「徘徊が止まり大声を出さなくなった」老人ホームの介護士が「ボケ封じスピーカー」に驚いた

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認知症スコアがみるみる改善

「これまで施設内で徘徊したり、大声で怒鳴って暴れたりしていた人が、穏やかに生活できるようになりました」

そう驚くのは、東京都国立市にある介護老人保健施設「国立あおやぎ苑」で施設長を務める、脳神経外科医・老年内科医の武田行広氏だ。

この施設では3年以上前から、認知症の予防や治療に効果が期待されているスピーカー「kikippa」を実証研究として導入し、認知症患者にどのような変化が起きるのかを検証してきた。武田氏が解説する。

「施設内のアルツハイマー型認知症と診断された25名と、診断は受けていないものの認知機能が低下している31名を対象として、比較検証を行いました。

認知症の25名が利用する共用スペースの大型テレビにkikippaを接続し、朝9時から夕方6時までの9時間、スピーカーを通した音を流し続けました。実際にスピーカーの音を聞いているのは平均して1日3〜4時間ほどですが、6ヵ月経った時点で、25人全員の周辺症状に改善が見られたのです」

検証結果に使ったのは、認知症がどの程度進行しているのかを測定する「DBD-13」と「長谷川式簡易知能評価スケール」の2つだ。

「認知症は、周辺症状と中核症状の2つに分けられます。周辺症状には、怒鳴る、暴言を吐く、暴れる、徘徊などがあり『DBD-13』で評価するのですが、kikippaを使用し始めてから6ヵ月後には、そのスコアが大きく改善しました。

さらに1年、2年と継続して使うことでスコアが改善していったのです。介護現場では周辺症状が認知症の方のケアを困難にしているのですが、スピーカーを使い始めてから一気に介護しやすくなりました」(武田氏)

「落ち着いて生活できるようになった」

実際、この施設の介護士からは「ウロウロする人が減っただけでなく、食事の際に落ち着いて過ごせる方が増えたので、介護の負担が大幅に減った」「認知症病棟特有のピリピリとした空気がなくなり、全体的に穏やかで柔らかい環境になった。患者同士のトラブルも減っている」などの驚きと喜びの声があがっているという。

それだけではない。中核症状にまで効果があったというのだ。

「『長谷川式』で評価する中核症状には、一度聞いたこともすぐに忘れてしまって何度も尋ねる、今日の日付や家族の名前がわからなくなる、といったものがあります。

使用開始から9ヵ月後のデータでは、こうした記憶障害などのスコアにも改善が見られました。中には、『長谷川式』のスコアが7点から20点に上昇した方もいました。7点は家族の顔を見てもわからないレベルだが、20点は一人で生活できるレベルです。

何名もの方の認知機能が大きく回復していますが、約2年間のデータを解析した結果、周辺症状は有意に改善し中核症状のスコアも維持されたという結果が出ました」(同前)

こうした結果を聞き、施設に通っている患者の家族が、自宅にスピーカーを設置するケースも増えているという。

「いままでなにか気に入らないことがあると、大声を出していたのが、落ち着いて生活できるようになったという声を聞きます」(同前)

認知症の予防に革命的な結果を出しているスピーカーだが、このメカニズムの元になっている研究がある。

'19年に米マサチューセッツ工科大学(MIT)の神経科学者、ツァイ・リーフェイらが発表した「認知症のマウスに40Hz(1秒間に40回の振動)の刺激を与えると、認知症の原因物質とされるアミロイドβが脳内で減少した」というものだ。

この分野の研究は日々進んでおり、今年1月には、中国における自然科学の最高研究機関である中国科学院が新たな研究結果を発表した。

米国科学アカデミーの発行する世界的な論文誌『米国科学アカデミー紀要』に掲載されたもので、サルを用いた実験でも、40Hzの刺激がアルツハイマー病の治療として有効である可能性を示したのだ。

これまではマウスの実験でしか効果を確認できていなかったが、中国科学院の研究では、高齢のアカゲザルという、ヒトの脳に近い霊長類を用いた。実験ではわずか7日間の刺激しか与えなかったが、それでもアミロイドβが排出されていることを確認。この結果を受けて、脳科学の世界では改めて40Hzの刺激の効果に注目が集まっている。

kikippaはテレビの音をその40Hzに変調し、“ガンマ波サウンド”に加工したことで、アミロイドβを減少させたと考えられている。

このスピーカーを塩野義製薬と共同開発したピクシーダストテクノロジーズのプロジェクト担当者、辻未津高氏が解説する。

「テレビの音を40Hzに変調させてガンマ波サウンドを出す技術は世界初のものです。できるだけ聞きやすいように、テレビの音を人の声とそれ以外の背景音とに分け、背景音のほうにより強く40Hz変調をかける工夫をしています」

スピーカーの音はブルブルと震えるように聞こえるため、最初は違和感があるが、使っているうちに慣れてくる。音を聞くだけなので、副作用もなく、画期的な認知症予防機器と言えるだろう。

「週刊現代」2026年6月22日号より

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