25歳で引きこもりの長女の安否は…57歳医師と看護師夫婦が知った、長女にしのびよる「魔の手」と「救いの手」
「人間関係のトラブル、さまざまなハラスメント被害などから心の病になり“引きこもり”状態になる人もいます。中には親子関係が良好でないことが原因となり、引きこもる人も。別居している親から“子供の様子を見てほしい”という依頼も増えています」こう語るのは、キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さん。彼女は、メンタル心理アドバイザー、夫婦カウンセラーの資格を持つ。
山村さん連載「探偵はカウンセラー」は、山村さんが心のケアをどのようにしていったのかも含め、さまざまな事例から、多くの人が抱える困難や悩みをあぶりだしていく。個人が特定されないように配慮をしながら、家族、そして個人の心のあり方が、多くの人のヒントとなる事例を紹介していく。
今回山村さんのもとに相談にきたのは、57歳の看護師・里香さんと同じ年の医師の夫だ。18歳で上京した娘が、現在25歳で、東京で引きこもり生活をしていることを心配し、調査を依頼した。
100万円の上限を決めて調査開始
里香さん夫妻は、娘に「自立し、家庭を持ち、女性としてまともな人生を送って欲しい」と思いながら厳しく育てました。その厳しさは、里香さん夫婦の理想に当てはめるものだったようで、旧来の性的役割分担を押し付ける里香さん夫妻に娘は反抗し、高校卒業後、単身上京します。同居するのは、夫の姉で、娘にとって伯母にあたるマオさん(仮名)です。上京と同時に、里香さん夫妻とのLINEをブロック。
その後の娘の消息はマオさんから電話で聞いていました。娘は上京初期、恋人に100万円を貢いでしまったり、ソウルメイトの男性と不同意のまま性交をしてしまいアフターピルを服用するなど、恋愛がうまくいかず、引きこもり状態に。
夜の仕事をしているマオさんはそんな娘を見守っていましたが、1年前に65歳という若さで自宅で死去。娘はマンションを相続し、そのまま住んでいますが、実際の生活の様子が全くわからない。訪問や届けたお菓子も拒否され、お手上げ状態の里香さん夫妻は「今の姿を知りたい」と調査を依頼してきました。
里香さん夫婦には、医大に通う22歳の次女がいますが、調査対象者の長女との関係は悪くないものの、親しいわけではないようです。
里香さん夫妻は「いくらかかってもいい」と言っていましたが、ものには限度があります。これまで、引きこもりやDVで監禁されている人を心配した親族から、行動調査の依頼を受けましたが、家から出ない人の調査は、際限がありません。100万円の上限を決めて、調査に入りました。
引きこもりの人の調査はできるのか
娘が住むマンションは繁華街近くにある、外廊下の古いタイプの分譲マンション。現在の姿を知らなくても、部屋番号から特定できます。また、24時間出せる共同のゴミ置き場にいくのにも、一度エントランスから出なければならないので、チェックもしやすいです。
娘が住む部屋が見える位置に遠隔操作ができるカメラを仕掛けて、私たちは待機。ひとまず、ゴミを出したり、買い物に出るタイミングを狙いましたが、2日間は全く動きがありません。
夜11時半すぎにやってきた男性
動きがあったのは、3日目の夜11時30分。30代前半と思しき、背が高くガッチリした体格の男性が娘の家のドアを開けて、開けて入っていきました。ハイブランドのTシャツを着ており、かなりコワモテな印象です。
それから、すぐに男性は大きなゴミ袋を3つ抱えて、捨てに行きます。そして、コンビニに行き、強いアルコールのドリンクを10本、避妊具、菓子を購入し、再び娘の部屋へ。ここはオートロックのエントランスなので、外部の侵入が難しい。
明け方3時30分に男性が出てくると、玄関まで送り出してくる娘の姿の撮影に成功。伸ばしっぱなしのロングヘアと、外線を浴びていない人特有の病的な青白さの肌が印象的でした。細い腕にはリストカットの跡があります。これはかなり心の病は悪化しているのではないかと感じました。メンタルケアが必要です。
男性は玄関先で娘にキスをしており、娘は男性の首を抱きしめている。エレベーターに向かいかけた男性をドアの隙間から呼びかけ、男性にハグしてもらっていました。
娘の相手は「よき夫、よき父」
男性の後を追ったところ、タクシーで埼玉県内にある建売一戸建てに帰宅。朝、7時30分に子供たちが学校に行き、妻が出勤。男性は9時に家を出て、1時間ほどかけて新宿にあるオフィスビルへ。エレベーターが止まった階の会社名を検索すると、企業向けの動画制作の会社でした。サイトを見ると、男性は制作のチームリーダーとしてのインタビューが載っています。そこには「休日は子供たちと遊びクリエイティブの刺激を受けている」と書いてあります。
