「お腹から小腸がプルプルと出て」「内臓がグツグツの状態」火葬中に“生焼けのご遺体”を運び出し…元火葬場職員が明かす火葬現場の“ありえないトラブル”
「内臓がぐつぐつの状態でご遺体を運んだ」――。火葬場では、まれに火葬炉の火が消える「失火」というトラブルが起きることがある。見た目だけでなく強烈な匂いも広がるなか、職員は冷静に対応しなければならない。
【閲覧注意】「お腹から小腸がプルプルと出て」「内臓がグツグツの状態」火葬中に“生焼けのご遺体”を運び出す様子をマンガで見る
知られざる火葬場の現場の実情について、『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』(竹書房)の第5巻を発売した元火葬場職員・下駄華緒さんに話を聞いた。

元火葬場職員・下駄華緒さん ©細田忠/文藝春秋
◆◆◆
「失火」トラブルを10数回は経験
――『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』の第5巻では、火葬の途中でバーナーの火が消えてしまう「失火」のトラブルについて描かれていました。下駄さんも、実際に経験したことはあるのでしょうか。
下駄華緒さん(以下、下駄) ありますね。ちゃんと数えたことはないですけど、10数回は経験したと思います。
新しい火葬場なら炉も新しいので、設備関係のトラブルも少ないんです。でも、私が勤務していたところは、平成初期に造られた古い施設でした。機械ですから、年数が経てばそれだけトラブルも増えるんですよ。
――失火した場合、どのように対処されるのですか。
下駄 まずは点火ボタンを押してみる。燃料が流れるホースが詰まっていないか確認してみる。それでもダメなときは、予備のバーナーに付け替えることもあります。でも、予備のバーナーは最終手段。失火しても、ちょっと機械をいじれば再点火することがほとんどです。
トラブルが起こったら時間との戦い
――とはいえ、対処している間にも時間は過ぎていきますよね。その間、ご遺族をお待たせすることにもなると思いますが、どう調整するのでしょうか。
下駄 火葬にかかる時間は、ある程度の余裕を見てご遺族や葬儀屋さんにお伝えしてるんですね。だから、5〜10分程度なら調整が効きます。ただそれ以上となると、お骨上げの時間や、その次の火葬にも影響が出てきます。
だから、トラブルが起こったら時間との戦いなんですよね。失火して、点火ボタンを押しても火がつかなかったら、職員総動員で対応に当たります。それでも火がつかず時間が過ぎていったら、火葬途中のご遺体を他の炉に移し替える、という判断になってきます。
――下駄さん自身は、火葬中にご遺体を移し替えた経験はあるのでしょうか。
下駄 7年勤めて一度もありません。ベテラン職員でも、経験したことのある人はほとんどいないと思います。それくらい、めったにないトラブルですね。それに、火葬場職員としてはできるだけやりたくないんですよ。
日本の葬儀儀礼において「戻る」がよくない理由
――それはどうしてでしょうか。
下駄 まず「お骨の取り違え」という重大事故につながるリスクがあるからです。多くの火葬場では、ご遺体と炉の番号を結びつけて運用しているんですね。火葬もお骨上げも、すべてその番号で紐づけて管理しています。
そのため、途中で炉を替えてしまうと、その運用がくずれてしまうんです。たとえば2番から3番に移し替えたのに、お骨上げの時に間違えて3番のご遺族さんを呼んでしまったら……。
実際、「火葬場の運用ミスで、ご遺族に自分の家族ではない方のお骨上げを案内してしまった」という事故も起きているんですよ。
――たしかに、そのミスは避けたいですよね。他にも理由があるのでしょうか?
下駄 霊柩車はバックしてはいけない、って聞いたことないですか。日本の葬儀の儀礼として「戻る」のはよくない、とされているからです。同じ理由で、一度炉に入ったご遺体を出して、また炉の中に戻すのは、あまりよろしくないんですよね。
――なぜ「戻る」のはよくないのでしょうか?
下駄 日本の古くからの風習で、死者が戻ってくることを避けるという考え方ですね。棺に釘を打つ地域があるじゃないですか。あれには、この世に戻らずに真っすぐあの世へ行けますように、という祈りが込められている。その古い風習が、霊柩車や火葬場にも残っているんです。
ご遺体が生焼けの状態で失火してしまい…
――それでも移し替えざるをえなかったケースが、今回の漫画には描かれていますよね。
下駄 漫画に描いたのは、最近まさにその状況を経験した、という方から伺った話なんです。ご遺体が生焼けの状態で失火してしまい、炉をいじってもどうにもならない。予備のバーナーもなくて……。もう炉を替えるしかない、と。
――漫画には「内臓がぐつぐつの状態でご遺体を運んだ」とありました。
下駄 火葬を開始してから15分後ぐらいが、ご遺体の状態としては一番むごい時間帯なんですよね。水分の多いお腹のあたりから小腸がプルプルと出てきたり、腹水が溜まっている方だとお腹から水がピューッと出てきたりもする。生焼けの状態で炉から出すとなると、そういう状態のご遺体を動かさなければならないわけです。
また、その状態だと見た目だけでなく匂いもすごい。肉が焼ける匂い自体は、意外と「よく知っている」ものなんですよ。
肉が焼ける匂いは嫌なものではないが、内臓の匂いはぜんぜん違う
――よく知っている?
