「私は何十人、何百人ものアタッカーたちと対峙してきた。でも、(リオネル・)メッシは異質だった。悪い体勢に追い込んだと思った瞬間、GKが一番取りにくい場所に蹴れる。こちらが優位に立ったところで、そうではないと思い知らせる、その瞬間を楽しんでいるようだった」

 リーガ・エスパニョーラで約20年、ゴールを守ってきたスペイン人GKゴルカ・イライソス(ジローナ)はそう語っていた。実際に対峙した選手は、そのスピード感に度肝を抜かれる。

「メッシがボールを持って迫ってくると、猛獣かと錯覚した。人の手ではどうにもならない速さ、力強さを感じる。襲われるのに似た怖さだ」

 オサスナで20シーズン近くプレーしたMFフランシスコ・プニャルは、そう証言していた。

 猛スピードのなかでも技術を十全に出し、相手がそれを封じようとすると、さらに裏を取ることができる。肌で感じる速度感は尋常ではない。

<時空を操られている>

 対峙した守備者は、第三者が見ている以上に、信じられない動きを目の当たりにするのだ。日本代表に初招集されたFW久保建英FC東京)は、その領域に近づけるだろうか。


日本代表に初めて選出された久保建英(FC東京)

「久保という着ぐるみを被った別人かと疑うほどに、昨シーズンから大きく変わった」

 FC東京の関係者はそう言う。

 それほど、久保は凄まじい成長を遂げた。16歳でJ3のピッチに立ち、17歳でJ1のピッチにも立った。当初は大人の洗礼を受けたが、たった半年で試練を克服。今シーズンは開幕から中心選手としてプレーし、チームを首位に押し上げ、日本代表にも選ばれている。それは進化という表現に近い。ユースの選手特有の脆弱さは一切、消えた。

 ディフェンダーに与えるスピード感は、際立っている。

 Jリーグ第14節、大分トリニータ戦は、17歳で最後の試合になったが、3得点すべてに絡む活躍だった。技術、戦術、体力、そしてメンタルで傑出。年上の選手たちを、軽々と手玉に取っている。

 特筆すべきは、後半途中に見せたプレーだろう。必死のマークを試みる相手ディフェンダーをくるりとターンでかわす。追いすがられたものの、今度は右足で深い切り返しを見せ、ディフェンダーを置き去りにし、転ばせた。狙い澄ました左足のクロスを、味方がゴールに飛ばすことはできなかったが、まさに「久保劇場」だった。

 相手の裏を取れるだけに、体感するスピードは倍加するのだ。

「自分とはサイドは違いましたが、単純に速い選手だな、と感じました」

 柏レイソル、横浜F・マリノス、そして現在はサガン鳥栖と、J1で300試合以上の出場経験があるディフェンダー・小林祐三は、今シーズン、ルヴァンカップで対戦した際の久保の印象を語っている。

「技術があるし、判断もよく、だからプレースピードが速いんです。身体のブレもなくなった。昨シーズンは、マリノスの選手たちに聞いても『うーん』という感じだったのが、今シーズンは、『こういうことをしようと思っていたんだ』というプレーにつながっていますね。若いから成長するというのはあるんでしょうけど、誰でもそうなるわけではない。自分は、”久保だからこその成長速度”という気がします」

 久保のスピードは、見た目以上なのだろう。

「(対戦して)思ったよりも、断然、速い」

 Jリーガーたちは一様に、対戦した感想を洩らしている。その速さを、数値化するのは難しい。いいポジションを取って準備で上回り、そして相手の裏を取れたら、単純な走力の差など、容易に逆転するのだ。

 なにより久保の場合、トップスピードに乗った状態で、卓越したスキルを出すことができる。相手の速さが増すほど、それに合わせて進化。プレースピードの上昇を楽しんでいるようにさえ映る。

「個人的にいい感じで(Jリーグの)中断に入れます」

 久保は平然と言うが、「いい感じ」どころではない。前例のない飛躍と言える。

 代表でも、大いに刺激を受けるだろう。ポジションはFC東京と同じ右サイドのアタッカーになるのだろうか。中島翔哉(アル・ドゥハイル)、大迫勇也(ブレーメン)、酒井宏樹(マルセイユ)、長友佑都(ガラタサライ)といった実力も経験もある選手と”融合”することによって、その技術はさらに改善されるはずだ。

「レオ(メッシ)はいつも、周りの選手のプレーに影響を受けていた。技術を自分のものにできる才能があった。日々、プレーを改良していたよ」

 かつてバルサでプレーしたダニエウ・アウベスはそう語っていた。

 18歳になった久保は、まだまだ変身を遂げる。6月5日、豊田スタジアム。トリニダード・トバゴ戦が代表選手としての初舞台になるか。