発情期にはヤギのように「メェ〜」と鳴く…日本でいちばんパンダを育てる動物園が知る「珍獣」の意外な生態

■なぜパンダの毛色は白と黒なのか
ジャイアントパンダ(以下、パンダ)といえば白と黒。一番の特徴ともいえるこの毛色には、理由があるのです。
ところで、みなさんは、パンダの白い部分と黒い部分を正確に言うことができますか? 耳、目の周りが黒。そして背中から前肢、胸にかけて黒(胸の真ん中だけ途切れるパンダもいます)。後ろ肢は各付け根から下が黒。しっぽは白いんです。
さて、理由には次の3点が考えられます。
?敵に警戒心を起こさせる
?温度調節に役立つ
?周囲に溶け込む保護色
順番に見ていきましょう。
?に関しては、私たちが「アイパッチ」と呼んでいる目の周りの黒い色。パンダの眼球の色は黒褐色で、とても小さいのですが、アイパッチがあることにより、とても大きな目のように見えて相手を驚かせるのです。
どこを見ているかわかりづらい反面、遠く離れた相手には「お前のことを見ているぞ!」とも感じさせるんですね。また、目がとても大きいと見せかけることによって、急所でもある本来の瞳に、直接の攻撃をされにくいとも考えられます。
■寒さよりも暑さのほうが苦手
次に、?については、4本の肢と耳の黒で説明できます。パンダの主な生息地は中国四川(しせん) 省・陝西(せんせい)省・甘粛(かんしゅく)省(かつてはベトナムやミャンマーの北部にも生息していたと考えられています)。
標高が1200〜3400mの山岳部の竹林で、平地より寒冷な環境です。人もそうですが、寒い時、体の末端は他に比べて冷たくなりやすいですね。パンダも同じ。
そこで耳や肢先を黒にして、熱吸収をよくしているのです。背中にも黒い部分が回っているのも、太陽の熱を受けやすくするためでしょう。ちなみに、足の裏は指の肉球部分以外には黒い毛がみっしり生えています。
そして?。パンダが生息しているのは霜が降りたり、雪が降って積もることが多い環境。白はその雪に紛れ、黒い部分が岩陰や樹木の陰に同化して、カムフラージュになるのです。また、竹林では白い部分と黒い部分が別々に紛れて、見分けがつきにくくなります。
生息地の環境で外敵といえばユキヒョウ、ジャッカル、アジアゴールデンキャットなどの肉食獣。赤ちゃんだけでなく、ケガをしたりして弱ったおとなのパンダも狙われやすいので、気づかれないようにすることが必要です。
生息地の山岳部は夏も比較的低温で、冬はマイナス10度を下回ることもあるといいます。そのため、パンダは寒さよりも暑さのほうが苦手で、冷たい氷や雪が大好きです。
アドベンチャーワールドがある和歌山・白浜は温暖な気候なので、冬でも氷点下まで気温が下がることはあまりありません。真冬でも屋外の運動場で元気に過ごします。
逆に外気温が20〜25度になると、様子をみながら冷房の効いた屋内で過ごせるようにしています。ちなみに、パンダラブの屋内運動場は、9台のエアコン完備です。
誕生日やイベントには、大きな氷や雪をプレゼントすることがあります。手に持って抱きしめたり、おもちゃにして遊び、たっぷり楽しんだ後は、体をびちょびちょにして満足げにバックヤードに帰っていきます。
■かつては小動物が主食だった
パンダの祖先は、800万〜900万年前に生息していて、すでに絶滅したクマ科の動物といわれています。そして200万年前ごろから、現在に近い生活になったと考えられます。
ちなみに、人類の祖先が登場したのが400万年前ですから、パンダが「生きている化石」といわれることがあるのもうなずけますね。
かつてはネズミのような小さな動物を食べていましたが、260万年前の氷河期になってエサとなる生きものが減ってしまったことがありました。わずかなエサをほかの肉食動物と取り合う争いを避けて、また、自分や子どもが肉食動物の標的にならないように、だんだん標高の高いほうへと移動していったと考えられています。
そして、高地でも繁茂して常緑性、春にはタケノコも出る竹を食べ始めたことが現在まで続いているのです。
肉食だったのに植物を、それも樹木の柔らかい葉ではなく、固い繊維質で水分も少なそうな竹を食べるとは、生きるためにワラにもすがるような必死な時期があったんですね。
もとはエサになる動物をつかまえていたパンダですから、動きがそれほど遅かったわけではないようです。今でも機敏さは残っています。ふだんののんびりさからは想像しにくいかもしれませんが、全速力で走ると時速30キロといわれています。
ただし、栄養価の低い竹を食べていることもあり、持久力はありません。ですから、時速30キロで走れるのですが、長距離走には向いていないタイプといえるでしょう。
■年に一度、「便秘」で苦しむことも
パンダの腸は、ライオンなどの肉食動物よりは少し長いけれど、ウシやウマなどの草食動物に比べるとかなり短いです。竹の繊維質な葉、固い茎から栄養を吸収しながら腸を守るために、内部には潤沢に粘液が分泌されます。
パンダのうんちは、噛みくだかれた葉や茎のかたまりがそのまま出てくる感じですが、まわりが腸粘液でコーティングされていっしょに排泄されます。
アドベンチャーワールドのパンダたちは、1年に1回あるかないかですが、粘液便といわれるうんちをします。これは、腸粘液だけがかたまって出てくるもので、ブヨブヨしたお餅みたいだったり、ゼリー状、あるいはスライム状で、ネバネバした感じだったり。色は透明または白みがかっている、あるいは、うんちがまじって黄土色をしていることもあります。
この粘液便を排泄する前、何も食べなくなって、とてもおなかが痛そうに苦しみます。これは、粘液だけがおなかの中にたまってしまうからです。
出産前後や成長期などで、食べる竹の量が足りないときに粘液便になりやすいようです。
粘液便を出すということは、竹を食べる量が少ない証拠なので、私たちはパンダがおいしい竹を常にたくさん食べられるように気をつけています。
■1日に15キロもの竹を食べる
主食の竹は栄養価が高いとは言えません。おとなのオスで150キロほど、メスで100キロほどもある体を維持するためには、できるだけたくさん竹を食べる必要があります。

