竹中平蔵「沖縄は“基地反対”よりIRと住宅政策が必要だ」玉城デニー県政への厳しい批判「利益は県外と海外に流出」「県民に資産を」

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ホテルは増えている。観光客も増えている。にもかかわらず、なぜ沖縄県民は豊かになれないのか――。その背景にあるのは、観光で生まれた巨額の利益が県外や海外へ流出し、県民のもとに「資産」として残らないという深刻な構造だった。トマ・ピケティ理論を踏まえ、経済学者の竹中平蔵氏が導き出した沖縄再生のカギとは?

【画像】沖縄の経済成長に必要なもの

地方選挙で自民党が連敗

今の日本政治を俯瞰すると、与党が地方選挙で連敗を喫しているという厳しい現実があります。

東京都の練馬区長選挙を見ても、自由民主党、日本維新の会、国民民主党、都民ファーストの会が相乗りし、片山さつき氏や小池百合子氏など有力政治家がこぞって応援に入った極めて優秀な若手・尾島紘平氏が、信じられないような敗北を喫しました。

有権者が求めているのは、永田町の論理で作られた「陣立て」ではなく、自分たちの生活をどう豊かにしてくれるかという「経済のリアリズム」です。

そんな中で沖縄県知事選挙が夏に迫っています。現職の玉城デニー氏が立候補を表明しましたが、今自民党内では対立候補の選定に難航しているといいます。「もしかしたら候補者を立てないかもしれない」という噂も流れています。

迫る沖縄県知事選、また「基地問題」だけを争点にしていいのか

沖縄の政治や選挙となると、メディアも政治家も判で押したように「基地移設問題」ばかりを取り上げます。

確かに安全保障や基地負担の軽減は極めて重要なテーマです。しかし、基地問題という「ワンイシュー(単一争点)」に県政のエネルギーのすべてが吸い取られ、結果として県民の生活に直結する経済問題が完全に等閑視されている現状に対して、私は強い危惧を覚えます。

先日、辺野古沖の抗議船が転覆する事故が起きました。乗船していた修学旅行中の同志社国際高校の女子生徒1名と船長が死亡するという大変痛ましい事故です。修学旅行で高校生が死ぬなど、当然あってはならぬことです。

ただここで冷静に考えなければならないのは、「現場に人を連れて行った(動員した)こと自体の是非」と「現場での安全管理の不備」は、本来別の次元の問題だということです。

事故を起こした安全管理の杜撰さは厳しく問われるべきです。が、運動を主導する側が、参加者や視察に訪れる人々に対して「どのような指導や教育を行っているのか」という点についても調査すべきでしょう。

基地反対を叫ぶイデオロギー闘争の陰で…沖縄が抱える本当の危機

報道によると「一連の内容は教育基本法が禁じる政治的活動に該当しかねないと文科省は判断」(産経新聞)したといい、文科省が学校法人同志社の調査に乗り出しています。

辺野古の美しい海だけを見せて「基地建設はけしからん、自然破壊だ」などと感情的に煽り、危険な海上の抗議現場に人々を動員したというようなことはなかったのでしょうか。

真に沖縄の未来を考えるのであれば、「普天間基地が市街地のど真ん中にあることの異常な危険性」を現場で見せ、その危険を現実的に除去するための苦渋の選択として辺野古移設があるという「複雑で重い現実」を客観的に認識させるべきかもしれません。

もし、バイアスのかかった一方的なイデオロギーだけで人々を煽り、危険な抗議活動の現場へ動員するような振る舞いを行ったのであれば、ポピュリズムの最たるものであり、無責任極まりないと言わざるを得ません。

基地反対を叫ぶイデオロギー闘争の陰で、沖縄が抱える「本当の危機」が放置されています。それは深刻な貧困問題と、経済的自立の欠如です。

沖縄に必要なのは徹底した住宅政策だ

現在、沖縄では外資系企業による高級リゾートホテルの建設ラッシュが続いています。私は経済学者として、外資の参入そのものを「外資の搾取だ」などと頭ごなしに否定するつもりは毛頭ありません。

