社団法人日本ショートスリーパー育成協会理事長の堀大輔氏

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あなたは、1日「何時間」寝ているだろうか。短い人なら4、5時間、ゆったり眠れる人なら8、9時間といったところかと思う。

だが、世の中には1日に、ナポレオンばりの3時間どころか、「45分」しか寝ないという人がいるという。しかもその人物はセミナーを開いて、「短眠」の方法を教えているというのだ。本当にそんなことは可能だろうか。J-CASTニュース記者はその講座に、実際に参加してみることにした。

「ショートスリーパーになりたい」人たち

7月、東京・渋谷駅前の雑居ビル。平日の昼過ぎにもかかわらず、会場のオフィスの一室には、10人弱の参加者たちが集まっていた。

この日の講座は、本格的なセミナーを受講する前の「説明会」という位置づけだ。受講料は3000円(税別)。顔ぶれを見ると、比較的若い男性がいるかと思えば、髪の毛が真っ白の高齢者も。職業もエンジニア、営業マン、自営業などさまざまだ。だがここに来た目的は、「ショートスリーパーになりたい」の一点に尽きる。

「仕事を増やしたい」「趣味の時間がほしい」「年なので、生きている間に少しでも長く起きていたい」――。

講座はまず、若い女性講師が「前座」として、短眠のメリット、そしてセミナーの主宰者の「凄さ」をとうとうと語る。「テレビやネットに載っている情報は正確でない」「睡眠がどれだけ体に悪いかを知ってください」――およそ1時間弱、ようやく、今日の主役である、「社団法人日本ショートスリーパー育成協会」理事長・堀大輔氏(33)が登場した。

「ほとんど寝ていない」というから、仙人のようにげっそり痩せていたり、目の下にクマがあったり――そんなイメージを勝手に持っていたが、そんなことはなく、関西弁を喋る、ビジネスマン然とした人物だ。2016年には、著書『できる人は超短眠!』(フォレスト出版)も刊行している。

「僕、ショートスリーパーになってから『負けた』ことないですから」

自信あり気に語る堀氏の言葉に、ある参加者はしきりにうなずきながらメモを取り、別の参加者はどうも腑に落ちない、という表情で腕を組む。

睡眠不足は早死にする」に反論

説明会とは別の日、堀氏を直接取材した際に、ある一日の生活を聞いた。

深夜2時半。仕事を終えて自宅に帰り、息子(10か月)と遊ぶ。朝6時半、息子を寝かしつけ、自分も入眠。7時半に出社。執筆やスタッフへの指示出し。11時半〜14時、来客を迎え、ランチを取りつつ打ち合わせ。14時半からミーティング。16時から著書の執筆。18時〜19時半に筋トレ。休憩・談話ののち、21時から喫茶店で仕事。23時にオフィスに戻り、スタッフへの指導。0時にすき家で食事、その後帰宅。深夜1時半、再び食事を取り、2時から息子と遊ぶ――。

あくまで本人の話とはいえ、この日は30分しか眠っていない計算になる。

堀氏は25歳のとき、7年間の「研究」の末に、独学で自らの「短眠メソッド」を発明し、以来「45分睡眠」生活を続けているという。自身認める通り、専門の教育を受けた経験はなく、今のところ具体的な調査データなどはまとまっていない。「通説」とは正反対の説も多い。

たとえば、寝ないと疲れが取れないように思いますけれども......?

「皆さん、『睡眠をとらないと大変なことになる』と怯えすぎなんです。睡眠についてよく知らないのに、睡眠に頼る。それよりも起きている間に、ちゃんと運動をするとか、疲労を取るストレッチをするとか、1時間でも多く働いて健康にいい食事をとるとかする方がいいんじゃないですか?」

でも、睡眠不足は「早死」にする、とも言いますが......。

「でも、世界でトップクラスに睡眠時間が短い日本は、同時にトップクラスの長寿国ですよね? 専門家は、『食事や医療、法律など別の要素があるから』と言いますが、じゃあ睡眠は寿命にあまり関係ないということになりませんか?」

セミナー受講料は34万8000円〜

説明会でも、堀氏はこうした睡眠に関する独自の理論をとうとうと解説する。また、短眠生活の実践者の経済的、社会的な「成功」ぶりも紹介する。自らのセミナーで「ショートスリーパー」となった人は、1000人を超えると胸も張る。

そのセミナーだが、受講料はグループレッスンで34万8000円(税込)、マンツーマンレッスンで54万円(税込)だ。決して安くはない。先ほどの腕組みの男性は、納得がいかなかったらしく、説明が終わるとともに、足早に会場を後にしてしまった。一方で、セミナーの日程や支払いの詳細を尋ねるなど、入会を真剣に考えている様子の人も数人見られた。

公式サイトによれば、個人差はあるものの、1日3時間睡眠になるのにおよそ2〜3か月、完全に「睡眠をコントロール」できるようになるまで4〜6か月かかるという。

二度寝をこよなく愛する記者は、結局入会しなかったが......。