東大と北アイルランド企業による「グリーンな航海を行う貨物帆船」

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貨物帆船の物語は、世界のあちこちの工業デザイナーや賢明な船主たちの夢のなかに深く根付いている。

2008年、夢想家の船長ルッツ・ヘルトの望みによって、Beluga SkySailsがこれに挑戦し、ある程度の成功を収めた(参考:凧を利用した「ハイブリッド貨物船」、初航海でベネズエラへ)。160平方メートルの巨大な帆に引っ張られて、コンテナ船はドイツ、ノルウェー、アメリカ、ヴェネズエラへと、計12,000海里を2カ月かけて旅した。

アメリカ海軍がいくらか関心を示したが、個人のヨットに多少応用されたのを別にすると、その後数年ほどは何も動きはなかった。もっとも、Belugaの場合は、帆というよりは、巨大な凧だったのだが。

これに対して、この数カ月で開けつつある展望は、まったく異なっている。東京大学と、北アイルランドの船会社B9 Shippingによって行われている2つのプロジェクトのおかげだ。

世界中の店に並ぶ商品の大部分が海路で運ばれていることを考えるならば、どちらの場合も、動力用燃料(価格はこの10年で600%上昇した)の消費を大幅に減らし、環境インパクトを抑制するための解決策となりうる。

さらに、費用のかかる伝統的な推進システムに取って代わるために登場したこれらの帆船は、十分に実現可能なものなのだ。

日本の東京大学の場合、プロトタイプでは9本ものマストを備え、そのそれぞれにアルミニウムとプラスチック製の湾曲した帆を張った貨物船を実現することを目指している。

今年の春に行われたSea Japanで、鵜沢潔准教授によって発表されたこのUTウインドチャレンジャーは、伸縮自在のマストを備えている。荒天時にはこれらは引っ込められて、普通のエンジンに仕事を譲る。何よりも、それぞれの帆は、最適な向きにで風を受けることができるように自動的に制御される。

3分の1の燃料消費カットを実現することができるこの戦略がもたらす節約によって、5年から10年の運用で船の建設費分を捻出することが可能となるという。要するに、ただの将来有望な研究というレヴェルを超えて、投資家たちを説得して本当の融資を検討させることができる計画なのだ。





これに対して、B9 Shippingの計画はより詳細で、何よりもすでにロールス・ロイスやタタ・スティールのような巨大企業とも合意を結んでいる。また、縮小サイズのモデルは最初のテストをクリアして成功を収めている。

構想は、高さ50mのマストを3本備えた重量3,000t、全長100mの貨物船を建造するというものだ。もちろん何十万tもの巨大船と比較すると微生物のようなものだが、グリーンな航海への第一歩である。

風が十分ではないときは、船はバイオガスのエンジンによってエネルギー供給を受けるだろう。この分野では、B9はイギリスにおける疑問の余地のないリーダーだ。建造期間は3年間と見積もられていて、建造に入るのに必要な費用は4,000万ユーロだ。

イギリス政府も、いまは様子を見ているが少なからず関心を示している。事実、「B9 Shippingが開発している革新的なテクノロジーは本当に歓迎すべきものであり、この分野の産業と世界に対して、効率的で環境へのインパクトの低いタイプの航海が可能であることを示しています」と、イギリスの交通省政務次官で船舶航行の責任者、マイク・ペニングは述べている。

TEXT BY SIMONE COSIMI
TRANSLATION BY TAKESHI OTOSHI「東大と北アイルランド企業による「グリーンな航海を行う貨物帆船」」の写真・リンク付きの記事はこちら



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