レッドブルの「音楽学校」RBMAの挑戦:無名アーティストを世界最高峰のフェスへ送り出す意味

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若く才能溢れるアーティストたちを支援する音楽学校「レッドブル・ミュージック・アカデミー(RBMA)」は、音楽フェス「Sónar」で、ステージのひとつを毎年キュレーションしている。今年10周年を迎えてなお存在感を増す、RBMAのアーティスト育成プログラムのやり方とは。

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6月12日から3日間にわたり、「Advanced Music(=先進音楽)とNew Media Artの祭典」を標榜する音楽フェス「Sónar(ソナー)」がバルセロナで開催された。今年で21年目を迎える同フェスは、10万人超えの動員を記録する世界トップクラスの大型フェスである。

レッドブル・ミュージック・アカデミー(RBMA)は、この「Sónar by Day」(=昼の部)のステージのひとつ、「SónarDôme」のキュレーターを務める。

「フェスと学校」の自然なマリアージュ

RBMAとSónarのコラボレーションは2004年から続く。最初は小さなラウンジで始まったプログラムだったが、そのフレッシュでアップカミングな出演者陣を配する内容が話題をよび、あっという間に人気ラウンジに成長、そしていまやメインステージを受け持つまでに至る。コラボ10周年を迎える今年、RBMAはその存在感をさらに増していた。

スロッビング・グリッスルの「Chris & Cosey」、M.I.A.とのコラボがいまだに耳に残る、ポルトガルの”ブッ飛び”パーティー・バンド「Buraka Som Sistema」、そして自らを”ブギー・ファンク・アンバサダー”と名乗る、LAの「Dâm-Funk」、3日間のヘッドライナーを並べてみただけでも、もうすでに一筋縄ではいかない。

「RBMAが固く信じていること。それはこの世界の多様性を示すことなんだ」と、ファウンダーのひとり、トーステン・シュミットは話す。

世界各地から結集したクリエイターたちのプラットフォームとなり、世界中の大都市でワークショップやフェスティバルを行う。そうすることで数々のアーティストを15年以上にわたり世に問うてきたRBMAのスタンスは、ここSónarにおいても、どうやらぶれてはいない。

「音楽のスタイルやそのルーツが違っても、もっと言えば、国籍やカルチャーや、たとえ政治的な背景が違っていても、“美しいもの”がもつクオリティの基準は変わらない。そして、この世界にはまだまだたくさんの“美しいもの”があって、ぼくらはそれをリードする」

なるほど、このSónarが「アートとテクノロジーの融合」を介して、またそのラディカルなアイデアを通して音楽の未来をたぐりよせるものであるのならば、RBMAは、世界に散らばっている有望な音楽家たちを見出し、集め、支援することによって、こちらは音楽に未来を与えている。それぞれのメソッドは違えども、両者の美学は一致する。「とても自然なマリアージュだと感じるよ」。シュミットはそう語る。

「SónarDôme」には、前出のヘッドライナーに加え、ミュージック・アカデミーを修了したDJやミュージシャンが名を連ねる。これら「卒業生」アーティストたちの有望性こそが、RBMAのキュレーションをして、Sónarにおいて異彩を放つ存在に推しあげた、大きな要因であることは間違いない。事実、Flying LotusやAloe Blaccなど、いまや世界の第一線で活躍するアーティストを多く輩出してきたRBMA。説得力がある。


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人生観が一変する音楽学校

今年は、2013年のRBMAニューヨーク校に参加した、Koreless、Sinjin Hawke、T. Williamsなど、期待の「成長株」たちのなかに、日本人アーティストEmufuckaの名前があった。

RBMAの経験が、その後の人生(観)を一変してしまったと公言するミュージシャンは多いが、Emufuckaもそのひとり。かつてラッパー少年だったEmufuckaは、地元の小さなレコード屋でMadlibやJ Dillaのビートに出会う。周囲のトレンドがつぎつぎに遷り替わっても、ひたすらそのビートの秘密を追い求めてきた。バルセロナにくるのは今回が初めてだという彼は、「信じてきた音楽が間違いなかったんだと、強い信念を持てるようになりました。それがRBMAに参加して得たいちばんの価値だ」と、パフォーマンス後に話してくれた。

