コロナで売り上げ9割減…『地球の歩き方』編集長「『ジョジョ』や『戦国』次々ヒット」どん底の企画案

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漫画『ジョジョの奇妙な冒険』、戦国時代、杉並区、昭和レトロ……。

1979年9月に創刊され長年愛され続ける海外旅行ガイドブック『地球の歩き方』が、ここ数年シリーズで取り上げたテーマだ。海外への個人旅行者を主なターゲットにした『地球の歩き方』が、漫画や歴史、国内のガイドを? そう疑問に感じた方も多いだろう。背景には、どん底でも思考停止に陥らない独自の企画力があった。以下は、編集長・由良暁世氏が学生時代からの海外経験も踏まえて明かす『地球の歩き方』の苦闘の軌跡だ――。

「絵が上手かった2歳年上の兄の影響で、子どものころから絵画が好きだったんです。とくに西洋絵画には心を奪われました。いつかは本物をじっくり鑑賞したい! それが外国へ興味を持ったキッカケです。大学(早稲田大学)に入学して、初めての海外旅行先に選んだのはイタリアでした。ローマ、フィレンツェ……。王道の都市を2週間ほどで回り西洋芸術を満喫。旅の面白さにハマり、いろいろな国を訪れ貴重な経験をしました。

ニューヨークでは、ブロードウェイの観客参加型のライブパフォーマンスで『ブルーマングループ』の舞台へ上がり楽器を演奏。卒業旅行で行ったウィーンの世界遺産シェーンブルン宮殿では、前方から歩いてきた同年代の日本人に話しかけると、同じ大学で同じ学部(第一文学部)の同級生だったんです。キャンパスでは4年間会ったことがないのに、遠い外国で遭遇するとは……。その出会いがキッカケで仲良くなり、今でも家族ぐるみのつき合いをしています」

‘00年3月に早大を卒業した由良氏は、当時『地球の歩き方』を発行していたダイヤモンド・ビッグ社に入社。2年間の営業職を経て、入社3年目に希望する地球の歩き方編集部へ配属となった。

「現地の協力者もいますが、取材の多くは編集スタッフが日本から出国するところから始まります。空港や飛行機内でのトラブルなど、あくまで旅行者目線の情報を届けたいからです。旅の過程を知らないとディレクションできませんので、私も時間を見つけて各地を訪れています。

取材中に経験したトラブルは、なるべく誌面にもり込み対策を紹介しています。一人旅の女性が現地の男性からしつこく誘われたら『次の予定があります』とキッパリ断る、イタリアではミサンガの押し売りが多いから要注意など。欄外で紹介するこうした情報は、本文より先に読まれるケースも多いですね」

「存続危機」

‘10年3月に由良氏は、ローカルでディープな情報を満載した20〜30代の冒険好きな女性向けガイドブック『aruco』を創刊。『地球の歩き方』は40〜50代の読者が中心だが、若い層を開拓した。

だが、順風な編集者人生は突然暗転するーー。

「’20年ごろから感染拡大し始めた新型コロナウイルスの影響です。ステイホームで海外旅行が極端に難しくなった。売り上げは一気に9割減です。『地球の歩き方』の存続危機。どん底の状態でした」

『地球の歩き方』が’20年12月にダイヤモンド・ビッグ社から学研グループへ事業譲渡されると、現状を打破する企画の提案が求められた。

「逆境に打ちひしがれ思考停止しては、状況が悪化するだけです。海外旅行も一緒。見知らぬ外国ではトラブルがつきものですが、パニックに陥っては何も変わらない。旅を楽しい思い出にするには、チャレンジし続けることが大切なんです。私はこれを『旅人マインド』と呼んでいます」

幸い『地球の歩き方』は’20年7月から開催される予定だった東京五輪(コロナ禍により翌年に延期)に合わせて発売した、シリーズ初の国内版『東京』が10万部を記録。ミステリーマガジン『ムー』とコラボレーションした『ムー〜異世界の歩き方〜』が14万部超えのヒットとなった。

「2作のヒットは発想を転換させてくれました。海外がダメなら国内をガイドしよう。旅行と相性の良いコンテンツとコラボして、旅に出なくても読み物として面白い内容にしようと。前者では京都や北海道など観光で人気の都道府県だけでなく、杉並区や山口市などの狭域エリアも取り上げています。散歩も旅の一種という考えから、住民の方でも楽しめる内容にしている。そのおかげで、国内シリーズは読者の7割ほどが地元の方です」

「実在と架空の場所が……」

由良氏が担当したコラボ企画が、’22年7月に発行した『地球の歩き方 JOJO ジョジョの奇妙な冒険』だ。シリーズ初のAmazon全書籍総合ランキングで1位を獲得。人気漫画との異色タッグは話題を呼んだ。

「『週刊少年ジャンプ』に掲載された『ジョジョ』は’87年の連載開始当初からリアルタイムで読んでいました。『ジョジョ』にはエジプトやメキシコなど、旅好きな人が憧れる国が多数出てきます。そうした国の歴史や習慣を『ジョジョ』のストーリーを織り交ぜて紹介できないかと考えたんです。

しかし、実際に編集してみると大変。『ジョジョ』には、実在と架空の場所が混在しています。架空の場所は『現時点では実在しない』と明示しつつ、物語の詳細な説明をつけて細部にこだわり紹介しました。ガイドブックの『地球の歩き方』は実用書の要素が大きいですが、『ジョジョ』とのコラボでは読み物として楽しめるよう心掛けたのが読者の心を摑んだのかもしれません」

その後も『地球の歩き方』は、武将のゆかりの地や古戦場を紹介した『戦国』や、昭和グルメの人気店や懐かしい街並みが残る土地を掲載した『昭和レトロ』など思わず手にとりたくなる企画を次々と実現。売り上げはコロナ前の8割ほどまで回復した。’23年10月に編集長へ就任した由良氏が、今後の抱負を語る。

「若い世代に響く旅行本を、これからも出していきたいです。地球を旅するのは楽しい! そんな実体験を多くの人に味わってほしいです」

3月からは『地球の歩き方』から新サービスが登場。旅人による、旅人のための会員制参加型コミュニティが誕生した。