河北博文・河北医療財団理事長

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「なぜ、感染者数の少ない日本が『コロナ敗戦』と言われてしまうのか。政策が泥縄式だからだ」──こう話すのは河北医療財団理事長の河北氏。拠点を置く東京・杉並区では区や周辺病院との連携プレーでコロナ患者への対応に当たっており、地域で医療崩壊は起きていない。河北氏が語る、日本の医療の課題と今後とは──。

増加傾向にあった死亡者数がむしろ減少
 ─ 新型コロナウイルス感染拡大は社会に大きな影響を与えていますが、河北さんが今懸念していることは何ですか。

 河北 今、日本では一時的ではあれ死亡者数が減少したということです。厚生労働省の人口動態統計によると、2019年は139万3917人が亡くなっています。

 日本は高齢社会ですから、2038年頃には年間の死亡者数が170万人を超えるという予測がされてきました。

「団塊の世代」(1947年から49年に生まれた世代)は年間約270万人が生まれましたが、この人々の約800万人が2025年には後期高齢者になるという「2025年問題」が言われています。さらにこの人達が徐々に亡くなることで、死亡者数が増加すると言われてきたのです。

 今後、死亡者数は年間2万人ずつ増加すると見られてきました。その通り推移すると20年には140万人を超えることになりますが、実際にどうなったかというと、死亡者数ですが9373人減の138万4544人となったのです。

 ─ この要因は何でしたか。

 河北 それはコロナの影響です。もちろん、心臓疾患や脳血管障害で亡くなった人はいます。目立って死亡者数が減ったのは高齢者が亡くなる要因となることが多い肺炎です。

 また、インフルエンザで毎年少なくとも3000人、多い年には1万人が亡くなりますが、20年はほぼゼロだったと言って良い状況でした。

 我々は毎年、多額の費用を払ってインフルエンザワクチンを打ってきたわけですが、インフルエンザはマスクをして、手洗いをし、できるだけ人との密集を避ければ防げるものだという可能性が出てきました。

 コロナの流行がインフルエンザにとって代わってしまったのですが、そのコロナでさえ、日本においては諸外国に比べても感染者数、死亡者数ともに少ない。この要因についてはノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥さんが「ファクターX」と名付けて研究しています。

 ─ 河北さんはファクターXとは何だと見ていますか。

 河北 私はファクターXとは、実は科学的な解析だけではなく、「社会的」な話ではないかと思っています。科学的に日本人、あるいはアジアの一部の人たちと、感染が拡大している国の人たちと、人種的にどこが違うのかということを証明するのは至難の業だと思います。

 一番違うのは国としての「貧困層の生活状況、衛生状態」の差です。日本は貧困であっても普通の生活をしている人が多いですが、海外に行くと貧困層の生活状況、衛生状態は桁違いに悪いわけです。

 日本で感染者数、死亡者数がそこまで増えない要因は、社会的な生活環境だと思います。貧困層でも、ある程度の栄養状態で、清潔に生活ができる、上下水道の完備、そして教育レベル。こういったことが、科学的な遺伝子等の違いよりも、ファクターXに占める大部分では
ないかと思います。

 ─ 台湾、韓国といった東アジアの国々も感染者数が比較的少ないですが、日本と同じ要因と見ていいですか。

 河北 同じだと思います。例えば台湾について言えば、この社会環境を築くことができた要因は後藤新平です。