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平昌五輪で盛り上がった冬を終え、迎えた2018年春。2020東京五輪への本格的スタートの季節だ。池田大亮は次の東京大会から正式種目となるスケートボードで大会出場を狙う。都内有明BMXで開催されるこの競技は、お椀型のボールなどを複雑に組み合わせたコースを滑る「パーク(PARK)」、街中にあるような階段や縁石などを模したコースを滑る「ストリート」で争われる。

池田は2017年、17歳にして世界最高峰の SLS(Street League Skateboarding)主催のアマチュアコンテスト「Damn Am」NY大会のベストトリック部門で優勝。国内でも日本選手権優勝を果たした。五輪有望株は若くして自分の生き方を定める。だから自分の滑りが何かを言い切れる。そんな強さに迫った。

撮影 岸本勉 中村博之(PICSPORT)/動画編集 田坂友暁/取材・原稿 吉崎エイジーニョ



”かっこよさ”に惹かれて始めたスケートボード。
「魅力を感じる点がそれぞれで違う」



ーー競技を始めたきっかけは?

きっかけは父ですね。最初、父はスノーボードをしていて、そこについていってたんです。でも冬が終わると当然雪がなくなります。そこでスケートボードをはじめた、というところです。

ーーいわゆる”横乗り系”ですね。どうやってはまっていったんですか?

動画の影響が強かったです。スノーボードに関して言えば、父の滑っているビデオに夢中になったというところでした。子どもだったから具体的にどこがカッコいいかはよく分かってないんですが、とにかく夢中になったんです。スケートボードでもやっぱり動画が重要でした。やっていくうちに有名な選手の動画をみていくようになって。純粋に“カッコいいな”と。

ーー今はそのかっこよさが説明できるのでは?

なんだろうな?一人ひとり滑っている姿に個性があって。うん、個性ですよね。自分がその選手をカッコイイと思っていても、他の人は「そんなにカッコよくないよ」という。そういうところがあったりします。

ーー答えが一つじゃない。

そうですね。大会で活躍して、すごく上手い選手がいるとします。でも「スタイルが自分の好みじゃない」ということもたくさんあって。個性、というのはやっぱり重要なところです。



ーー子供の頃は、サッカーもやられていたと聞きました。

小学校3年生までやってましたね。ただ自分にはやっぱりスケートボードでした。サッカーをやっていくとどうしても土日とか、父が休みの日に試合が入ることが多くて。父の休みの日にはやっぱり、スケボーがしたかったので、こちら一本に絞るようになりましたね。

ーースケボーのかっこよさがやはり勝った。やっていくうちに感じる魅力もあるのでは?

スケートパークに行けば、学校ではなかなか会えない友達がいて、そこで競い合えるんですよ。自分の新しい技を見せると、相手から「おーっ」と言ってもらえるとか。結構自分もテンションが上って、楽しいですね。

ーー分かりやすい新しい技を見せて、分かりやすく褒められる。

そうですね。やっぱり相手にできない技を自分が新しくできて、魅せられて楽しい。相手もそれに追いつこうと練習を始める。競い合えるんですよ。そういうところも魅力ですね。

競技の魅力「上手い選手がはっきりと分かる」点も
ぜひともパークに行ってみて!



ーー東京五輪の予習も兼ねて、スケートボード競技について、基本的なことをお聞きします。どういう点を争う競技なんですか?

大会のルールは、だいたい45秒で3トライアルもしくは2トライアルです。まあ60秒のときもあるんですが。で、世界で一番基準とされているのがベストトリックという競技方法で、これが5回あるんですよ。

競っているポイントは、板が何回回っているかとか、高さやスピードによって難易度が増す着地でバランスを保っている感じなどですね。こういったポイントが一番争っていて点数差がつくところです。スケートのなかで一番規模がでかい大会だと10点満点なんですよ。10点満点のなかで自分がどれだけハイスコアを出せるのか。そういうところですよね。

ーー読者の皆様にもスケートボードをやっていただく、そのための話もお聞きしたいです。アラフォーの読者だと多くの人が一度はやってみたと思うんですよ。ボードに足を置いて、腰から動かす動き(チクタク)のイメージはあります。

細かい技術もありますが、やっぱり最初はパークに行ってみることがいいんじゃないでしょうか。上手い人がいて、そうじゃない人がいる。なかには教えてくれる人もいるので、声をかけてみることもよいですよ。「こうしたほうがいいんじゃないか」と教えてくれたりするでしょう。僕は先に技術のことを考えるより、現場に行くことをおすすめしますね。



ーー上手い選手の見分け方は?

