこそ、見えてくるのだと思いました。

 たとえば英会話を習おうと真剣に考えているとき、やたらと英会話教室の宣伝や、英会話をしている人の話をキャッチしやすくなるということがあると思います。

 これは、「いまの自分に大事な情報を優先的に選び、目的に合った行動をしやすくする」という脳内のネットワークの働きによるものです。マインドフルネス実践を行うと、この注意のネットワークが整います。


「マインドフルネスを続けることで、夢がかないました!」という魔法のような力は得ることはできません。でも、チャンスをつかみやすくなるスキルを得ることはできます。また、自分の価値観が明確になることで、周囲からの意見やプレッシャーに左右されにくくなります。

 では、幸せのチャンスはどうでしょう。人の幸せをただ指をくわえて「いいなあ」とうらやましがったり、幸せな人と同じことをしていても、本当にそれが自身の幸せかはわかりません。自分にとって幸せとは何か。どんなことで幸せを感じるか。それがわかって初めて、自分の幸せをつかむためのアンテナを立てることができるのです。チャンスをつかむということは、自分が必要とするものに気づくこと。何が必要かわからなければ、つかむのは難しいですものね。

 最後にもう1つ。まさにチャンスがやってきたとき。自分の価値観をわかっていたつもりでも、「これはチャンスなの? どうなの? つかんでいいものなの?」と、ふと不安になることもあるかもしれません。そんなときは自分を信じて、ありのままの自分の声に耳を傾けましょう。

 iPhoneの生みの親であり、マインドフルネスの実践者として知られるスティーブ・ジョブズ氏も、アメリカの大学生に向けたスピーチで「自分の心と直感に従う勇気をもつこと」と語っています。

 これから新年度を迎えるにあたり、新しいことをスタートさせたいと思われている方も多いのではないでしょうか。ぜひ自分の価値観に気づく力を育てて、直感を信じ、カイロスの前髪をつかんでください。

◆トップ写真・プロフィール写真提供/内田恭子
◆バナーイラスト/山本祐布子

プロフィール

内田恭子(うちだ・きょうこ)
フリーアナウンサー、マインドフルネストレーナー。慶應義塾大学を卒業後、フジテレビアナウンス室に入社。退職後、フリーアナウンサーとして活躍するかたわら、マインドフルネスに出会う。IMA(Institute for Mindfulness-Based Approaches)認定MBSR・OMF(Oxford Mindfulness Foundation)認定MBCT-L(Mindfulness-Based Cognitive Therapy for Life)講師。日本マインドフルネス学会正会員。

内田さんが主宰する「kikimindfulness」
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