外資が入ることで新たな雇用が創出され、地元の人々に高い賃金が支払われるのであれば、それはいわば「ウインブルドン現象」であり歓迎すべきプラスの側面を持ちます。しかし、それ「だけ」に依存していては不十分なのです。

問題は、観光で生み出された莫大な利益の大半が県外や海外へと吸い上げられ、沖縄の地元に新たな産業や強固な資産として蓄積されない構造にあります。これでは、県民全体の生活水準を根本から押し上げることはできません。

かつて、沖縄の政治家である下地幹郎氏と議論した際、私は「トマ・ピケティの理論に対する反論(あるいは応用)として、沖縄に必要なのは徹底した住宅政策だ」と進言したことがあります。

ピケティが指摘するまでもなく、経済格差の根本には「資産の格差」があります。沖縄県民の所得を上げるだけでなく、県民が自らの資産(優良な住宅や不動産)を持てるような政策を強力に打たなければ、格差は永遠に固定化します。

玉城デニー県政の責任は、極めて重い

基地反対のシュプレヒコールを上げるだけで、こうした緻密な経済政策・資産形成策を提示できない玉城デニー県政の責任は、極めて重いと言えます。

では、沖縄が経済的に自立し、豊かな県へと飛躍するためには何が必要か。答えは明白です。まずは沖縄が持つ圧倒的な観光地としての価値を、世界最高水準にまで高めることです。

そのためには、インフラを徹底的に整備し、「IR(統合型リゾート)」を誘致すべきです。IRは単なるカジノ施設などではなく、国際会議場(MICE)や高級ホテル、エンターテインメント施設を融合させた巨大な産業集積地です。

沖縄にIRが一つできれば、莫大な税収が生まれ、交通インフラ整備が一気に進み、地元企業のビジネスチャンスは劇的に広がります。世界の富裕層を惹きつける最高峰の観光リゾートとしてのポテンシャルが、沖縄にはあるのです。

ところが、現在の県政トップは、古いイデオロギーに縛られ、IR誘致に手を挙げる気配すらありません。知事が国に手を挙げさえすればすぐにでも具体的な議論が進み、沖縄経済を一変させる力があるにもかかわらず、その最大のチャンスを自ら放棄しているのです。これほど県民の国益・県益を損なう不作為はありません。

自民党、保守陣営の情けなさ

さらに言えば、台湾有事のリスクが高まる中、沖縄が中国に対してどのような距離感を取るべきかという、地政学的な視点すら曖昧になっています。

情けないのは自民党などの保守陣営も同じです。地方選挙で負け続け、沖縄の知事選においても候補者選びに手をこまねいています。

「適任者がいないから下地氏を黙認すればいい」といった消極的な声すら一部で漏れ聞こえる始末ですが、それでは政党の存在意義が問われます。勝敗の行方はどうあれ、自民党は堂々と「経済成長と県民の豊かさ」を掲げるリーダーを立てて、真正面から戦うべきです。

先にピケティの名を挙げ、資産形成の重要性を指摘しましたが、これに関連して興味深い議論があります。スウェーデンの学者ヴァルデンストロームは、住宅資産と年金資産を含めると、格差は拡大していないと言うのです。

この点で注目されるのは、日本全体で持ち家比率は65%なのに、沖縄は35%だと言う点です。資産から見た貧困をなくすために、沖縄の場合は特に持ち家政策を拡充すべきだということが示唆されています。

「基地反対」という耳当たりの良いポピュリズム型選挙から脱却を

「基地反対」という耳当たりの良いポピュリズム型選挙から脱却しなければ、沖縄の貧困問題は絶対に解決しません。抗議船の転覆事故が象徴するような、感情的かつ危険な運動に人々を巻き込む政治はもう終わりにすべきです。

IR推進による圧倒的な経済成長、徹底した住宅政策による県民の資産形成、そしてアジアのダイナミズムを取り込む冷徹な成長戦略。それを示すことこそが、真の政治の役割です。

日本全体が「失われた30年」から抜け出せない中、沖縄はその縮図であると同時に、現状を打破する最大のフロンティアでもあります。不毛なイデオロギー闘争を終わらせ、「経済のリアリズム」で県民を豊かにする強いリーダーシップの登場を、私は切に願っています。

文/竹中平蔵