なぜルワンダで「全国民奉仕の日」が可能なのか 東京外大の武内教授が解説
ウムガンダの日、虐殺記念館の敷地で草刈りをする住民ら=2026年3月28日、ルワンダ・キガリ、中川竜児撮影
「世界で最もクリーンな国の一つ」と称賛される東アフリカのルワンダ。貢献しているのが月1回、全国民が参加する奉仕活動「ウムガンダ」だ。18〜65歳の住民がコミュニティ単位で集まって、掃除や道造り、学校建設などに汗を流している。全国民が参加するという異例の方法がなぜできるのか。ルワンダの内情に詳しい東京外国語大学の武内進一教授(64)に聞いた。
――国単位で、ウムガンダのような「動員」ができるのはなぜでしょうか?
アフリカでは非常に珍しいことですが、ルワンダはもともとあった王国がそのまま現代の国家になっています。同じ言葉を話して、同じ歴史を共有している。ある意味、その王国統治の歴史の記憶が続いていて、上からの動員が他の国よりもしやすい。従順に「お上」の指示に従うという、日本人に似た部分があります。
街路樹の緑がまぶしく、整然としているキガリ市中心部=2026年3月29日、ルワンダ・キガリ、中川竜児撮影
――1994年のジェノサイドの時には、ウムガンダが悪用され、殺戮(さつりく)行為に拍車がかかったという指摘があります。
ジェノサイド前から、ルワンダには上から下への行政機構がありました。県という行政機構、その下にコミューンという行政機構、さらにその下にセクターやセルと呼ばれる末端の行政機構がありました。それらは地方の行政機構ですが、政党の幹部たちがトップに就くことが多かった。その幹部たちが「殺しに行け」という風に言うことがしばしばあったということでしょう。ウムガンダは、行政機構のトップが声かけして、「ここを掃除しろ」「あっちでこれをやれ」と指示をする構造です。それが悪用された可能性はあると思います。
――そうした悪用の歴史があっても、ジェノサイド後の国家再建にウムガンダを活用したのはなぜでしょうか?
内戦で国土が徹底的に壊滅状態になり、人口も減ってしまった。しかし、政府にはお金がない。現在のウムガンダは、良く言えば住民による貢献、悪く言えば労働力の徴発ですが、ゼロから国土再生を目指すには、そこに頼らざるを得なかった側面が大きかったと思います。
ビルが立ち並ぶキガリ市中心部=2026年3月29日、ルワンダ・キガリ、中川竜児撮影
――当初は不参加者には罰金を科していました。日本ではなかなか考えにくい手法です。
コミュニティで何か問題を起こしたり、命令に従わなかったりしたら罰金というのはアフリカではよくある手法です。特にルワンダでは、上からの命令に強制力を持たせるために罰金を使いますね。
――ウムガンダの作業後は、コミュニティの課題を住民同士が話し合うそうです。「地域のことは地域でやっていく」「住民自らが課題を見つけて解決していく」ということは素晴らしい面もあります。
そうですね、今のルワンダのRPF(ルワンダ愛国戦線)政権は非常に権威主義的ですが、一方で、権威主義の枠内ではありますが、そうしたボトムアップ的な動きをすごく重視していて、自分たちの方向性と合致するような「下からの動き」をすくい上げ、推奨し、強化するということを熱心にやっています。
――街の清潔さやクリーンさを重視するのはなぜでしょうか。例えば、観光面などでのメリットを考慮しているのでしょうか?
クリーンには色んな意味がありますが、単に清潔ということだけではなく、乱雑でないという意味もありますね。例えば、キガリには物売りがいません。他のアフリカの国々に行くと、街には物売りがいて、路上に物を広げていて、騒々しいくらい売り子の声が響いていたりするのが普通の光景ですが、キガリには全然ないんですね。それは禁止されているからです。他にも、自転車で物を運んだりするのも他国では見られる光景ですが、キガリにはない。自転車は中心部に入っていけないとか、そういう形で規制をつくっています。
ウムガンダが始まる直前、通りに立ってバイクタクシーを止める警察官=2026年3月28日、ルワンダ・キガリ、中川竜児撮影
――私たちが思うような、例えば物売りがいることによって感じる、乱雑でもあるけれども活気があるな、という捉え方ではないのですね?
現政権は、「乱雑である。それは治安面でも良くない」という風に捉えていると言っていいでしょう。例えば15年ぐらい前ですが、わらぶき屋根追放運動というのがありました。アフリカの農村にはわらぶき屋根の家がたくさんあります。
でも、ルワンダでは「わらぶき屋根は不潔で、虫がいる」ということで、わらぶき屋根を追放しよう、とポール・カガメ大統領が言い出した。それに呼応して、地方の行政機構が、わらぶき屋根の家を全部破壊して回りました。代わりにトタンの屋根を配ると言っていましたが、配られるまでには半年ぐらいかかったところもあった。
そういう昔ながらのやり方や物を変革して、近代化してもっとクリーンにしていく、そういう指向性は色んなところで見られます。
ウムガンダの日、虐殺記念館の建物を掃除する住民=2026年3月28日、ルワンダ・キガリ、中川竜児撮影
――その指向性はどこから来るのでしょうか?
RPFはもともと軍隊です。軍隊というのは非常に近代合理主義的な指向性を持っていますから。
――ルワンダの人々の従順さをご指摘されていましたが、それでも、いきなり家を壊されるというのは衝撃です。政権に反対する動きは出ないのでしょうか?
封じ込めています。野党は全部つぶしてきたので、野党という形の反対勢力がいないんですね。さすがに不満がたまって、デモのようなことが起きたこともありましたが、最終的には抑圧するという対応で臨む。「反乱」というような形で表に出てくることはこれまではありませんでした。
――権威主義的な体制ですが、欧米諸国から目立った批判はありません。
欧米諸国には「借り」と言うか、「負い目」があります。国連は、ジェノサイドの拡大を防げなかっただけでなく、PKOを撤収させました。ルワンダ側はそれを何度も持ち出して欧米諸国を牽制してきた。欧米諸国はルワンダに対して強く出られないし、あえて出なかった歴史が続いていました。
ただ、今年3月にルワンダ国軍に対して、アメリカが制裁をかけました。これは大きな変化です。ルワンダは、長年にわたって隣国のコンゴ民主共和国の反政府勢力を支援し、軍事介入を続けてきました。紛争下で多くの犠牲者が出ていますが、国際社会は強く反応していませんでした。
しかし、アメリカのトランプ政権は、コンゴに希少な鉱物資源があることに目をつけ、両国の仲介をして、和平協定に署名させました。ただ、現地はその動きに全く対応せず、戦闘が続いていた。制裁は、ルワンダは協定に署名したのに依然として支援を続けて紛争に加担しているじゃないか、という理由です。トランプ政権にすれば、希少資源が大きな狙いだとは思いますが、コンゴ寄りの立場を取ったことは、ルワンダにとってかなりの影響があると見ています。
ウムガンダについて説明する武内進一教授=2026年3月17日、東京都府中市、中川竜児撮影
武内進一(たけうち・しんいち)東京外国語大学現代アフリカ地域研究センター長1962年生まれ。在チュニジア日本国大使館派遣員、アジア経済研究所地域研究センターアフリカ研究グループ長、国際協力機構(JICA)研究所上席研究員などを経て、現職。著書に『現代アフリカの紛争と国家 ポストコロニアル家産制国家とルワンダ・ ジェノサイド』(サントリー学芸賞)、『アフリカの国家建設 自分たちの国をつくる』など。
