魚谷 雅彦・資生堂社長兼CEO

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コロナ禍で自分たちができることとは何か──。消毒液の生産は、現場からの提案だったと資生堂社長・魚谷雅彦氏は語る。コロナ禍で化粧品市場がダメージを受ける中、トイレタリー事業を売却するなど、化粧品事業に注力する方針を明確化。転換期の経営のカジ取りとは──。

品不足の消毒液を急遽生産

 ── コロナ禍は産業界、また社会全体に大きな影響を与えていますが、資生堂の事業にはどんな影響が出ていますか?

 魚谷 産業によって影響度が違いますが、化粧品産業も大きな影響を受けている産業の1つです。化粧して外出する頻度が減りますし、マスクをすると口紅も付けなくなるので市場そのものが縮小してしまっています。

 そのような状況のなか、わたしたちの原点に立ちかえり、社会やビジネスの中において何で貢献できるのかを考える機会にもなりました。

 まず、お客様、そして店頭で働く社員の安全や健康を守るために、日本企業の中ではかなり早い段階で、在宅勤務の開始や店頭の社員にマスクや消毒液を届けることなどを始めました。

 しかし、緊急事態宣言のなかでお客様が店頭に来られても肌に触れられない。商品などもカバーをかけて置いておくという形で、カウンセリングを主体とする化粧品産業にとっては、本当に厳しい環境になりました。

 結果として昨年、大変厳しい決算になったのはすでに発表した通りです。

 ── 感染拡大が長期化するなか、具体的にはどんな行動をとられたのでしょうか?

 魚谷 わたしたちは誰のために何をする会社なのかと。事業としては化粧品を販売していますが、その先にあるものは、お客様に健やかな美しさで幸せを提供したいということです。

 その中で、例えば、わたしたちの工場ではアルコールも扱っているので、不足していた手指消毒液を作ることができるのではと考えました。

 消毒液はアルコール濃度を高めた指定医薬部外品なので、一からの短期間での開発になります。しかし、一刻も早く必要な方々に提供したいとの思いから、これまでの化粧品開発にかける期間では考えられないスピードで処方開発を行いました。行政側の申請・承認手続きも類を見ない早さで対応いただき、わずか3週間で商品化することができました。

 商品完成後もすぐに市場に出すのではなく、まず医療従事者の方に寄付しようと、日本医師会さんに20万本を無償で提供させていただきました。

 その後、生産工場を増やすことで商品数が確保できたので、一般の小売店でも販売する形に移行していきました。アイデアはすべて現場の社員からの提案だったことが本当にうれしかったですね。

 ── 現場の提案で、コロナ禍に必要とされる商品を開発していったわけですね。

 魚谷 はい。さらには、手洗いや消毒に加えてハンドケア(手守り習慣)の重要性を生活者に浸透させるための『資生堂 Hnad in Hand Project』(ハンドインハンドプロジェクト)が始まりました。

 これは、当社の消毒液やハンドクリームなど対象商品22品のいずれかを店頭でお買い求めいただくと、そこから出てくる粗利から物流費などのコストを引いた利益をすべて医療従事者に寄付するというものです。

 お得意先にもご理解いただき一緒に取り組んでいただこう、ということで、化粧品専門店からデパート、ドラッグストアなど、1500社を超える企業の協力をいただきました。

 資生堂の業績が昨年大変厳しいことは皆さんおわかりなのですが、利益を度外視して寄付をするという発想に多くの賛同をいただき、取引先との信頼関係を深めることにもなりました。