男性の名前から、男性のSNSのアカウントを特定。Instagramには、2人の子供と妻の写真が掲載されており、友達家族とのキャンプやバーベキューなど、よき夫、よき父っぷりがアップされています。このタイプは、何かあるとSNSに上げる行動パターンを持っていると推測。
よき父親の「別の顔」
そこで、特定に詳しい探偵に依頼し、この男性の裏アカウントの割り出してもらったところ、関係を持った女性とそのテクニックを誇示する、隠語だらけのアカウントがあることがわかりました。「営業スキル向上も兼ねてスト界隈(ナンパ)に参戦。地蔵(女性を前にして固まってしまうこと)完封し最短ルートで即り(性交渉をする)まくる」とあり、そこには娘と思しき人も出ています。写真こそありませんが、体の描写からそうとわかる。「直案件」とあったので、SNSのダイレクトメールでナンパしたことがわかりました。
その後、このアカウントを追っていると、「麺案件(精神的な病を抱えている女性との関係)即(性交渉をすること)。依存度えぐすぎの濃厚決済」とあります。娘がどのような気持ちで、この男性と関係を持っているか、想像すると切なくなると同時に、娘は精神科かカウンセラーにかかった方がいいと心から思いました。
別の日に訪れたのは…
翌日も動きはなく、宅配の荷物を受け取る姿を撮影したのみ。娘は、ほぼ家から出ず、買い物はネット通販で済ませていることがわかります。
6日間の調査を行い、「あと1日」と張り込みを続けたところ、7日目の朝、髪が真っ白な男性らしき人が合鍵で中に入っていき、ゴミ袋を捨てたり買い物に行ったりしています。この人の後を追うと、同じマンションの別フロアの部屋に住んでいることがわかりました。
里香さんに報告したところ、「その方に、娘のことについて聞いてみてください」と返事がありました。すぐに私たちが会いに行ったところ、すぐに会ってくれて、夫の姉と50年以上の友人だと教えてくれたのです。「私はマオに救われたの。マオもあの子を心配して、私に託したのよ」と言っていました。そこで私が「精神科かカウンセラーにかかった方がいい」と言うと、「私の言うことなら聞くと思うので、今度連れて行く」と言ってくれたのです。
この方は、70歳の現在も自分の店を営業し続けていますが、かつて大手企業に勤務していたとのこと。40代後半でストレスから退職し、2年間の引きこもりの経験があり、娘に寄り添う気持ちがあることを話してくれたのです。ただ、里香さん夫妻から直接連絡してもいいかと尋ねると、「遠慮させて、あの女の話が長くてしつこくて、マオも迷惑していたから」と言っていました。
次女からのLINE
以上を報告すると、里香さん夫妻は涙を流しながら「元気でよかった」と手を取り合って喜んでいました。70代の方については、継続的な関係でない様子なので安心していた様子です。里香さんの夫は「この方を信じて待つしかないのですね」と話していました。
それから半年後、里香さんから連絡があり、「次女から『姉ちゃんと住む』とLINEが来ました」とかなり嬉しそうです。
「娘は男性の勧めでカウンセリングに通うことを決めましたが、どこに行けばいいかわからない。そこで娘が医大生の次女に連絡したのです。相談するうちに、姉妹で通じ合ったらしく、マオさんの家で同居を決めたそうです。そうしてくれると、私たちも本当に嬉しいし、お金の面でも助かる。あと不適切な異性関係がなくなることが安心します」
お話を聞いていると、里香さんは長女の恋愛すべてを「不適切な異性関係」ととらえてきたのではないか、学歴などで良し悪しを決めるのではないかという思いもよぎりました。マオさんやその友人のように、他人の痛みに寄り添う人もいれば、性行為をしたうえでSNSに心無い言葉を書き込むあの「よき夫でよき父」のように利用しようとする人もいるのが現状です。この「よき夫でよき父」は、自分の子どもが同じようにされたらどのように思うのだろうと感じました。そういう不適切な関係から逃れられるのは素晴らしいことだと思いますし、「する人たち」の意識が変わることも大切かもしれません。
長女はカウンセリングに通いつつ、人間関係があっさりした職場のIT関連会社の仕事を見つけ、週2程度で働きながら、引きこもり生活を脱しつつあるとのことでした。これから姉妹で生活すれば、お互いが刺激し合い、良い状態になっていくはずです。
ただ、ここで里香さん夫妻が過度に介入してしまうと、関係性が崩れてしまいます。里香さん夫妻はこれまでの経験から、見守るという「娘の選択を尊重する」という姿勢を崩さず、お互いが自立した関係につながって行くのではないかと感じました。
今回の調査費用は80万円(経費別)です。