パッと見で、やっぱり分かるもんなんですよ。スピード感、ジャンプの高さ、ミスの少なさ。そういう点で見分けられますよ。 上手ければ、その人がはっきりと分かるという競技でもあるので。スケートパークに行くと、目立っている人は分かりますよね。

ーー海外では日本よりも一般的に認知度が高い、人気種目でもあります。

アメリカはもちろん、今、ブラジルでもすごい人気なんですよ。ブラジルでは道端でも結構やっていて。スケートボードの日というのがあるんですけど、その日にインスタグラムを観ると、すごく広い道にうわーっと人がずっしりと集まっていて。すごいなって。

ーー余談になりますが、ブラジルのサンバの踊りって、じつはものすごく体幹を使うらしいです。サッカーが強い原因の一つじゃないかという話もあって。

サンバはさておき、他の種目の経験が生きるというのは確かにありますよ。スケボーでプロになった人でも、インスタグラムを観るとサッカーをやっていたりとか。僕の周りにもサッカーと行ったり来たりしている人もいます。 足でボールの感覚を掴む、といったことが、スケボーにも繋がるのかなと思ったりしますよね。

東京五輪正式種目決定
「僕自身もちょっと意外でした」



ーー一週間のスケジュールはどう過ごしていますか?

平日は朝、早く起きて、朝ご飯食べて、土手を5キロほどランニングします。その後、近くにパークがあるんですけど、そこで昼まで滑って、その後昼食を。少しゆっくりして、また違うパークに行くことが多いです。20時半くらいまでスケートやって、帰宅するというところですね。 水金は学校があるんで、学校が終わった後にスケートパークに行って練習を。 最近は近所のジムで筋肉を鍛えたりもしますよね。

ーー大会のシーズンはおおよそいつに?

一般的に夏が多いですね。日本だと、ムラサキ(スポーツ)の湘南オープンという大会があったりして。日本と海外で違いもありますが。冬はその一年を振り返ってみて、技術的に足りなかったところを補いますね。復習して、来年の大会に持っていくというところです。

ーー学校を水金のみにするやり方をしてでも、スケボーに”賭けて”います。迷いのない人生、という風にも見えますね。迷いは生まれませんか?

新しい技が習得できないとき、瞬間的に自信を失うこともありますが、迷うことはないですよ。



ーー真摯な気持ちで、かつ人生を賭ける気持ちでスケボーをやられています。でも周囲からはチャラチャラしていると見られることはありませんか?つまり自分の認識と周囲の評価にギャップがあるとき、どうこれを消化するのでしょう。

確かに、スケボーで街中を走っていると嫌な目で見られることもあります。複雑な気持ちになりますよね。ただ、自分自身もスケボーが東京オリンピックの正式種目に決まったとき、「意外だな」と思ったりもしました。自分のなかでは五輪種目とは「体育の時間に学ぶような種目」というイメージが多いです。街中でちょっと嫌な顔をされる種目。なかなかないでしょう。そうなると、今の自分のモチベーションのひとつは「絶対にオリンピックに出て、自分と競技のことを知ってもらおう」という点にありますよね。知ってもらうことでギャップを埋めようと。

ーーそうなると、スケートボードが五輪種目となったということはかなり大きいですよね。

目標であることは確かです。いっぽうで通過でもありますけどね。やっぱり、頂点はアメリカでやる、SLS(Street League Skateboarding)という大会が頂点なんですよ。オリンピックに出てメダルは獲りたい。ただ、仮にオリンピックで正式種目にならなかったとしても、SLSを目指して頑張っていたと思います。

ーー若くして、自分の活動について理解・期待してくれる人がいて、スポンサードしてくれる人がいる。そういう方々についてどんなことを考えますか?

