塩、味噌、豚骨……さまざまなおいしさがあるが、DNAに刻まれた、食べ慣れた味だからだろうか。気がつけば醤油味をすする自分がいる。今回は、今の醤油ラーメンの原風景とでも言うべき老舗の、それも今なお楽しむことができる美味を紹介します。業界最高権威「TRYラーメン大賞」で史上最多の25年連続受賞歴を誇る東京・仲御徒町の『らーめん天神下 大喜(だいき)』です。

『らーめん天神下 大喜』店主:武川数勇(かずゆき)さん

『らーめん天神下 大喜』店主 武川数勇さん

割烹で約20年修業していた時は独立資金を得るためラーメン屋でも掛け持ちで働いていた。1999年に湯島で創業。和の技を生かした手法による繊細で上質な味が人気となり、大行列を生んだ。業界最高権威「TRYラーメン大賞」ほか数々の部門で受賞、創刊から25年連続掲載されるレジェンドだ。2017年に現在の場所に移転。実は今の店はもうすぐ立ち退きのため、移転先を検討中。

『らーめん天神下 大喜』

ブームを後押しした自家製麺の先駆けの1軒

当然のことだがラーメンは麺料理である。今や細麺、太麺、縮れ、あるいは手揉みに手打ち……スタイルも手法も百花繚乱。理想の一杯を完成させるため、こだわりのスープと同じく職人が大切にする要素が麺だろう。

さらに言えば日本のラーメンブームは麺の発展もあって加速したといっても過言ではないかもしれない。とりわけ画期的だったのは、製麺所に頼らず、粉の選択や配合、食感や風味まで独自に作り上げる自家製麺の進化ではないか。

その魅力を広めた先駆けの1軒が1999年の創業時から自家製麺を提供している『大喜』。業界最高のアワードで数々の賞を総なめにし、今なおラーメン界を牽引している屈指の名店である。この店に影響された人気店の店主も少なくない。

『らーめん天神下 大喜』とりそば 900円 「大喜」を代表する味。純粋な鶏スープは芳醇でコク深い。和の技を生かした手法はダシの取り方。臭みを取るためのねぎや生姜は使わず、前面に出すことはない煮干しの旨みで味を調える

割烹で約20年腕を磨いた和食の料理人

実は店主の武川数勇さんは割烹で約20年腕を磨いた和食の料理人だった。その彼がなぜラーメン職人に転身したのか。聞けばラーメンの食べ歩きが好きで、ある店の味に感動したことがきっかけだったそうだ。

店主の経歴で趣味が高じて店を出したことを知り「それでこんなに旨い味が作れるなら俺にもできる」と一念発起。実際やってみると「甘くみてた」と苦笑するが、数々のエピソードを知ればその実力にひれ伏すはず。テレビ番組のランキングで全国1位に輝いた時は数百人が大行列。近隣のクレームで整理券制にしたが、その券を求めてまた大行列。新聞記事になるほど話題をさらったとか。

自家製麺の挑戦の裏には意外な理由もあった。

『らーめん天神下 大喜』旨さの証!自家製麺は2種。太麺は国産小麦を多く使う

「ある製麺屋に細かく注文を付けたら『どこの馬の骨ともわからないやつに作れるか』と言われて頭に来て(笑)。ならば自分で作るかと」。

事実は小説より奇なり。物事は何が幸いするかわからない。だって何くそと挑んだ自家製麺が『大喜』の特徴ともなったのだから。

「最初は思うような麺ができず、やってる内に1〜2年で何とか。一時期は味ごとに5種を使い分けたりもしたけど、今は細麺と太麺だけ。ここ数年ですね、理想の麺が作れるようになったのは」

『らーめん天神下 大喜』「醤油らーめん」は細麺がおすすめ

創業からのファンも多い「醤油らーめん」

その理想が「昔ながらの町中華や蕎麦屋にあるような、日本人がホッとする中華そば」だ。代表的な細ストレート麺はまさに目指す味を具現化している。強力粉と国産小麦など3種をブレンドし、2日間熟成させることで小麦の旨み、香り、独特のコシと食感を表現。

看板「とりそば」にも使われるが、創業からのファンも多い「醤油らーめん」はこの細麺がピタリとハマる傑作だろう。

醤油らーめん(濃口・細麺)900円

『らーめん天神下 大喜』醤油らーめん(濃口・細麺) 900円 鶏のネックでダシを取るスープはクリアな旨み。生姜を効かせたトッピングの豚そぼろの風味がいい塩梅だ

国産鶏のネックでダシを取る雑味のないスープにサバやカツオなど節系を合わせた味わいはピュアで上品。奥深い醤油味を吸い上げる麺がしなやかに喉を駆け抜ける。

研究し尽くした技の洗練された旨さなのに、どこか懐かしいと感じるのは醤油ラーメンならでは。そして武川さんの狙い通り。スープ、麺、具、その完璧なバランスこそ至極の味を完成させるのだと、その一杯が教えてくれる。

『らーめん天神下 大喜』

『らーめん天神下 大喜』@仲御徒町

[住所]東京都台東区台東2-4-4

[電話]03-3834-0348

[営業時間]11時〜14時半LO、18時〜21時LO、水:11時〜14時半LO、土:11時〜15時LO、18時〜20時半LO、祝:11時〜15時LO

[休日]日

[交通]地下鉄日比谷線仲御徒町駅1番出口などから徒歩8分

撮影/西崎進也、取材/肥田木奈々

2025年2月号

■おとなの週末2025年4月号は「おいしい空港

『おとなの週末』2025年4月号

※2025年2月号発売時点の情報です。

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

…つづく「【保存版】絶品ラーメンのある町中華5選! スープまで飲み干したくなる完食必至の逸品」では、何を頼むか迷ったらぜひこれを!という絶品麺料理のある町中華を覆面調査で実食レポートしています。

【画像】とにかく“伝説のお店”!『大喜』の看板メニュー「とりそば」は絶品だ(8枚)