アドベンチャーワールドでは竹のほかに「おやつ」として、リンゴやニンジン、動物用のビスケットも与えます。
おとなのパンダが1日に食べる竹の量は、うんちの量から換算すると15〜20キロ。また、用意された竹をすべて食べるのではなく、その中から好みに合う、それぞれが食べたい竹だけを選びます。
竹の種類によって、パンダが好む部位や好む時期が違います。また、タケノコが春〜夏に出る種類、秋に出る種類があり、タケノコの出る時期は葉よりも茎のほうに栄養があるので、茎をよく食べます。もちろん、タケノコも食べます。パンダたちにとっては大好物です。
私たちは旬によって竹を吟味して、実際に食べる量よりもかなり多めに与えています。そのようにして用意する量は1日に1頭あたり50〜70キロ。
現在、7頭いますので、大阪・岸和田から週に2回300キロずつ、京都からも週2回450〜600キロずつ、合計で1週間に4回、1.5トン以上の竹を新規に搬入します。
■すねているときは「プンプン」と鳴く
発情期にオスとメスが鳴き合う「恋鳴き」。このときの声はヤギに似た「メェーメェー」、やがて興奮状態が高まると「キュルルルル、キュルルルル」と甘えるように鳴きます。実は、ほかにもいろんな声で鳴くんですよ。
びっくりしたときには「ワン!」。怒ったときは「ウォー」と吠えます。
生まれたばかりの赤ちゃんはとても大きな声で鳴きますが、音にすると「ギャーギャー」。少し大きくなるとそれが「アーンアーン」と聞こえることもあります。
満足した時には「ググッググッ」。そして、甘えるときには鼻を鳴らして「フンフン、フンフン」だったり、「キュンキュン、キュンキュン」。
おとなのパンダでめずらしいのは「トゥルルルル〜トゥルルルル〜」という鳴き声。これはお父さんパンダの永明が、竹が欲しいときに出す音です。はっきりとはわかりませんが、鼻を鳴らしている感じに聞こえます。

あと、すねているときには、「プンプン」と鳴きます。これは、子育て中のお母さんから、体重測定などで赤ちゃんを預かったときによく聞きます。「わたしの赤ちゃん、返してちょうだい!」ってすねたとき、「プンプン」鳴きます。
良浜は「プンプン」鳴きながら、座って前肢、後肢を組んで丸くなってすねるんです。おだんごみたいに丸まる姿を、「良浜のすねポーズ」と呼んでいます。野生下では、おとなのパンダは繁殖期や外敵に対応するなど特別なときしか鳴きません。
一方、子育て中はさまざまな鳴き声で母子がコミュニケーションをとります。アドベンチャーワールドのパンダたちは、竹が欲しいときだけでなく、スタッフに対してよく鳴きます。ご来園の際は、パンダの生の声にぜひ、耳を澄ましてみてください。
(アドベンチャーワールド「パンダチーム」)
