なぜ帝国ホテルは「コーヒー1杯2000円」なのか…値上げのできない飲食店が根本的に勘違いしていること
※本稿は、亀山純一『繁盛する小飲食店のつくり方』(さくら舎)の一部を再編集したものです。

■「美味しい料理」だけではファンは増えない
美味しい料理を作ってお客様に食べていただく。飲食店とはそういうお店ではあるんですが、商品を売っていてもファンはなかなか作れません。
ではどうすれば飲食店にファンがつくのでしょうか?
その答えはストーリーを売ることです。
美味しい料理を作るのは当たり前で、その商品の価値をお客様にしっかりと伝える。これがストーリーを作ることであり、ファン化を加速させる手段です。
ラーメン1杯を売るにしてもそのラーメンを作るにあたっての経緯や店主の思いをきちんとお客様に伝える。これができるかどうかでお客様の再来店確率は変わってきます。
たとえばこんなストーリー。
ラーメン1杯を売るにしてもこういったストーリーを使い、その背景の店主の思いをしっかりと伝えることができると、一度食べに行ってみようかなとなるお客様も多いですし、そのストーリーに共感が多ければファンになってくれるお客様も多くなります。
■ラーメンチェーン「一蘭」が支持される理由
チェーン展開しているラーメン店でこのストーリーを上手に活用しているのは一蘭です。一蘭では、ひと席ごとに仕切りがあり、目の前のラーメンに集中するように店舗が設計されていて、厨房も見えなければ従業員の顔すら見ることができません。
そして隣の席との仕切りには一蘭のラーメンが出来上がるまでのストーリーが書かれています。
つまり戦略的にストーリーをお客様に見せ、ファン化を加速させようとしているのです。
■人間の味覚は情報に左右される
人間の味覚というものはけっこう鈍感な部分があります。
あるテレビ番組で、一流レストランのコース料理の中に市販のミートボールを混ぜて提供したらお客様にバレるのか? という実験を行っていました。
結果は、気づかないお客様が8割という衝撃的な内容でした。
この情報から分かるように人間とは雰囲気で食事の良し悪しを判断してしまう傾向が少なからずあります。
ということは、いくら美味しい料理を作っても雰囲気が悪ければその料理を台無しにしてしまう恐れもあるわけです。たとえば、料理に髪の毛が入っていたというだけで、美味しい料理が一部の人には一気に価値のないものに変わってしまいます。
人間の味覚は情報に左右されるものだから、料理の美味しさを食べる前にしっかりと伝えることができるかどうか。これがかなり重要になってきます。
そしてその情報を伝えるにはストーリー性のある情報をきちんと発信すること。それだけで来店確率、再来店確率が上がっていきます。
たとえばモンドセレクション金賞。このシールが貼ってあるだけでなんとなく美味しそうな気がして買ってしまう。こういった経験があなたにも一度や二度はあると思います。ファンを作るにはそういった商品価値を高める情報を発信していきましょう。

■帝国ホテルのコーヒーが2000円で通用する理由
東京・帝国ホテルのロビーでコーヒーをいただく。1杯2000円のコーヒーをあなたは高いと思いますか? 金額的には高いと思っても帝国ホテルならそのくらいするよね、そう思いませんか?
では街中の喫茶店で1杯2000円のコーヒーはどうでしょう? おそらく高いと感じると思います。では両者の違いに何があるのでしょうか?
コーヒー1杯の原価は20円程度といわれています。いくら帝国ホテルが高級ホテルだといってもコーヒーの原価が何倍にもなるわけではありません。
その違いをひと言で表すとブランド力です。
帝国ホテルには帝国ホテルというブランドの力があります。そしてその力が1杯のコーヒーの価値を2000円まで高めてくれるという話です。

同じように京都の仏閣には2000円程度で庭園を見ながら抹茶がいただける喫茶が提供されています。僕は庭園を見ながらゆっくりと過ごすのが好きなので、そういった場所を見つけるとテンションが上がります。
人間は枠で物事を考えるところがありますので、その枠に付加価値をつけてブランド化することで金額を大幅に上げることが可能です。たとえば、大体こういう場所はこのぐらいの価格はするよねの感覚で価格は決まってしまうんです。
また、知り合いのビジネスマンは社外の人との外での打ち合わせは、一流とまではいかないまでもそこそこのクラスのホテル内のカフェで行うといいます。
ホテル内のカフェは席と席の間隔が十分広くとられていて、隣の席の人の会話内容がほとんど聞こえません。こちらの会話も、隣の席の人たちには聞こえません。
だから、他人にあまり聞かれたくない大事な話を安心してすることができるんだそうです。
隣の席との間隔が狭いスターバックスやドトール、ルノアールではこうはいきません。
ここにもコーヒー代2000円が決して高くない理由があります。
■飲食店経営の3つのブランディング
飲食店を経営するときに覚えておくといいブランディングが3つあります。
1つはストアブランディング。もう1つはプロダクトブランディング、最後にエンターテインメントブランディングです。
ストアブランディングとは建物に価値を持たせるブランディングです。
帝国ホテルや庭園を見ながら頂く抹茶、町屋、昔ながらの建物、豪華な装飾が施された高級レストランなど空間にいるだけで価値を感じるような建物があればそれだけで魅力があり、お客様を呼ぶことができます。

プロダクトブランディングは、商品に価値を持たせるブランディングです。
最高級の素材を使用した飲食店や三つ星シェフが腕を振るうレストラン、ご当地グルメのお店、オーガニック専門店など特徴的な商品やコンセプトを持つお店などがプロダクトブランディングにあたります。
エンターテインメントブランディングは、いわゆるパフォーマンス型の飲食店です。店主や店員さんに魅力があったり、料理の提供方法がユニークであったり、とにかくお客様を楽しませる要素が多い飲食店がこれです。
この3つのブランディングをすべて網羅することができれば、鬼に金棒といった状態というわけです。
■お客が満足さえすれば価格はいくらでもいい
建物に魅力があり、商品にも魅力があり、来店したお客様を喜ばすことができるパフォーマンスもある。
帝国ホテルのように1杯2000円のコーヒーを売ろうと思うとなかなか個人飲食店では厳しいと思ってしまいますが、たとえ建物が豪華じゃなくてもメイドカフェのようなタイプのお店なら普通に存在しています。
つまり商品の価格は人それぞれどの部分を重要視するかによるので、お客様が満足すればいくら高くても問題ありません。もちろん高価になればなるほど市場は小さくなっていくという側面はありますが、ブランド力を高めて枠を高級路線に持っていくことができれば、1杯2000円のコーヒーでも高くないお店が出来上がります。
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亀山 純一(かめやま・じゅんいち)
イタリアンバルオーナー
1984年、島根県木次町に6人兄弟の5番目として生まれる。小さい頃から料理が好きで、高校卒業後、住み込みのアルバイトをしながら京都の調理師専門学校に通う。卒業後、さまざまな飲食店で働き、27歳でシェフとして中国人の友人と神戸に創作居酒屋を開業する。2014年、30歳の時、独立。京都市左京区一乗寺の住宅街に、オーナーシェフとしてイタリアンバル「クチーナカメヤマ」を開業。多くの常連さんに支えられながら、のんびりとお店を経営している。また、経営コンサルタントとしての顔も持ち、経営に苦しむ飲食店や、飲食店の経営を考えている人たちに向け、極めて実践的な経営ノウハウをメルマガやブログなどで発信している。画家としても活躍中で、店内には絵画作品が飾られている。「クチーナカメヤマ」HP:https://ryourigaka.jp/cucinakameyama/
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(イタリアンバルオーナー 亀山 純一)