スポンサーからいただくお金は、海外遠征で主に使わせていただいています。あと、道具についてご提供をいただくこともあって。ありがたく感じています。

「大会でもよくコケます」。そのときのメンタル回復法とは?
今後は自分の滑りで東京五輪へ。



ーースケートボードは個人種目です。他の選手とは一緒に練習したり、試合に行ったりして、仲良くなったりすることはあるんですか?

およそ一定レベルの大会に出る人は決まっていて、上位の選手も決まっている部分はあります。そういった関係で仲良くなっていきます。個人的には今、自分と近いレベルにあるな、という選手が大阪にいるんですけど、彼が東京に来たときには、一緒に滑ったりとかしてますね。どちらかというとみんなでつるむというより、パークに行けば、誰かしらいる。そのときにその人達と一緒に滑る、という感じですね。上下関係もあまりなく。あるとしたらスケボーの実力からくるお互いへのリスペクトですよね。



ーーコケることはありますか?

よくありますよ。ちょっと柔道の受け身みたいなかたちで倒れるとケガはしません。逆にそれができないと、手首を骨折したりもしますね。

ーー大会でもコケますか?

はい。

ーーコケたとき、どうメンタルを戻すのですか?試合は続くわけですよね。

そうです。大会で一番決めたかった技をミスったときに、一分以内に切り替えないと、ということはあります。そのときは「絶対に次にやる」という決意をもってやりますよね。そこで決められたら、会場は沸くだろうというイメージを持ってやりますよね。

ーー一見、軽そうに見えるスケートボードだけど、重要な局面では強い気持ちが大事だと。そのギャップ、女子にもてるでしょ?

うーん、どうかな。自分を観てくださっているなと感じるときはありますが。

ーー女子にどう観られたいですか?

やっぱり、カッコいいと思われたいですよね。スケボーという競技は、一人ひとりが違う。そこを観てほしいですよね。そこが会場にいる女性にも伝わればなという思いはありますよね。



ーーファンレターが来たりとかは?

今年のAJSAという大会で、負けてしまったんですけど、そこではずっと観てきてくれてたファンの方から手紙をもらって、励ましてもらうこともありましたね。

ーーそういったファンに見ていただきながら、競技生活が続いていきます。最後に今後の抱負を。

他の五輪競技でもおそらくはこれから代表選手が決まっていくんですよね。スケートボードの場合、日本からの出場枠は一人、もしくは二人と言われています。僕は昨年の全日本選手権では優勝したんですけど、その後、五輪代表枠の話はない状況です。五輪に出られたなら、さきほど言った自分がかっこいいと思う、自分の滑りを見せて金メダルを獲りたいです。まずはスピード。そして階段での滑りを得意としています。ミスのない、たとえ他の選手と重複する部分があっても「ずば抜けて自分のほうが上」という滑りです。自分のスタイルで勝てる滑りをしたいです。



迷いがない。池田はそう言い切った。スケートボードをやっている自分に瞬間的に自信を失うことがあっても、迷うことはないと。幼き頃に見た「かっこよさ」を信じ、その道を進む。若いながらに自分を知る。それも当然だな、と思わせた。17歳ながら、「自分らしいカッコよさ」を追求してきた歴史は、すでに長いのだから。



<プロフィール>
池田 大亮(いけだ・だいすけ)
プロスケートボーダー
2017年 SLS DamnAm NYC ベストトリック優勝、ストリート2位。
2017年第1回日本スケートボード選手権大会 優勝

2000年8月4日生まれ。東京都出身。165センチ55キロ。新横浜スケートパーク、ムラサキパーク東京 、大師パークなどを拠点にプロとして活動を続ける。 2016年 AJSA(日本スケートボード協会)グランドチャンピオン、2017年日本選手権優勝。8社のスポンサーが競技活動を支援する。普段よく聴く音楽は、ラッパーのLil Pump、 Lil Uzi Vertなど。