下駄 タレをつける前の焼き肉の匂いです。だから、嫌なものではないんですよね。ただ、内臓の匂いはぜんぜん違う。表現が難しいのですが、おっちゃんの鼻や耳の後ろの脂の匂いを、極限までツンッとさせたような感じですね。
普段の火葬では、炉に煙や匂いを吸い取る吸引装置があるから、ある程度抑えられているんです。でも炉を開けてご遺体を移動させるとなれば、火葬場にもツンッとした匂いが広がってしまう。
実際に経験した方の話では、匂いがご遺族さんに伝わらないように徹底して換気をした、と言ってましたね。
――できるだけ炉の移動を避けたいとお話しされていた理由が、よく分かりました……。そもそも予備のバーナーがなかったというのは、どういった事情なのでしょうか。ミスなのか、それとも買い置きをする慣習がないからなのか。
下駄 詳しく聞いたわけではないのですが、おそらく後者だと思います。火葬場は、改築や新設の話が出るだけで近隣から反対運動が起こることもある施設ですから。めったに起きないトラブルを想定して、安くはない予備のバーナーを買い置きしておくことを、「無駄遣いだ」と思う人はいるでしょうね。
焼骨をきれいに残すために炉内の温度を制限
――失火以外にも、火葬が途中で止まるケースというのはあるのでしょうか。
下駄 止めないといけない場合もありますね。例えば、炉内の温度が上がりすぎたとき。ご遺体の体格が良かったり、棺の中に大量の手紙や本を入れていたりすると、火葬の最初の段階で一気に燃え上がって、温度が急上昇してしまうんですよ。
――温度が急上昇すると、どんなことが起きるのですか。
下駄 火葬炉は、炉内の煙やガスが外に漏れないよう、吸引装置で炉内の空気を引き込む仕組みになっているんです。ところが燃えすぎると炉内の圧力が高まって、その吸引力を超えてしまう。
そうなると、火葬場の煙突から黒煙がもくもくと上がってしまいます。当然、近隣の方からのクレームや役所からの問い合わせが殺到しますから、止めざるを得なくなるんです。
他にも海外では、炉が爆発して火葬場が火事になってしまった事件もいくつか報告されています。日本はお骨上げをする前提で火葬しているので、焼骨をきれいに残す必要がある分、炉内の温度を制限しています。
一方でお骨上げの文化のない国では、骨を残す必要がないから炉内の設定温度が高い。高温で一気に焼ける分、事故のリスクも高いんですよ。
ご遺族が「待って」と台を引っ張り…人為的要因によるトラブル
――こうした機械由来のトラブルだけでなく、人為的な要因で火葬が止まることもあるのでしょうか。
下駄 あります。最近は、火葬場でも自動化が進んできています。例えば、少し前までは手動で棺を炉に入れていましたが、今は自動で動く台に載せて、ウィーンと送り込むところが増えてきています。ご遺族さんがその動いている台を「待って」と引っ張ってしまって、ピーッと緊急停止してしまったことがありましたね。
他にも、棺の上にお花などをたくさん乗せすぎて、炉の入口に引っかかってしまったこともあります。
どのケースも、私たち職員は内心「やばい、このままだと火葬が中断してしまう」とヒヤヒヤしています。でも、その焦りをご遺族には絶対に見せてはいけないんです。「特に問題ありませんけど?」という顔でご遺族を安全な場所に誘導したり、ご遺族から見えない場所で火葬の障害になりそうな物を取り除いたりしています。
ご遺族への対応には「正解」がない
――焦りや不安を見せないように意識しているのは、悲しみにくれるご遺族の気持ちを考えているからなのでしょうか?
下駄 もちろんそれもあります。でもそれ以上に、時間通りにスムーズに火葬を行うためですね。たとえば台を緊急停止させてしまった方に「危ないのでやめてください」と注意してしまうと、他のご遺族さんたちも「お前、何やってるんだ」とその方を責め始めてしまうかもしれない。そうなると、その後の工程をスムーズに進めづらくなるんですよ。
その場の空気が険悪になってしまうと、火葬後のお骨上げもぎくしゃくしたまま進めることになってしまいます。揉めれば時間もかかって、次に控えているご遺族の火葬にも影響が出てしまいますからね。
――機械のトラブルには、マニュアルや経験に基づいた対処法がある。一方で、ご遺族の対応となると、そうはいかないことも多いのではないでしょうか。
下駄 ほんとうに。失火したらバーナーを替える。温度が上がりすぎたら火を止める。機械のトラブルには、何かしらの「正解」があることがほとんどです。
でも、ご遺族への対応となると、話は別です。相手が違えば状況も違う。その場その場で判断するしかないんですよね。だからいまだに、「あの時の対応はこれでよかったのか」と悩むこともあるんです。
撮影=細田忠/文藝春秋
(仲 奈々)
