私って誰からも相手にされないんだ…「マッチングアプリ」で“自己肯定感”をサゲる人が急増中 倫理観の高いユーザーほど真剣に悩んでしまう「マチアプ」のメカニズムとは
“マチアプ”と略称されるマッチングアプリが、ロマンス詐欺の狩り場、草刈場となっている。20代のネットユーザーの半数が利用した経験があると言われ、すでにあらゆる世代から「普通のアプリ」として市民権を得ているマチアプ。世界で推計3・8億人が利用しているとされ、わが国での利用者は、1000万人から2000万人の間と推定されている。【井上トシユキ/ITジャーナリスト】(全3回の第1回)
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マチアプでの詐欺で再び脚光…【写真を見る】札束の写真も生々しい「りりちゃん」作成の“頂きマニュアル”の現物…数々の被害男性をトリコにしたプライベート動画も
実数がはっきりしないのは、マチアプを利用して恋人やパートナーを得られたユーザーのうち、日本では80%程度が複数のアプリを同時に利用していたとのデータがあるためだ。したがって、利用者数を公表しているマチアプのデータから推しはかるしかない。

50歳時の未婚率(生涯未婚率)が男性約28%、女性約18%、20代で交際相手がいない男性は7割、女性で5割にのぼるとされるなか(註1)、わが国の労働人口の20%程度が利用しているマチアプは、決して珍しいものでもないことは確かだろう。
ネット上の広告でも頻繁にお目にかかるほど普通の存在であるマチアプだが、利用すればするほど「自己肯定感が下がる」という悩みがユーザーの間で急増していることは、あまり知られていない。
一例として、ここ数年のQ&Aサイトでの投稿を挙げてみる。
「マッチングアプリやってると自己肯定感下がる気がします。私だけでしょうか??」(女)
「マッチングアプリですごく病みました。どうしたら立ち直れますか?」(女)
「マッチングアプリにて。生きる自信が無くなりました、、」(男)
「フツメンの男ってマッチングアプリやる意味無くないですか?」(男)
「マッチングアプリやってると自尊心傷つきませんか」(不明)
「マッチングアプリをするととんでもなく自己肯定感下がりませんか?」(不明)
マチアプの実態は「戦場」
読むほうも鬱々としてくるが、実際のところ、「自己肯定感がなくなり心がボロボロ」「自分が敏感すぎるのだけなのか」「自意識過剰なのか、だとしたら恥ずかしい」といった、マチアプにまつわる自分を責めるかのような悩み相談や告白は、Q&Aサイトに限らず少し丁寧にネット上を探せばいくらでも見つけられる。
マチアプの利用で自己肯定感を喪失するメカニズムとは、どのようなものなのか。
マチアプユーザーである40代から60代の男女に話を聞いたことがあるが、マチアプとは「セルフプロデュース、セルフブランディングの戦場である」と異口同音に話していて驚いた覚えがある。
マチアプで公開されているプロフィールは、昔のお見合いで使われた釣書、身上書とは似て非なるものであり、「いいね!」をもらってマッチするために捻り出された「設定書」でしかないわけだ。
しかし、他人の気を惹くキャラ設定など、一般人がそうそう思いつくものでもない。そもそも、現実の自分とはあまりにかけ離れた設定を堂々とうそぶくことは、履歴書や身上書を偽ることと同じく、一般的な道徳観や倫理観を持った人にはハードルが高い。
有料で「モテ指南」
そこで、動画サイトやSNSのグループ機能などで、男女それぞれの目線から異性ウケの良いプロフィール作成や画像撮影を指南しているアカウントの情報に頼ることとなる。
そうした指南役は、無料でもある程度の「モテの方法論」を教えてくれる。画像はこう撮りなさい、最初の挨拶はこう書きなさい、初回のデートに誘う時の服装、話し方はこうしなさい。
無料では、ネットを検索したらいくらでも見つかるのではないかと疑うような、ごく一般的なノウハウしか得られないようだ。
「これまでに多数のマチアプ勝ち組をプロデュースした」といった惹句に応じて有料会員となれば、各々の希望や願望に沿ってオーダーメイドのアドバイスもしてくれるという。
その実態は、どのようなものなのか。
1万円程度の金を払って助言を受けたことのあるユーザーは、冷静になった後に引いて見た感想を語ってくれた。曰く、それなりに気づきや役に立つ話もあったが、投資の情報商材と似たような内容だと感じた……。
つまり、一般向けの心理学の本でも読んで、自分の頭を使って少し考えれば、誰でも思いつくレベルのものだったということだろう。
下がり続ける自己肯定感
セルフプロデュース、セルフブランディングの戦場においては小手先の技が通用するはずもなく、いつまで経っても「いいな」と思える相手となかなかマッチしない。アプローチしても返信が来ず、たとえ返信が来て初回の会う約束をしてもバックレを食らう。やっとのことで会えたとしても、フェイドアウトされてその後が続かない。
見映えがするポートレート画像を掲載していたり、学歴や職歴がキラキラしているユーザーには「いいね!」がたくさん付いている。なのに、自分のところにはまるで反応がない。アプリ上で1対1のやり取りを始めて頑張ってみても、すぐに途切れて終わってしまう。
何かまずいことをやらかしてしまったのだろうか。やっぱり、イケメンや美女でないと選ばれないのだろうか。
ないない尽くしの状態にさらされ続けて、とうとう他人から拒絶されていると受け止めてしまう。「自分は評価の低い人間だ」「魅力がなく必要とされていないのだ」などと思い詰めたあげく、いつしか自己肯定感が下がっていく。
実は、警察庁が「SNS型投資・ロマンス詐欺」と分類するなかで、3分の1にあたる被害がマチアプでの出会いに端を発している(註2)
これは詐欺師が自己肯定感が下がりきった「普通のマチアプユーザー」を狙ってアプローチをかけ、被害者に「この人こそ、運命の人かもしれない」と思わせ、すがる気持ちにつけ込んで詐欺を仕掛けるからだ。
第2回【「ロマンス詐欺」被害の3割は“マッチングアプリがきっかけ”…やっと出会えた理想のパートナーが「詐欺師」という悲劇の実態】では、詐欺師が跋扈するマチアプのリアルな実態について詳しくお伝えする──。
註1:こども家庭庁「結婚に関する現状と課題について」令和6年
註2:令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)/警察庁
井上トシユキ(いのうえ・としゆき)
1964年、京都市生まれ。同志社大学文学部卒業後、会社員を経て、98年からジャーナリスト、ライター。IT、ネット、投資、科学技術、芸能など幅広い分野で各種メディアへの寄稿、出演多数。
デイリー新潮編集部
