東京ではすでに「MaaS」を実現できている? 次世代の公共交通サービスの概念と課題とは

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●「MaaS」という新しい移動概念
みなさんは「MaaS」(マース)という言葉を知っているでしょうか。

MaaSとは「Mobility as a Service」の略称。
鉄道やバス、タクシー、カーシェアリングなど、様々な交通手段による移動をシームレスに繋ぎ、1つの大きなサービスとして捉えた概念のことです。

11月19日に、このMaaSに関する研究会の第4回が都内で開催されました。

MaaSという概念は、2014年頃にフィンランドの首都、ヘルシンキで生まれました。
それまでバラバラに運営されていた鉄道やバスなどの公共交通機関は、乗り継ぎや乗り換えなどで多くの時間・コストで大きなロスを生んでいました。
そこにベンチャー企業が「Whim」というサービスを提供したことで、一元的に管理し、効率よく利用できるようになったのです。

また、MaaSには環境保護という一面もあります。
個人がそれぞれに自動車を運転して移動するのではなく、多くの人々をまとめて輸送できる公共交通機関を利用することで、化石燃料の消費を抑え温暖化の原因となる二酸化炭素の排出を減らし、環境負荷の低い社会を作りに貢献できるからです。

この概念は瞬く間に世界中へ広がり、日本でも数年前からその実装や実現に向けた検討が始まっています。


世界初のMaaSアプリ「Whim」

MaaSで重要とされるのは、企業の枠を超えた連携です。
例えば自宅から隣町の病院へ行く場合、
バスや鉄道、タクシーを乗り継ぐといったケースが発生します。

これらの運営会社が異なる複数の移動手段を使うと、それぞれで料金の精算が必要になります。

MaaSでは、こういった支払いも、すべて一括で行えるようにします。


●日本はMaaS先進国だった? 海外との環境の違い
一般論として、日本はMaaS(の概念)の導入が遅れていると言われており、昨年あたりからようやく首都圏や観光地でいくつかの実証実験が始まったばかりです。

しかし、2018年春よりMaaSに取り組んできたJR東日本は、

「日本にはMaaSに近い独自の概念がある」
「日本には日本の考え方と目的があって良い」
このように考察しています。

東京を中心とした首都圏は、世界でも屈指の過密地域です。
JR以外にも東京地下鉄(東京メトロ)や私鉄各線、さらには路線バスが網の目のように張り巡らされています。

しかし利用する際に、SuicaやPASMOといった電子マネーだけで、それぞれの交通機関を利用することができます。

これほどの広いエリアで、多くの公共交通網を網羅する共通電子マネーを導入している国は非常に稀なのです。
さらに、スマートフォンで利用できるモバイルSuicaであれば、スマートフォン1つで首都圏のほぼすべての公共交通機関を利用できるまでになっています。

MaaSでは、移動手段に対する公共交通機関の分担率の高さが重要とされます。
その点においても東京都などは分担率が非常に高く、自家用車の比率が低いことで有名です。

つまり、東京の移動においては、

・1つの決済手段でシームレスに公共交通機関を利用している人々の比率が非常に高い
・自家用車を利用する割合が低い
このように、MaaSが目指す社会環境がすでに構築されているのです。


モバイルSuicaによる支払いは一元化こそ実現されていないが、鉄道からバス、タクシーまで1つのアプリですべてが完了するという点において不便はない


●課題は、首都圏とは異なる地方都市
東京を中心とした首都圏の場合、世界有数の超過密都市という特殊な環境がMaaSに近い移動システムを偶然にも構築しています。

しかし、地方都市や過疎地域では状況が大きく異なってきます。

みちのりホールディングスは茨城県日立市を中心とした地域でMaaSの実証実験を行っており、2020年度には統合的な運行システムを導入し、さらに今後1〜2年で山間部での自動運転車の導入も計画しています。

同社が実証実験の場としてこの地域を選んだ背景には、

・居住地区が南北に細長く限られた地域である
・鉄道や路線バスといった公共交通網が充実している
・企業城下町であり市民の8割近くが日立関連企業に従事している
こういった理由があります。

東京のような都市型交通システムが発達していない地域の場合、MaaSの概念を導入する必要性は多くあります。

みちのりホールディングスの浅井康太氏も、
「繋ぐだけではなく、交通手段の提供量を増やしていかなければいけない」
と語っているように、
地方都市などでは公共交通機関で運行される本数や輸送量の少なさが問題となっています。

原因は当然、超少子高齢化に伴う人口減少と労働人口の減少です。
利用者が年々減っているだけではなく、バスや鉄道に従事する労働者数もまた年々減っているからです。

総務省の統計資料によれば、現在の日本における労働者人口は全国で年間60万人(毎月5万人)も減り続けています。
このような状況の中で、
・公共交通機関の収益性を保つ
・輸送量を確保する
これを実現するには多くの課題が山積になっています。

そのためみちのりホールディングスは、自動運転車の導入に積極的に取り組んでいます。
単なる理想論ではなく、現実に則し事業として成り立つ交通システムでなければ、MaaSの実現は机上の空論に終わってしまいます。


環境負荷軽減や効率的な移動手段の構築は重要だが、それ以上に事業継続性の確保が最優先となる

名古屋大学 未来社会想像機構 モビリティ社会研究所 教授であり、ティアフォー 取締役の河口信夫氏も

河口信夫氏
「バスの減便が止まらない。地方で公共交通機関を維持する需要がない」
このように地方での苦しい現実を指摘し、労働者不足を補う手段として自動運転技術を導入するだけではなく、需要そのものを喚起していく必要があるとしています。


●MaaS実現に向けて、どこまで地に足をつけた議論を進められるか
では、首都圏以外の地域においてMaaSを成功させるには、交通システムとして何が必要なのでしょうか。

各登壇者の意見をまとめると、以下のような項目が挙げられます。
・垂直統合的なピラミッド型ではなく、各社のサービスに横串を通すような集合的でフレキシブルな協力と提携関係が必要
・MaaSを実現させるためのソフトウェア(スマートフォンアプリ)
・ソフトウェアを使いこなすオペレーション現場のレベルアップと教育

河口信夫氏は、さらに一歩進んだ統合型サービスプラットフォームの構築も提唱しています。
・プラットフォームにユーザーはどこまで依存するのか
・プロバイダなどのインセンティブはどう設定するのか
こういったビジネス面からの課題への指摘には、企業と株式市場の関係を例に挙げています。

河口信夫氏
「交通事業者が特定のMaaS事業者と組んで失敗した時のリスクを考えると、プラットフォーム(エクスチェンジ)はそのリスクヘッジになる。

エクスチェンジ的なものがあることで、最適な移動手段を呼べるようになる。プラットフォームの大小で差別化すべきではない。

(どのようなプラットフォーマーでも)最初からサービスで戦えるようにしておきたい。」

このように述べており、小さなプラットフォーマーであってもMaaS事業へ参入しやすい環境づくりが重要だとしています。

MaaSを真に実現するには、企業の枠を超えた情報共有システムの確立も必要です。
個人情報取り扱いの厳格化や法規制の強化が叫ばれる中、
・ユーザー情報をどこまで共有するのか
・ユーザー情報をどこから守るべきなのか
こうした法的な議論も必要になります。

現在の日本は、少子高齢化社会が加速しています。
このような状況で、果たしてMaaSの概念と事業化は実現可能なのでしょうか。

本研究会をはじめとした今後の展開に、注視していく必要があるでしょう。


執筆 秋吉 健