Image: Shutterstock

私たちは当たり前のように言語を操り、人とコミュニケーションを図って生きています。それが当然になっていますが、人類の長い歴史においては、言語がなかった時代もありました。

では、ヒトはいつから「言葉」を使うようになったのでしょうか?

ネアンデルタール人が言語を使っていた可能性については、多くの研究者が肯定的です。でも、それより古い人類については慎重な見方が主流でした。

ところが最近、約190万年前〜約11万年前にいたホモ・エレクトスは、すでに話していた可能性が高いとする研究が発表され、注目を集めています。IFLSが伝えました。

「話せる条件」はほぼそろっていた

研究者たちは、ホモ・エレクトスが言語を使えた可能性について、解剖学・遺伝学・考古学の複数の証拠を組み合わせて検討しています。

まず注目されているのが、脳の構造。ホモ・エレクトスは、ホモ属の中で初めて脳が大きく発達した種とされ、思考や計画、そして他者との意思疎通を司る領域が、現代人に近い形へ発達していました。

また、発声と聴覚にも驚くべき発見があります。 これまでは喉の構造から「複雑な発音は無理だ」とされてきましたが、一部の化石では、発話をコントロールするための神経が通る「脊髄の太さ」が現生人類の範囲内にあることが示されました。さらに内耳の構造も、話し言葉の周波数を聞き取るのに適した形に進化していた可能性が浮上しています。

これらは直接的な証拠ではありませんが、彼らが「言葉を発し、聞き取る能力」を少なくとも備えていたことを示唆しています。

遺された石器がもの語る「コミュニケーションの可能性」

さらに、考古学的な証拠もこの説を後押ししています。

ホモ・エレクトスが作っていた、“握り斧”とも呼ばれる「アシューリアン石器」は、単なる石の破片ではありません。左右対称に美しく整えられたハンドアックスを作るには、高度な設計図を頭に描き、それを維持する集中力が必要です。

こうした技術は、見て盗むだけで習得するのは困難です。抽象的な概念を伝えるためのコミュニケーションがなければ、これほど高度な文化が100万年以上も続くことはなかったはずだと研究者たちは考えています。

遺伝子研究の視点からも興味深い指摘があります。 言語に関わるとされる「FOXP2」などの重要な遺伝子のルーツは、ホモ・エレクトスの時代まで遡れる可能性があるというのです。

もちろん、彼らが現代人のような複雑な文法を使っていたとは考えにくいでしょう。単語を並べる程度の、より原始的な言語だった可能性が高いと見られています。

それでも、ホモ・エレクトスが海を越えて広い地域へ拡散し、集団で過酷な環境を生き抜いてきた事実を考えると、言葉による情報共有があったと考えるほうが自然かもしれません。

それでも結論は出ていない

もちろん、この説にも異論はあります。

ホモ・エレクトスが海を渡った可能性や、集団で狩猟・採集をしていたという説も、言語能力の根拠として挙げられてきましたが、いずれも反論があります。

現時点で、「最初に言葉を話した人類」が誰だったのかについて、 科学的な合意は得られていません。

ただし、ネアンデルタール人が言語を使っていた可能性が高いとされている点は重要です。彼らは現生人類と交配し、子孫を残しています。その事実を踏まえると、ネアンデルタール人の親世代にあたるホモ・エレクトスも、何らかの言語を持っていたと考えるのは不自然ではありません。

さらに近年の遺伝子研究では、私たちの近縁種であるデニソワ人が、正体不明の古代人類と交配していた形跡も見つかっています。その相手がホモ・エレクトスだった可能性もあり、これが「話していた説」を後押しする材料になるかもしれないと言われています。

研究者自身も、「100%の確証はない」と認めています。それでも、「話していた可能性はかなり高い」というのが、今回の研究の結論です。

もしホモ・エレクトスが言葉を使っていたとしたら、人類のコミュニケーションの歴史は、私たちが思っていたより、ずっと古いのかもしれませんね。

【こちらもおすすめ】
GIZMODO テック秘伝の書
1,650円
Amazonで見る
PR

Source: IFLS