原子1個分の隙間が次世代半導体開発の障壁に

ウィーン工科大学の研究で、次世代の超小型コンピューターチップに使う材料として期待されている二次元材料が、実際のデバイスでは思わぬ制約を受ける可能性があることが明らかになりました。問題となるのは、材料と絶縁層の間にできる原子レベルの隙間で、その大きさは約0.14ナノメートルと極めて小さいものの、半導体デバイスのさらなる小型化を妨げる要因になり得るとのことです。
https://www.science.org/doi/10.1126/science.aeb2271

The hidden atomic gap that could break next-generation computer chips | ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2026/05/260508003125.htm
近年、次世代の半導体材料として、グラフェンや二硫化モリブデンなどの「二次元材料」が注目されています。二次元材料は原子1個〜数個分ほどの厚さしかなく、トランジスタをさらに小さく、高効率にできる可能性があると考えられています。
一般的なトランジスタには、電流のオン・オフを制御するゲート電極があります。ゲート電極は半導体材料に直接電流を流すのではなく、絶縁層を挟んで電界をかけることで、半導体中の電子の状態を制御します。そのため、絶縁層には電流を遮断する役割だけでなく、ゲート電極の電界を半導体層へ効率よく伝える役割もあります。
ところが、二次元材料と絶縁層を組み合わせると、両者は主にファンデルワールス力によって弱く接するため、界面に「ファンデルワールスギャップ」と呼ばれる原子レベルの隙間ができます。この隙間は約0.14ナノメートルで、硫黄原子1個よりも小さい距離ですが、電気的には無視できない影響を持ちます。
このファンデルワールスギャップは、電子が量子力学的なトンネル効果で通り抜ける際の「トンネル障壁」として働き、ゲート電極から半導体層へ漏れる電流を減らす面もあります。しかし同時に、この隙間は低誘電率の余分な層としても働き、ゲート電極と二次元材料の容量結合を弱めます。言い換えると、絶縁層を薄くしてゲート制御を強めようとしても、界面にこの隙間が残る限り、電気的には余分な厚みが加わったように見えてしまうということです。

グラッサー氏らはこの隙間によって、ゲート絶縁層の電気的な薄さを表す指標である等価酸化膜厚が約0.27nm増えると説明しています。これは原子レベルではわずかな差ですが、極限まで小型化された半導体デバイスでは大きな影響になります。材料そのものの特性が優れていても、絶縁層との界面にこの隙間があるだけで、ゲート制御が弱まって性能向上に限界が生じる可能性があります。
グラッサー氏らは隙間がデバイスの小型化に与える影響を定量化し、材料の特性がどれほど優れていても界面に残る隙間の影響で将来の半導体の微細化に必要な水準を達成できない可能性があることを示しました。グラッサー氏らは「隙間が存在する限り、根本的な限界が生じる」と指摘しています。
グラッサー氏らは、代わりに「ファスナー材料」を解決策として提示しています。これは二次元材料と絶縁層を単にファンデルワールス力で弱く接触させるのではなく、互いにかみ合うようにより強く結合した界面を作ることで、問題となるファンデルワールスギャップそのものをなくすという発想です。
グラッサー氏らは「避けられない絶縁層の問題を考慮せず、材料そのものだけに注目すると、根本的な物理的制約のある技術へ誤った投資をしてしまう危険がある」と述べています。