ファウンダーのシュミットも言う。「アーティストたちは、自分がこの地球上でたったひとりぼっちの、孤独な存在だと感じてしまうことがあるもの。でもそれは、たとえヨーコ・オノであろうとも、きっと始めたときにはあったんだ」

「無名の不安」を払拭させる

仲間に恵まれず、周りの誰にも理解されないがために、闇に消えていく才能は星の数ほどあるだろう。だから大切なのは、まず無名であることへの不安を取り払ってあげることだいう。それは、その活動を継続するための重要な地盤となる。

RBMAはそのために、世界各地からおよそ無名のアーティストを1カ所に集めて共同作業させる。ちょっと想像してみて欲しい、例えばニュージーランドのフォーク・シンガーとカナダのDJ、ルーマニアのビート・メイカーがひとつの楽曲をつくる過程を。お互いに共通の価値観を見い出し、お互いのスキルを信じて、その作品を仕上げる悦びは得難いものに違いなく、それぞれのキャリアにおいて、その経験こそが以降のよりどころとなるという。

それは、今回「SónarDôme」で繰り広げられた個々のパフォーマンスが、ちゃんと証明していた。単身日本から乗り込んだEmufuckaも然り。出演時間が初日の昼帯、午後1時過ぎという条件にもかかわらず、地に足のついた堂々たるライヴを行った。彼のどこか圧倒的でドラマチックなサウンドからは、日本が誇るかの怪獣映画のような「日本らしさ」すら感じとることができた。


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RBMAの哲学がびっしりと詰まった映画『What Difference Does It Make?』。ブライアン・イーノやヴァン・ダイク・パークス、フィリップ・グラスからエリカ・バドゥ、リー・スクラッチ・ペリーまでもが登場し、自らを音楽家として生きるための智慧を授けてくれる。

ニュージーランドからやってきたLuis Bakerはギター1本で繊細に弾き語るシンガーだった。ダンス・ミュージックに特化するSónarのなかでは随分と異色な彼のステージも、フロアーを埋めつくすようにいっぱいに座り込んだオーディエンスがじっくりと聴き入っていた。プリンスの「パープル・レイン」をカヴァーすると、大合唱が起こる。その一節「I know times are changing(時代はかわるんだ)」を会場の全員が一緒になって叫んだ瞬間は、このRBMAの思想とその方法がリードする次の世代を、なにやら明るく象徴しているようだった。

「面白くて、満足できる人生をクリエイトしたいという気持ちは、肌の色も出身地も、どこでなにを学んだかとか何をしているかとかも一切関係なく、皆に共通するもの。RBMAは、そのアイデアをクリエイトする手助けをしているんだ」とシュミットは話す。

よりよい世界にするために、クリエイターたちと一緒になにができるのか。どうやらRBMAは、音楽にぼくらの未来を託している。

Sónar

バルセロナで毎年6月に開かれる国際音楽フェスティヴァル。テクノやハウスなどのダンスミュージックに象徴されるエレクトロニック・ミュージックのトップアーティストが毎年出演。加えて、テジタル・テクノロジーを駆使したアート・インスタレーションやダンス作品、ヴィデオ・プロジェクションなど、さまざまな形態の「電子アート」のパフォーマンスも注目されている。2015年は東京を含む世界8カ国で行なわれることが決まっている。レッドブル・ミュージック・アカデミー

レッドブルによって運営される音楽学校。世界を周り、各地でワークショップやフェスティヴァルを開いて、才能溢れるアーティストたちを支援する。1998年のスタート以来、ベルリン、ロンドン、メルボルン、マドリッド、ニューヨークなどで行なわれた。前衛的かつ創造意欲に溢れるクリエイターたちのプラットフォームとなる機関・団体として、世界中にネットワークを広げている。今年の秋、いよいよ日本に上陸する。

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